7 / 39
第2話 カフェタイムの再来店(1)
「いらっしゃいませっ。『ラング・ド・シャ』へようこそっ」
「「「「「「「「にゃ~っ!」」」」」」」」
「今日も、邪魔をするぞ。席は昨日と同じく、ここにしておこう」
翌日の、午後2時7分。あの美男さんが、今日初めてのお客様として来店してくださった。
そう。
今日、初めて。
前の日は街で大盛況だったのに、0……。沢山の人が絶対にすぐ行くよって言ってくれたのに、0……。
商売に関するショックは、義妹達からのイジワル耐性は適用されなくって……。疑心暗鬼になりかけていたので、約束を守ってもらえて嬉しいです……!
(……此度の来訪は、カフェタイム外になると想定していたのだがな。俺としては好都合なのだが、ふむ。試食後の不人気は解せんな)
「??? お客様?」
「単なる独語だ。……うむ。うむ……っ。貴様らは相変わらず、他の猫とは一味違う。なかなかに愛くるしいな」
美男さんはみんなを順番に撫でて座り、左右の肩に2匹ずつ、左右の膝に2匹ずつ乗せて、メニューを広げる。
この人……っ。乗せ方を研究してきてる……っっ。
「メニューは、相変わらず豊富だな。この店の自慢は、ふむ。特製スフレパンケーキか」
((ええそうなんですっ! 美味しいですよっ、特製スフレパンケーキっ!))
お母様が一番得意とした、あたしの大好物。フワフワでシュワっとするパンケーキを、キャラメルソースとホイップクリームでいただく至高の一皿。
イラストを見てると、食べたくなりませんかっ? 今ならなんとオープン記念で、200G引きの600Gですよっ?
「…………店主よ。昨夜はこれを、民に提供したのだったな?」
「はっ、はいそうです。ご存じということは、もしかして。お客様は、あの周辺の住人さんなのですか?」
「そのようなものだ。…………現況を解明するのは、これが適当か。店主よ、特製スフレパンケーキを一つ頼む」
「特製スフレパンケーキですねっ? 畏まりましたっ!」
流石ですっ。お目が高いですっ。
初めてスイーツ系の注文で舞い上がったあたしは、心の中で拍手とお辞儀をしながらキッチンスペースに入る。
((まずは、しっかりと手を洗って……。次は、食べてくれる人の姿を焼き付ける))
「キジよ。貴様は、俺の右肩に座りたそうにしているな? よいぞ。その間ミケは、左の膝に来るといい」
「ははは。はははははっ。耐性の塊でもあるこの俺を、無意識的に魅了してしまうとはな。純真無垢な貴様らの『スリスリ』は、ほんに恐ろしい」
食べてくださる人は、別人の如き喜色満面のを浮かべて時々意味不明なことを言っている。
……やっぱり、色々と気になるけど……。それは忘れて調理に集中っ。
ボウルに卵黄や牛乳を入れて泡立て器で混ぜて、そこに薄力粉達を投入。丁寧に振るい入れたら更に混ぜ合わせ、もう1つボウルを使って卵白を混ぜ混ぜ。
しっかり泡立てたらボウルその1にその2の『3分の1』程度を加えて混ぜ、そのあと残りを加えて『さっくり』と混ぜる。
あとは無塩バターを引いたフライパンに生地を流し込み、表面を焼いた後、2分半~3分間蒸し焼きにしたら出来上がり。お皿に2つのパンケーキを盛りつけ、同時進行で用意しておいたホイップクリームとキャラメルソースをたっぷり添えたら完成ですっ。
「お客様、お待たせいたしました。当店自慢の一品、『特製スフレパンケーキ』でございます」
「独りであの手際、なかなかのものだったぞ。ところで――。この店は全てを、注文してから作るのだな」
「キャラメルソースなど準備に多くの時間がかかるもの以外は、オーダーを受けて調理致します。それが母から教わった、自分の料理に対するポリシーですので」
「ふむ。効率や損得ではなく、意思を貫くか。ますます面白いではないか」
美男さんは僅かに口角を吊り上げ、そんな口にパンケーキが吸い込まれてゆく。
ドキドキ、ドキドキ。必然的に、心音が加速する。
昨日食べてくれた人達は、美味しいと言ってくれたけど……。この人は、どうなんだろう……?
あなたにおすすめの小説
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
愛を知った私は、もう二度と跪きません
阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。
家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。
「呪われた男にでも喰われてこい」
そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。
彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。
その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。
「エカテリーナ様、どうかお助けを!」
かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。
殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?
なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。
干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。
舞踏会の夜。
聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。
反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。
落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。
水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。
レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。
やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。
支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。
呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。
――公開監査。
記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。
この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。
これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。
『お前のためを思って言っている』が千回記された日記帳が、社交界に流出した件
歩人
ファンタジー
「お前のためを思って言っている」「普通はこうだろう?」「お前が悪いから怒るんだ」——ディートリヒ侯爵子息は、婚約者のカティアにそう言い続けた。3年間、毎日。カティアは日記をつけていた。恨みではない。「何が普通なのか」を確かめるために。日記には日付と、彼が言った言葉だけが記されている。感想も解釈もない。ただ事実だけ。婚約破棄の場で、カティアは日記を読み上げなかった。ただ、茶会で親しい令嬢に見せただけだ。令嬢たちは青ざめた。「これ、全部言われたの?」日記は写本され、社交界に広がった。ディートリヒ本人は「何がおかしいのかわからない」と主張した。——それが一番怖いのだと、誰もが理解した。
「お前の看病は必要ない」と追放された令嬢——3日後、王子の熱が40度を超えても、誰も下げ方を知らなかった
歩人
ファンタジー
「お前の看病などいらない。薬師がいれば十分だ」
王太子カールにそう告げられ、侯爵令嬢リーゼは静かに宮廷を去った。
誰も知らなかった。夜ごとの見回り、薬の飲み合わせの管理、感染症の予防措置——宮廷の健康を守っていたのは薬師ではなくリーゼだったことを。
前世で救急看護師だった記憶を持つ彼女は、辺境の診療所で第二の人生を始める。
一方、リーゼが去った宮廷では原因不明の発熱が蔓延し、王太子自身も倒れる。
迎えに来た使者にリーゼは告げる——「お薬は出せます。でも、看護は致しません」
旦那様、本当によろしいのですか?【完結】
翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。
なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。
そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、
「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」
突然夫にそう告げられた。
夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。
理由も理不尽。だが、ロザリアは、
「旦那様、本当によろしいのですか?」
そういつもの微笑みを浮かべていた。