婚約者にも家族にも裏切られたので、小さな村でモフモフカフェを開くことにしました

柚木ゆず

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第3話 ラング・ド・シャの弱点?(2)



「うむ、その通りだ。貴様が手を抜けば、売り上げはあがる。……経営者としては、この上なく愉快な話だな?」

 二つの漆黒の下にある口元が不気味に緩んで、お客様の顔がぐっとあたしの顔に近づく。

「楽をすれば経営がよくなる。通常とは異なり、労力と収入が反比例するのだ。…………なあ、店主よ。明日以降、力を抜いて作ってはどうだ?」
「……………………」
「世の中は結局、金が物を言う。金が少なければ苦労をし、逆に多ければ幸せが訪れる。その日々を、薔薇色に染めたくはないか?」
「……………………そう、ですね。やっぱり、お金は欲しいです」

 お金があれば、色々なことができるんだもん。欲しい気持ちは、当然ある。

「そうだろう、そうだろう。したらば、この機会にだ。貴様も、その信念を変えてしまって――」
「だけど、それはできません。ワザと手を抜くのは嫌ですし、わざわざ来てくださったお客様に失礼ですから」

 数あるお店の中から、選んでくれた方達。そんな人に全力を注がないのは、失礼。お店失格。
 それにその信念は、お母様からもらったもの――とても、とっても大切なもの。ずっとずっと、守っていきたいんだよね。

「……店主よ。売り上げが増えれば、貴様が愛する家族も豊かになるのだぞ? そうしなかったことによって、やがて貴様は――この8匹が、路頭に迷うやもしれんのだぞ?」
「その『差』は、努力でどうにかします。パンケーキが通用するなら、試食会の範囲を広めてもっと多くに認知してもらうなどなど、お客さんの数を増やして補います。……あたしはもう、大切な家族を失いたくはありませんから。何があっても、この子達を悲しい目には遭わせませんよ」

 その覚悟は、みんなを拾った時にしている。
 絶対、に。そんな未来にはさせない。

「あたしは――『ラング・ド・シャ』はこのままのスタイルで、だけど末永く営業できるようにします。お客様に教わったばかりのあたしが言うと、それこそ荒唐無稽かもですけど。必ず、そうします」
「……………………くっ、くくくくっ。ははははははっ。そうかそうかっ。やはり貴様は、そう答えるのだなっ!」

 美男さんは漆黒の目を細め、心底愉快な様子で喉を鳴らす。
 え? やはり?

「魅力的な事実と『俺の眼』を前にして、こう言い切るとはな。実に愉快だ。見事だ。ますます気に入ったぞ!」
「は、はい。ど、どうもありがとうございます」

 よく分からないけど、褒めてくれてることは分かる。なのでとりあえず両手を前で揃えて、頭を下げてみた。

「貴様の存在も含め、俺はこの店のファンになった。明日からも引き続き、毎日邪魔をさせてもらおう」
「「「「「「「「にゃっ!?」」」」」」」
「ほんとですかっ!? 嬉しいですっ!?」

 リピーターになってくれるだけでも幸せなのに、毎日通ってくれるなんてっ。おもわずみんなとハイタッチをして、小さくピョンと跳んでしまった。

「俺としても、この出会いは嬉しい誤算だ。……こういう者が稀に現れる故、人間界は、人間という生き物は、面白い」
「えっ? 今、何ておっしゃいましたか?」
「なに、他愛もない独語だ。明日以降は活気づく故、今度こそ人気(ひとけ)を避けて来るとしよう。店主、ミケ、サバ、チャ、キジ、グレ、サビ、シロ、クロよ。またな」
「はいっ。お待ちいたしておりますっ」
「「「「「「「「うにゃ~っ!」」」」」」」」

 そうしてお客様はお帰りになられて、その日はこの方が最後のお客さんとなったのだけど――。あたし達に落胆はありませんっ。

 カフェ『ラング・ド・シャ』、オープンして5日目。
 ついに常連さんができて、しかもっ。今度こそ、大盛況の予感ですっ!





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