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第4話 大盛況なラング・ド・シャ(2)
「この時間になっても、コーヒーとパンケーキの質は遜色なかった。貴様の姿勢は、目を見張るものがあるな」
オリジナルブレンドと、特製スフレパンケーキ。1回目と2回目の来店の際に注文したものを食べ、飲み終わると、美男さんは感嘆の息を小さく吐きました。
もちろん今日も8匹全員をはべらせて? いて、お料理を待っている時は『うむ、貴様らも奮闘したようだな。明日褒美を持ってきてやる故、楽しみにしているがいい』や『どれ、毛づくろいをしてやろう。順番に並ぶがよい』と、モフモフ天国をとても満喫されていました。
「この様子ならば、人気店となる日はそう遠くないだろう。確か昨日も、パンケーキを振る舞ったのだったな?」
「はい。前回とは違う場所で、試食会を開きました」
昨日言っていた『差』を埋めるため、昨夜は違う場所で行った。こうやって沢山の人に知ってもらえたら、心を込めても売り上げを上げられるのです。
「今日は材料の残量の関係で出来ませんけど、明日からは最低でも隔日で実施します。経営が安定するまでは、安心せず宣伝をしますよ」
「となると、2~3週間後には『大きく動き出すこと』になるだろうな。その結果、平静がなくなってしまうが…………それはそれで、良い時間を過ごせるというものか」
美男さんはあたし達と空のお皿を順番に眺め、トレーに1000G札を置いて身を翻した。
「また明日も、タイミングを見計らって邪魔する。店主、ミケ、サバ、チャ、キジ、グレ、サビ、シロ、クロ、また会おう」
「「「「「「「「にゃっ! うにゃ~っっ!」」」」」」」」
「はいっ。またのご来店、心よりお待ちしております――あっ、お待ちくださいっお客様っ! 名刺を落とされましたよっ!」
お札を取り出す時に、美男さんとあたし達の死角に落ちたんだと思う。床に落ちていた『魔石商』『アルド・カーチス』とある名刺を拾い上げ、両手でお渡しした。
「ああ、それはこの後の仕事で使うものなのだ。運悪く最後の1枚だった故、助かったぞ」
「お助けできて、よかったです。ただ……。拾う際に、紙面が目に入ってしまいました。申し訳ございません」
「落し物を見ずに拾う方が難しく、そもそも此度のものはこちらのミスだ。謝罪の必要はない」
常連様は小さく首を振り、そのあと「いい機会だ」と続けた。
「ここにいる男はその字の通り、魔石商を営んでいるアルド・カーチスだ。『デモン商会』を、知っているか?」
「あっ、当たり前じゃないですかっ! 知らない人なんていませんよっ!」
火や水や雷など様々なエネルギーを発生させられる不思議な石、魔石。デモン商会はその魔石の供給を一手に引き受けている、この世界で唯一の魔石商。したがってデモン商会がなくなれば生活の水準が一気に下がってしまう、この国では王家以上に重要な存在なのだ。
「ならば、話は早い。俺はその組織で、商会長を務めている」
!? ぶぇっ!?
この方は何気なくサラッと衝撃的なことを仰り、お顔の前で人差し指を立てる。
「我が素性は仕事の関係者、それも高位のものにしか把握させておらぬ。杞憂だとは思うが、くれぐれも広めてくれるなよ?」
「もちろん、心に留めておきます。それにしても、カーチスさんはあのデモン商会の方だったのですね……。しかもトップだなんて――ってすみませんっ。勝手にお名前を呼んでしまいましたっ」
「構わぬ。……そういえば。名を呼ばれて気が付いたが、こちらも知らなかったな。店主、貴様はなんと申す?」
「サーラ。サーラ・ソリテールと申します」
お父様に縁を切られたため、姓はお母様のもの。今のあたしはブランではなく、ソリテールなのだ。
「サーラは、大好きなお母様がつけてくれた名前なんです。よろしければ、サーラとお呼びください」
「うむ、そうしよう。ミケ、サバ、チャ、キジ、グレ、サビ、シロ、クロ、そしてサーラよ。また邪魔をする」
そうしてカーチスさんはお帰りになられて、やがて、もう一度この方の予想は的中することになります。
あの日から日ごとにお客様の数が増えて、オープンして22日目に『大きな動き』がありました。
『わたくしは、地元紙「ネイスズ」の人間でございます。本日は、取材の御依頼のため伺いました』
地元の新聞がウチに興味を持ってくださって、次の日の夜に取材を受けることになったのです。
新聞はほぼ全ての家が取っているから、宣伝効果抜群。更に集客する、絶好のチャンスの到来です!
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