最愛の人と弟だけが味方でした

柚木ゆず

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プロローグ アリシア視点

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「アリシア・マチエス様。ずっと、貴方のことが好きでした」

 それは、とあるパーティーでの出来事でした。満月の光に照らされる中庭で、私はエザント商会のご子息ユリス様に告白をされました。
 私達の家は同じ規模の商会を持つためパーティーなどでご一緒する機会が多く、ユリス様はずっと気になってくださっていたそうです。

「叶うならば俺は、貴方と人生を歩みたいと思っております。……よろしければ、お付き合いをしてくださいませんか? 恋人に、なってはいただけないでしょうか?」

 片膝をつき、私を見上げてくださるユリス様。
 静かな風によって揺れる、背中の中頃まで伸びた銀髪。月光を受けて煌めく、真摯な内面がよく表れたブルーの瞳。
 いつも目で追っていたお姿が、目の前にありました。

 ――私アリシアも、ずっとユリス様を好きだった――。

 初めて参加したダンスパーティーで優しくリードしてくださったり。誰に対しても平等だったり。知れば知るほど良い面ばかりが見えてくる、珍しい方。
 なのでユリス様は私の初恋の人で、そんな人と両想いだったのだと分かったのですから、こんなにも幸せなことはありません。

 ――ですが――。

 ……私は、伸ばされたその手に触れることができません……。


『アリシア姉様。姉様のぬいぐるみ欲しいの。ちょうだい』

『姉様の部屋にあるネックレス、よく見ると綺麗だよね。姉様なんかに・・・・・・つけられてたら、可哀想だし。あたしがもらってあげるわ』


 私が一瞥した、視線の先――。建物内会場にいる私の17歳1つ下の実妹サーシャは、私が気に入った物に興味を持ってしまう変わった子。
 そして両親はそんなサーシャを溺愛していて、いつも妹の味方。断るとなぜか私が怒られ、平手打ちなどをされて、

『父さんっ、母さんっ、サーシャ姉さんっ、やめてあげてよっ! 今はアリシア姉さんは何も悪くないでしょっ!』

 唯一の味方である弟ダニエルが抗議してくれるものの、両親は聞く耳を持たず……。その全てを、奪い取られてきたのです。

 ――なので――。
 もしも、ユリス様と恋人になったら……。


『姉様の恋人、カッコイイよね。頂戴』


 必ず興味を持って、狙われる。
 幸いにもユリス様はこんなことを許せない方なので、心変わりはないのですが……。自分のものにならないと分かれば、

『サーシャの夫にならないのならば、結婚は認められん。わたしが断りを入れておこう』
『上手くやれば、もっと格上の商会の子どもと縁を持てるかもしれないもの』

 お父様とお母様が即座に動き、『親の判断』という卑怯な武器を使う。
 私はマチエス家の子どもなため、逆らうことができず……。それは現実のものとなってしまい……。ユリス様に、様々なご迷惑をかけることになってしまうのです……。

 だから……。
 だから…………。

「私は、貴方の妻に相応しい人間ではありません。……申し訳ございません、ユリス様……」

 嘘を吐いて傷つけてしまうことを、心の中で謝りながら……。
 大好きな人に対して、深く頭を下げたのでした…………。



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