裏切られた令嬢は、自分になりすました従者から婚約者を守るため走る

柚木ゆず

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5話 必然のトラブル、発生(1)

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「あの方の予想通りね。アンタ、アリス・ワールなんでしょ?」

 あれから3時間と少し。道程にある最後の村に入ってすぐ、三匹の三毛猫に取り囲まれた。
 黒猫になってる私を見て、本名を言えた。この猫達は、普通の猫じゃないわね……。

「ええ、そうよ。そういう貴方達は、誰?」
「あたしらは、エルサさんに雇われた者よ。アリス・ワールが来たら途中で足止めをして、と頼まれたね」

 この三匹――三人は、私の邪魔をする存在。所謂、刺客というもの……。

「お城へは、どうしてもこの村を通る必要がある。だからエルサさんはアンタの思考を予測して、最後の最後に障害を用意したというワケ」
「散々必死に走って汗だくになったのに、ゴール寸前で失敗に終わっちゃう。エルサさんは、そういう絶望を味わわせたかったそうよ」

 ここで駄目になったら、これまでの努力が全て水の泡になる。エルサがあの時窓から放り投げたのは、こうさせたかったからなのね……っ。

「あたしらは令嬢様が寄付してくれたお金で育ってて、そっちに恨みはない。むしろ感謝してる。けど、成功すれば多額の報酬を――一生遊んで暮らせるお金を、もらえるからね」
「大変申し訳ございませんが、アリス・ワール様の冒険はここでお仕舞い。わたし達がボコボコにして、動けないようにしてあげるわ」
「ウチらも猫になってて、素早さはおんなじ。どうやっても逃げられないから、覚悟しないよお」

 三人は嗜虐的に舌なめずりをして、前傾姿勢になる。
 このポーズは、猫の戦闘態勢。やる気満々、ということね。

「…………ねえ、貴方達。寄付のお金で育ったのなら、貴方達は『ハルス孤児院』の育ちよね?」

 私は右斜め前、左斜め前、真後ろを意識しながら、三人の顔を見回す。
 この質問は、時間稼ぎなどのためじゃない。どうしても尋ねたいことがあったから、こうした。

「ええ、そうよ。それがなに?」
「院長のアルトさんは、子供達の――貴方達の幸せな人生を願ってる。あの人の為にも、退いてくれないかしら?」

 アルトさんにとっては全員が自分の本当の息子娘で、自身の全てをかけて大切に大切に育てて見守ってきた。こんな行動は親への裏切りになってしまうから、私云々ではなく止めて欲しい。

「貴族の私が言うと、哀れみとかに聞こえるかもしれないけれど……。ワール家も支援をしていて、孤児院出身の子は貴族の屋敷などで働けるようにしている。割りのいい仕事に、優先的につけるようになってるの」

 せめてこれからは、幸福な人生を送って欲しいから。そうあれるように、王族と一部の貴族が工面している。

「一生遊んで暮らせはしないけれど、ちゃんと遊びながら、楽しみながら暮らす事はできるの。……どうにか、考え直してはくれないかしら……?」
「「「いや」」」

 即答。全員が間髪入れず、迷いなく答えた。

「その話は知ってるけど、これが成功したらずっと働かなくていいんだもん。こっちを選ぶに決まってるわよ」
「アルトパパは大好きで、裏切りたくはないよ? でもこんなチャンスは、滅多にない」
「天秤にかけると、こっちになっちゃうよね。……と、言うわけで」

 三人の目に殺気が更に宿り、背中や尻尾の毛が激しく逆立った。
 もう、話し合いでの解決は無理……。だから――。私も、やるしかない!
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