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第9話 奇跡(1)
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「っ! パトリシア様っ」
「「パトリシアっ!」」
「………………テオドール、様……? お父様、お母様も。どう、されたのですか……? 私はどうして、ベッドに……?」
気が付くと私は仰向けになっていて、視界は私を覗き込んでいるテオドール様達のお顔で一杯になっていました。
私はさっきまで、楽しくお喋りをしていたはずなのに……。どうなっているのでしょうか……?
「パトリシア。お前は突如高熱を出して、倒れてしまったのだよ」
「ティルファ先生が診てくださっても異常が見つからず、手の施しようがなかったの。でもね、そんな時奇跡が起きたのよ。テオドール様が右手を握ってくださった直後から、少しずつ熱が引き始めたの」
氷をいくら使っても僅かも改善しなかったのに、そうしてくださった途端に一変。時間に比例して体から熱が取れてゆき、平温になると同時に私は目を覚ましたそうです。
「…………そう、だったのですね……。わざわざ予定を変更してくださり、お傍で右手を握って――あれ……? みぎ、て……?」
ようやく手が包まれていることに気付き、そちらを実感した時でした。何かが頭の中を過りました。
「パトリシア様? 右の手が、どうかされたのですか?」
「…………………………さっき…………あれは、夢の中、なのでしょうか……? 何か大きな出来事を経験した、そんな気がするのですが……。きちんと思い出せません……」
何かしらの、恐ろしいことがあった。それはなんとなく分かるのですが、具体的な内容が思い出せません。
「……ですが。今も感じている、右手の温かさ。そちらに助けていただいたということは、分かります。…………きっと、私が元通りになれたのはテオドール様のおかげです」
「そう、でしたか。貴女のお役に立ててよかったです」
上体を起こして頭を下げ、上げると、目の前には綻んだ綺麗なお顔がありました。
私の回復で、こんなにも喜んでくださるなんて。私は、本当に幸せ者です。
「テオドール・ブロンシュ様。この子は、わたし達の宝物でございます」
「感謝しても、しきれません。このご恩は必ずや、後日お返しをさせていただきます」
お母様とお父様は、片膝をついての礼――この国での最上位のお礼を行い、テオドール様をお見送りする準備を始めました。
私達がお会いしたのは午後3時なのに、窓の外はすっかり暗くなっていました。テオドール様は無理をして滞在してくださっていたので、急がないと更にご迷惑がかかってしまいます。
「貴方様には必要のないものと、重々承知しております。ですが念のために、ハレミット家の護衛をお連れくださいませ」
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。……パトリシア様」
お父様とお話しをされていたテオドール様は私へと向き直り、ご自身の懐へと手が伸びていきました。
??? なにを、されているのでしょうか……?
「「パトリシアっ!」」
「………………テオドール、様……? お父様、お母様も。どう、されたのですか……? 私はどうして、ベッドに……?」
気が付くと私は仰向けになっていて、視界は私を覗き込んでいるテオドール様達のお顔で一杯になっていました。
私はさっきまで、楽しくお喋りをしていたはずなのに……。どうなっているのでしょうか……?
「パトリシア。お前は突如高熱を出して、倒れてしまったのだよ」
「ティルファ先生が診てくださっても異常が見つからず、手の施しようがなかったの。でもね、そんな時奇跡が起きたのよ。テオドール様が右手を握ってくださった直後から、少しずつ熱が引き始めたの」
氷をいくら使っても僅かも改善しなかったのに、そうしてくださった途端に一変。時間に比例して体から熱が取れてゆき、平温になると同時に私は目を覚ましたそうです。
「…………そう、だったのですね……。わざわざ予定を変更してくださり、お傍で右手を握って――あれ……? みぎ、て……?」
ようやく手が包まれていることに気付き、そちらを実感した時でした。何かが頭の中を過りました。
「パトリシア様? 右の手が、どうかされたのですか?」
「…………………………さっき…………あれは、夢の中、なのでしょうか……? 何か大きな出来事を経験した、そんな気がするのですが……。きちんと思い出せません……」
何かしらの、恐ろしいことがあった。それはなんとなく分かるのですが、具体的な内容が思い出せません。
「……ですが。今も感じている、右手の温かさ。そちらに助けていただいたということは、分かります。…………きっと、私が元通りになれたのはテオドール様のおかげです」
「そう、でしたか。貴女のお役に立ててよかったです」
上体を起こして頭を下げ、上げると、目の前には綻んだ綺麗なお顔がありました。
私の回復で、こんなにも喜んでくださるなんて。私は、本当に幸せ者です。
「テオドール・ブロンシュ様。この子は、わたし達の宝物でございます」
「感謝しても、しきれません。このご恩は必ずや、後日お返しをさせていただきます」
お母様とお父様は、片膝をついての礼――この国での最上位のお礼を行い、テオドール様をお見送りする準備を始めました。
私達がお会いしたのは午後3時なのに、窓の外はすっかり暗くなっていました。テオドール様は無理をして滞在してくださっていたので、急がないと更にご迷惑がかかってしまいます。
「貴方様には必要のないものと、重々承知しております。ですが念のために、ハレミット家の護衛をお連れくださいませ」
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。……パトリシア様」
お父様とお話しをされていたテオドール様は私へと向き直り、ご自身の懐へと手が伸びていきました。
??? なにを、されているのでしょうか……?
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