お姉様を泣かせましたね?

柚木ゆず

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第5話 カウントダウン、はじめ レアン視点

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「こうして会うのは四週間振りになるね。会えて嬉しいよ」

 本番当日、今日は諸事情により――できるかぎりお姉様とアントワーヌ様を一緒にしたくなかったため、別行動。現地に近い場所・・・・・・・で合流するやアントワーヌ様は笑顔で応じ、わたしに対しても爽やかな笑みを振り撒きました。

((この方は、劇団員としてもやっていけるかもしれませんね))

 お姉様への敵意悪意は、一切表に出ていない。別人の演技をしていると同義で、真面目に練習をすれば良い役者になれるでしょう。

「しかも、一緒にお茶をしたいと言ってくれるだなんて。光栄だよ」
「いつも、お姉様だけでなくでわたし達にも親切にしていただいております。先日とても珍しい茶葉を手に入れまして、そんなアントワーヌ様に、どうしても味わっていただきたかったのでございます」

 現地ではなく現地に近い場所で合流したのは、開始前に馬車内で小さなお茶会を行うため。会場に着いてからだと用意したものを仕込めないので、ここで行います。

「すでに準備はできております。どうぞ」
「ありがとう。お邪魔させてもらうね」

 お姉様。お姉様にとっては苦痛の時間となるでしょう。
 ですがその先には平穏が待っています。御辛抱ください。

「あ、そうだ。申し訳ない。君たちを信用していないのではなくて、決まりなんでね。毒味をさせてもらうよ」

 ザロットス家は過去に暗殺未遂があった影響で、必ずや飲食物を確認するようになっています。つまりお姉様に行った時のように『飲み物に混ぜる』や『お茶菓子に混ぜる』ができません。

「………………アントワーヌ坊ちゃま、確認がすべて完了いたしました。お召し上がりください」
「やはり、問題はなかったか。……重ね重ねすまなかった。ありがたくいただくよ」
「たびたびのご配慮、痛み入ります。どうぞお召し上がりください」

 ただ、そちらは想定内。なにも問題はありません。
 そのお茶にも焼き菓子にも仕掛けがあると気付かず、

「ルナミアスは素晴らしい女性。俺なんかには勿体ないと思う程の人だよ」

「こんな人と婚約できるなんて、本当に俺は幸せ者だよ」

「いつも言っているけど、安心しておくれ。君の大切なお姉さんは、俺が必ず幸せにするから」

 などなど。どうせ意味はないので推察はしませんが、何かしらを他意があるのでしょうね。わたしの前で異様なくらいお姉様を絶賛しながら、アントワーヌ様はにこやかに飲んで食された。

「あ、もうこんな時間か。楽しいひと時をありがとう。そろそろ行こうか」
「そうですね」
「そうでございますね」

 こちらこそ、お互い全然楽しくない時間をありがとうございました。
 わたし達はパーティーに出席するべく、お姉様に申し訳ないお茶会を終わらせて移動。お姉様、わたし、アントワーヌ様の3人は揃って、ザアエス伯爵家主催のパーティー会場に入場しました。

主催者である友人ザックのパーティーといえば、ショー。今回も楽しみで――おや?」
「?? アントワーヌ様……?」「?? アントワーヌ様?」
「大したことじゃないよ。甘い不思議な匂いがして、なんだろうって思っただけさ」

 この方は――会場にいる人間の中でわたししか気付いていませんが、最後のスイッチを入れました。


 アントワーヌ様に残された『楽しい時間』は、あと30分。
 きっと以降は、嵐が吹き荒れることとなるでしょう。
 その時まで精一杯、思い出を作ってください。

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