お姉様を泣かせましたね?

柚木ゆず

文字の大きさ
9 / 29

第6話 始 レアン視点(1)

しおりを挟む
 友人の婚約者――。婚約者の妹――。今回のパーティーにはそういった立場でわたし達姉妹は招待されており、そんな面もあって所謂挨拶回りは3人で行う。
 ですので本日は、面白い光景を間近で見ることができました。

「いえいえそんな、ラードロン様には遠く及びませんよ」

「滅相もございません。心より尊敬しております」

「なんと……! ますますお美しくなられて……!」

「申し訳ございません。ローズ様の美に見惚れておりました」

 心の中ではお姉様の前でしたように、女性に接する際には怒ったり頭を抱えたり奇声を発しながら嘆いたりしているのでしょうか? それとも本日は最愛の人がいらっしゃらないので、そこまで怒ってはいないのでしょうか?
 真実を知る由はありませんが、とにかく――。アントワーヌ様は巧みに爽やかな仮面を貼り付け、あちこちで格上令嬢に対して感嘆の表情を振り撒きました。

((いずれにせよ、ストレスは溜まっているのでしょうね。残された時間を楽しんでいただきたかったのですが、残念ながら無理でしたね))

 会場内にある豪奢な時計を確認してみると、もうまもなく30分が経過します。
 半年間、そして先日のお姉様への行いのせいなのでしょうか。心労を背負ったまま始まってしまう羽目になりました。

「次は、どうしようかな。今、お声がけできそうなのは……」

 お隣で顎に手をやっているアントワーヌ様はいつもと変わらない様子に見えますが、その実まるで違う。いつでも始められる状態に――ついになり、わたしは動き出すタイミングを図りはじめます。

((…………………………発見。ようやくいらっしゃりましたね))

 たった今会場に入られた、キツイツリ目が印象的なふくよかな女性。この方をわたしは待っていました。
 あちらの女性は主催であるザアエス家と深い関係にある、ヴァサホア侯爵家の御令嬢フィウナ様。面倒な人間が多い貴族界でも、特に気難しい人、として有名な人です。

「フィウナ様がいらっしゃった。ふたりとも、ご挨拶に行くよ」

 そんな性質もあって『次』がすぐさま決まり、わたし達は揃ってフィウナ・ヴァサホア様のもとへと向かいました。

「フィウナ様、ご機嫌麗しゅう」
「「ご機嫌麗しゅうございます」」
「あらアントワーヌ様、お久しぶりですわね」

 アントワーヌ様とフィウナ・ヴァサホア様は面識があり、挨拶が終わるといつものようににこやかなやり取りが始まりました。
 でも――。
 今日は、『いつも』が続きはしません。

((…………今ですね))(お姉様、あちら)
(え? どうかしたの?)

 フィウナ・ヴァサホア様がよそ見をしたタイミングを見計らってお姉様の意識を一瞬遠ざけ、その隙にアントワーヌ様の耳元でとあるワードを囁く。そうすることでこれまで仕込んできたもの全てが繋がり、その結果――。
 不意に、アントワーヌ様の口からこんな言葉が飛び出したのでした。


「フィウナ様が綺麗? お世辞に決まっているだろう。こんな女が綺麗なはずがない」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

走馬灯に君はいない

優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。

【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
恋愛
 約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を貼り付けて登場したアレックス殿下。  彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。 「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」  婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは? 1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて? うーん……おバカさんなのかしら? 婚約破棄の正当な理由はあるのですか? 1話完結です。 定番の婚約破棄から始まるザマァを書いてみました。

婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。 目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。 無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。 「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」 貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。 気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!? 一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。 誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。 本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに―― そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、 甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪

(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・

青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。 彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。 大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・ ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

処理中です...