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33.再会
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城の中は静寂に包まれていた。先日の戦もすでに過去のものになろうとしている。変わらない日常を取り戻し、いつもと同じ静かな陽光が降り注いでいる。
それでも確かに変わっていることがあった。
いや、本来はこの姿が正しいはずだ。しかしこのたった数ヶ月で、たったひとりの人間によって取り戻したこの城の日常に、違和感を残すものとなってしまった。
廊下を進む黒い影は王たる威厳を放ってはいたが、その表情にはどこか影が指し、思いつめているようであった。しかしメイドや執事とすれ違えば普段と変わらぬ言葉を交わす。そしてまた一人になったとき、さらに色濃く影を落とすのだ。気丈に振舞いつつも、瞳は遠い過去を見つめていた。
はたから見れば分からないほどの、僅かな変化も感じ取ることができた。目の前で見るのでは感動は全く違う。
「――っ」
蓋をしたはずの感情は、いとも簡単に溢れ出した。
ソティラスの様子に胸を痛め、思わず物陰から飛び出した。
突如目の前に現れた思いがけない人物に、ソティラスは瞠目し、言葉をなくした。
「…………」
感極まって飛び出したものの、どうしていいかわからない。
「……よ、よう」
とりあえずぎこちなく片手を上げる。ソティラスは幻でも見ているかのように呆けたままだ。
やがて、僅かに唇を動かした。
「……ルーチェ、なぜここに、」
「なぜって、そんな寂しいこと言うなよ」
「……ハイリヒ国に、帰ったはずでは……」
「まあ、そう、なんだけど……」
ルーチェは苦笑しながら、頬をかいた。
「戻ってきちゃったよ」
軽い調子でおどけてみたが、ソティラスは無言。沈黙が苦しく、取り繕うようにルーチェはまくし立てた。
「そ、そりゃ、反対もされたよ。すげえされたけど、自分の意思でここに戻ってきたんだ。そっちにすれば迷惑な話かもしれないけどな、俺はまだ知らないことだらけなんだ。魔族と人間の共存の話だって、中途半端に終わるわけにはいかないだろ。やっぱ魔王に操られてるんじゃないかーとか、オルトスも一緒に来るーとかって言ってたけどさ」
ルーチェは早口で続ける。
「俺だってこっちのやつらには本心では好かれてないだろ? そういうのもなんだかなって思うんだよ。せっかくゲーティア城に戻ったなら皆に好かれたい。もちろん人間も。恐怖や憎悪のイメージが小さい頃からすり込まれるならさ、逆もできるんじゃないかって。俺を見てさ、人間って悪い奴じゃないかもって思って欲しいんだ。知らないだけなんだよ。お互い理解し合うのは難しいかもしれないけど、少しずつ知ればいいかなって、思ったん、だけど……」
ソティラスは未だ沈黙を貫いている。表情から気持ちが読めない。
(……まずいな。こんなはずじゃ……)
ルーチェは内心冷や汗を流す。戻ってきた理由や説明も、もっと冷静に、もっともらしく聞こえるように、事前に考えて練習までしてきたというのに。ソティラスを前にしたら感情が高ぶってめちゃくちゃになってしまった。
(うーん……やっぱ迷惑だって思ってるのかな。勝手に消えて勝手に戻ってきて今更なんの用だと送り返されてもおかしくないよな……。だったら先に謝っておいたほうがいいかもしれない……よし、全力で頭を下げよう)
「……あの……なあ、本当に、」
「――迷惑なわけ、」
「ごめん全部俺が悪かった!」
一気に頭を下げて、ソティラスの言葉に、顔を上げた。
「……え?」
顔を上げた先、ソティラスはくしゃりと表情を歪めている。
「……お前が戻ってきて、迷惑などと、思うわけがないだろうが」
泣き笑いの表情で真っ直ぐにルーチェを見つめる、ソティラスの目は潤んでいる。
「もう再び……二度と、ルーチェに会えないものだと……」
「言っただろ」
ルーチェは微笑み、はっきりと伝えた。
「五十年の時間を俺にくれって」
長々とそれらしい理由を並べたものの、突き詰めればソティラスに会いたい一心だった。
いつから憎悪が恋慕に変わったのかは分からない。それでも、いま抱いているこの気持ちが真実だった。
そっと背中に腕を回され、抱き寄せられた。ソティラスの腕の力は抱き潰されそうなほど強い。
「その言葉……あの場をしのぐでたらめだったとしても構わなかった。愛する者の一生をくれるという言葉を、もらえただけでかまわなかったのに……」
「寂しいこというなよ」
「私はただ、影からお前の生活を見ていられればよかった」
「さらっとストーカー宣言すんな」
別れたあともずっと、見守ってくれていたのかも知れない。初めて出会った二十年前もそうだ。いつか敵になるとわかっていても。
「……馬鹿な奴だ。こんなことをして、お前が人間に嫌われてしまっては、なんの意味もないのだぞ」
肩に落ちるソティラスの声は僅かに震えていた。
「ルーチェが元の生活に戻るなら、再び人間たちと幸せに暮らせるなら、それが一番だと思った。私の身勝手でもう二度と、愛する者の人生を狂わさぬと決めた。それなのに……」
その気持ちだけで十分だった。胸がいっぱいになる。
ルーチェはソティラスの背中に腕を回した。
「俺が決めたことだからさ、気弱なこというなよ、らしくない。理解してもらうのが難しくても、あんたの側にいたいと思ったんだ。――ってか、そうならないようにするんだろ。魔族と人間の共存だって言い始めたのはあんたじゃないか」
「……私を、恐れぬのか? 爪や牙で傷つけ、竜の姿にもなるが」
「人間と違う特徴を持ってる奴なんか、ここにはたくさんいるし。それに、別にいまさらだろ。倒せるってわかったし。俺はハイリヒでは魔王を倒した勇者ってことになってるから」
「魔王を倒した魔王の嫁ではないのか?」
「なんでもいいよ」
隣にいられるのならば、勇者だろうが魔王の嫁だろうが、肩書きはなんでもよかった。
「ま、俺が育ったところでは嫁のほうが強かったけどな」
「そうだったな」
首筋に吐息がかかった。ソティラスが笑ったのだとわかる。くすぐったくてルーチェも笑った。
ふと、遠くから話し声が聞こえ、ルーチェは廊下で抱き合っていることに気付いた。少し冷静になると恥ずかしくなり、ソティラスの胸を押した。意図することに気付いたのか、ソティラスが顔を覗き込んで微笑んだ。
「場所を変えよう」
「そうだな――……って、わ!」
ルーチェの身体が宙に浮いた。いわゆるお姫様抱っこで、ソティラスに抱きかかえられている。気付いたときには、すでに抱きかかえられたまま、ずんずんと進んでいる。真っ赤になって慌てふためいているうちに、ある一部屋にたどり着く。懐かしさを覚えるその部屋は、以前ルーチェが使っていた部屋だった。
部屋はルーチェが去ったあともそのままの形で残っていた。懐かしさに浸る間もなく、部屋に入るなり再び強くソティラスに抱きしめられた。
「いっ、……痛いって」
「すまないな。気が逸って加減が出来ない」
骨が軋む音すら聞こえてきそうな熱い抱擁だったが、ルーチェは受け入れた。きっとこの痛みは離れていた間、ソティラスが感じていた胸の痛みなのだろう。しかし、痛みに耐えていたのはルーチェも同じ。ソティラスの背に手を回し、骨が折れるほど抱きしめ返してやった。思えばこうしてただ抱きしめ合うということは無かったかもしれない。
腕を緩め、数秒見つめあい、どちらともなく距離をなくす。口付けを交わした。唇から伝わる相手の熱に、空っぽになっていた心が満たされていくのを感じる。
「ルーチェ」
優しくキスをしながら、早急な抱擁とは違い、壊れ物を扱うかのように、ゆっくりと服を脱がしていく。シャツのボタンを一つ一つ外され、ルーチェの身体があらわになる。
「……傷つけて悪かった。これも、これも、私がつけた傷なのだな」
ソティラスは悲しげな表情で傷跡を見つめる。体中に付けられた傷は治癒魔法をかけられたものの、完全には治りきっていない。戦闘でつけられた傷だけではない。ソティラスの手で手酷く扱われたときの傷跡も残っている。
「ルーチェに、乱暴してしまった。……傷つけないと誓ったのに、何度も傷つけたな。戦に行く前も、私はお前も無理矢理押し倒した」
「あれは、俺を戦地に行かせないために力を奪うためだって聞いたよ。それに、謝るのは俺のほうだ。悪かったよ。裏切るようなこと言って」
「あの場では仕方の無いことは分かっていた、それなのに、謝って許されることではないが、すまなかった」
ソティラスは自分を責めている。傷つき、ショックを受けたが、彼が頭を下げるなど何一つないというのに。
「怒ってねえって。だったらおあいこにしようぜ、それならいいだろ」
未だ逡巡する素振りを見せるソティラスの胸ぐらを掴むと、ルーチェは思い切り引き寄せ、自ら唇を重ねた。加減がわからず、思いっきり歯がぶつかって、唇は切れた。自分から初めてやったキスは血の味だった。
「……下手だな」
「こっ、これから練習するんだよ」
練習相手を見つめると、ソティラスが身をかがめた。ゆっくりと目を瞑り、今度は軽く唇を押し当てた。ソティラスが微笑む。
「そうだな、間違えたらやり直して、何度でもやり直しているうちに上手くなる。何度でも上書きすればよいのだ」
「お前もさ、また上書きしてくれればいいんだよ。だから謝らないでくれ」
返事の代わりにソティラスは優しくキスをした。ルーチェの唇に新しくできた傷を舐める。
甘い口づけは次第に下へと移動していく。ソティラスは上書きするように、傷の一つ一つに唇を寄せた。傷だらけの身体をじっくりと見つめられると、周知に全身が熱くなってくる。
「な、なあ……服着ていいか?」
ルーチェはおそるおそる尋ねた。
「まだ昼間だし……それに、今までも触られたりはしたけどさ、……ちゃんとこういうことするの、初めてで、その……」
気持ちが伝わって改めて行為に及ぶということが、どうしようもなく恥ずかしかった。
「ならばこれを着てくれ」
ソティラスが掲げたものを見て、ルーチェは思わず絶句した。
それでも確かに変わっていることがあった。
いや、本来はこの姿が正しいはずだ。しかしこのたった数ヶ月で、たったひとりの人間によって取り戻したこの城の日常に、違和感を残すものとなってしまった。
廊下を進む黒い影は王たる威厳を放ってはいたが、その表情にはどこか影が指し、思いつめているようであった。しかしメイドや執事とすれ違えば普段と変わらぬ言葉を交わす。そしてまた一人になったとき、さらに色濃く影を落とすのだ。気丈に振舞いつつも、瞳は遠い過去を見つめていた。
はたから見れば分からないほどの、僅かな変化も感じ取ることができた。目の前で見るのでは感動は全く違う。
「――っ」
蓋をしたはずの感情は、いとも簡単に溢れ出した。
ソティラスの様子に胸を痛め、思わず物陰から飛び出した。
突如目の前に現れた思いがけない人物に、ソティラスは瞠目し、言葉をなくした。
「…………」
感極まって飛び出したものの、どうしていいかわからない。
「……よ、よう」
とりあえずぎこちなく片手を上げる。ソティラスは幻でも見ているかのように呆けたままだ。
やがて、僅かに唇を動かした。
「……ルーチェ、なぜここに、」
「なぜって、そんな寂しいこと言うなよ」
「……ハイリヒ国に、帰ったはずでは……」
「まあ、そう、なんだけど……」
ルーチェは苦笑しながら、頬をかいた。
「戻ってきちゃったよ」
軽い調子でおどけてみたが、ソティラスは無言。沈黙が苦しく、取り繕うようにルーチェはまくし立てた。
「そ、そりゃ、反対もされたよ。すげえされたけど、自分の意思でここに戻ってきたんだ。そっちにすれば迷惑な話かもしれないけどな、俺はまだ知らないことだらけなんだ。魔族と人間の共存の話だって、中途半端に終わるわけにはいかないだろ。やっぱ魔王に操られてるんじゃないかーとか、オルトスも一緒に来るーとかって言ってたけどさ」
ルーチェは早口で続ける。
「俺だってこっちのやつらには本心では好かれてないだろ? そういうのもなんだかなって思うんだよ。せっかくゲーティア城に戻ったなら皆に好かれたい。もちろん人間も。恐怖や憎悪のイメージが小さい頃からすり込まれるならさ、逆もできるんじゃないかって。俺を見てさ、人間って悪い奴じゃないかもって思って欲しいんだ。知らないだけなんだよ。お互い理解し合うのは難しいかもしれないけど、少しずつ知ればいいかなって、思ったん、だけど……」
ソティラスは未だ沈黙を貫いている。表情から気持ちが読めない。
(……まずいな。こんなはずじゃ……)
ルーチェは内心冷や汗を流す。戻ってきた理由や説明も、もっと冷静に、もっともらしく聞こえるように、事前に考えて練習までしてきたというのに。ソティラスを前にしたら感情が高ぶってめちゃくちゃになってしまった。
(うーん……やっぱ迷惑だって思ってるのかな。勝手に消えて勝手に戻ってきて今更なんの用だと送り返されてもおかしくないよな……。だったら先に謝っておいたほうがいいかもしれない……よし、全力で頭を下げよう)
「……あの……なあ、本当に、」
「――迷惑なわけ、」
「ごめん全部俺が悪かった!」
一気に頭を下げて、ソティラスの言葉に、顔を上げた。
「……え?」
顔を上げた先、ソティラスはくしゃりと表情を歪めている。
「……お前が戻ってきて、迷惑などと、思うわけがないだろうが」
泣き笑いの表情で真っ直ぐにルーチェを見つめる、ソティラスの目は潤んでいる。
「もう再び……二度と、ルーチェに会えないものだと……」
「言っただろ」
ルーチェは微笑み、はっきりと伝えた。
「五十年の時間を俺にくれって」
長々とそれらしい理由を並べたものの、突き詰めればソティラスに会いたい一心だった。
いつから憎悪が恋慕に変わったのかは分からない。それでも、いま抱いているこの気持ちが真実だった。
そっと背中に腕を回され、抱き寄せられた。ソティラスの腕の力は抱き潰されそうなほど強い。
「その言葉……あの場をしのぐでたらめだったとしても構わなかった。愛する者の一生をくれるという言葉を、もらえただけでかまわなかったのに……」
「寂しいこというなよ」
「私はただ、影からお前の生活を見ていられればよかった」
「さらっとストーカー宣言すんな」
別れたあともずっと、見守ってくれていたのかも知れない。初めて出会った二十年前もそうだ。いつか敵になるとわかっていても。
「……馬鹿な奴だ。こんなことをして、お前が人間に嫌われてしまっては、なんの意味もないのだぞ」
肩に落ちるソティラスの声は僅かに震えていた。
「ルーチェが元の生活に戻るなら、再び人間たちと幸せに暮らせるなら、それが一番だと思った。私の身勝手でもう二度と、愛する者の人生を狂わさぬと決めた。それなのに……」
その気持ちだけで十分だった。胸がいっぱいになる。
ルーチェはソティラスの背中に腕を回した。
「俺が決めたことだからさ、気弱なこというなよ、らしくない。理解してもらうのが難しくても、あんたの側にいたいと思ったんだ。――ってか、そうならないようにするんだろ。魔族と人間の共存だって言い始めたのはあんたじゃないか」
「……私を、恐れぬのか? 爪や牙で傷つけ、竜の姿にもなるが」
「人間と違う特徴を持ってる奴なんか、ここにはたくさんいるし。それに、別にいまさらだろ。倒せるってわかったし。俺はハイリヒでは魔王を倒した勇者ってことになってるから」
「魔王を倒した魔王の嫁ではないのか?」
「なんでもいいよ」
隣にいられるのならば、勇者だろうが魔王の嫁だろうが、肩書きはなんでもよかった。
「ま、俺が育ったところでは嫁のほうが強かったけどな」
「そうだったな」
首筋に吐息がかかった。ソティラスが笑ったのだとわかる。くすぐったくてルーチェも笑った。
ふと、遠くから話し声が聞こえ、ルーチェは廊下で抱き合っていることに気付いた。少し冷静になると恥ずかしくなり、ソティラスの胸を押した。意図することに気付いたのか、ソティラスが顔を覗き込んで微笑んだ。
「場所を変えよう」
「そうだな――……って、わ!」
ルーチェの身体が宙に浮いた。いわゆるお姫様抱っこで、ソティラスに抱きかかえられている。気付いたときには、すでに抱きかかえられたまま、ずんずんと進んでいる。真っ赤になって慌てふためいているうちに、ある一部屋にたどり着く。懐かしさを覚えるその部屋は、以前ルーチェが使っていた部屋だった。
部屋はルーチェが去ったあともそのままの形で残っていた。懐かしさに浸る間もなく、部屋に入るなり再び強くソティラスに抱きしめられた。
「いっ、……痛いって」
「すまないな。気が逸って加減が出来ない」
骨が軋む音すら聞こえてきそうな熱い抱擁だったが、ルーチェは受け入れた。きっとこの痛みは離れていた間、ソティラスが感じていた胸の痛みなのだろう。しかし、痛みに耐えていたのはルーチェも同じ。ソティラスの背に手を回し、骨が折れるほど抱きしめ返してやった。思えばこうしてただ抱きしめ合うということは無かったかもしれない。
腕を緩め、数秒見つめあい、どちらともなく距離をなくす。口付けを交わした。唇から伝わる相手の熱に、空っぽになっていた心が満たされていくのを感じる。
「ルーチェ」
優しくキスをしながら、早急な抱擁とは違い、壊れ物を扱うかのように、ゆっくりと服を脱がしていく。シャツのボタンを一つ一つ外され、ルーチェの身体があらわになる。
「……傷つけて悪かった。これも、これも、私がつけた傷なのだな」
ソティラスは悲しげな表情で傷跡を見つめる。体中に付けられた傷は治癒魔法をかけられたものの、完全には治りきっていない。戦闘でつけられた傷だけではない。ソティラスの手で手酷く扱われたときの傷跡も残っている。
「ルーチェに、乱暴してしまった。……傷つけないと誓ったのに、何度も傷つけたな。戦に行く前も、私はお前も無理矢理押し倒した」
「あれは、俺を戦地に行かせないために力を奪うためだって聞いたよ。それに、謝るのは俺のほうだ。悪かったよ。裏切るようなこと言って」
「あの場では仕方の無いことは分かっていた、それなのに、謝って許されることではないが、すまなかった」
ソティラスは自分を責めている。傷つき、ショックを受けたが、彼が頭を下げるなど何一つないというのに。
「怒ってねえって。だったらおあいこにしようぜ、それならいいだろ」
未だ逡巡する素振りを見せるソティラスの胸ぐらを掴むと、ルーチェは思い切り引き寄せ、自ら唇を重ねた。加減がわからず、思いっきり歯がぶつかって、唇は切れた。自分から初めてやったキスは血の味だった。
「……下手だな」
「こっ、これから練習するんだよ」
練習相手を見つめると、ソティラスが身をかがめた。ゆっくりと目を瞑り、今度は軽く唇を押し当てた。ソティラスが微笑む。
「そうだな、間違えたらやり直して、何度でもやり直しているうちに上手くなる。何度でも上書きすればよいのだ」
「お前もさ、また上書きしてくれればいいんだよ。だから謝らないでくれ」
返事の代わりにソティラスは優しくキスをした。ルーチェの唇に新しくできた傷を舐める。
甘い口づけは次第に下へと移動していく。ソティラスは上書きするように、傷の一つ一つに唇を寄せた。傷だらけの身体をじっくりと見つめられると、周知に全身が熱くなってくる。
「な、なあ……服着ていいか?」
ルーチェはおそるおそる尋ねた。
「まだ昼間だし……それに、今までも触られたりはしたけどさ、……ちゃんとこういうことするの、初めてで、その……」
気持ちが伝わって改めて行為に及ぶということが、どうしようもなく恥ずかしかった。
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