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第4章 二十三番めの呪縛
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不穏な口調にハッとして振り向いた凪乃羽と違い、ヴァンフリーは鷹揚に声のしたほうを見やった。
ふたりの前に現れたのは、いかにも柄の悪い四人の男たちだ。生まれ育った環境は違えど、人の醸しだす雰囲気はどの世界でも共通だと、凪乃羽は妙に感心した。
不思議と凪乃羽に恐怖感はない。それはヴァンフリーが永遠の上人だと知っているからで、逆に、上人の前ではひれ伏すほど民は畏れているらしいのに、ヴァンフリーがその上人だと知らない男たちが気の毒な気もした。
いったいどういう展開になるのだろう。
ヴァンフリーに目を転じると、ふっと男たちに笑みを見せた。それが嘲笑でもなくおもしろがっているから、男たちにとっては始末に負えない。黒く染めた髪はともかく、よくよく見れば双眸が玉虫色だと気づくはずなのに、肝心の男たちがヴァンフリーを見極めることはなく。
「何を笑ってやがる」
「女の前だからって粋がってんじゃねぇ」
男たちは逃げ道をふさぐべく、ふたりの前で扇型に広がった。
すると、俄に圧迫感を覚えて凪乃羽はわずかに躰を引く。背後にある水路に落ちるほどそうしたわけではないものの、ヴァンフリーは引き止めるように凪乃羽の背中に手を当てた。
「腕前を披露してやろうか。もっとも、手応えもないだろうが」
ヴァンフリーは凪乃羽に向かってにやりとしてみせた。
そうかと思うと、凪乃羽が手に持った焼き菓子にかぶりついた。ヴァンフリーは男たちにおかまいなしで、小さく咬みちぎって味わっている。
「珈琲とは比べものにならないな」
さっきの言葉の意味を凪乃羽が把握できないうちに、焼き菓子はあえなく美食の範ちゅうから除外された。
凪乃羽もまた場をわきまえず、美味しいのに、と反論しかけたとき。
「てめぇ、無視するとはいい度胸だっ」
一人の男がわめき散らし、凪乃羽は首をすくめた。
「凪乃羽、おまえはこいつらと違っておれがだれだかわかっているだろう?」
ヴァンフリーはからかうように云い、それから男たちへと視線を移した。
「勝手に見せつけられているおまえたちに、おれが反論する必要はない。忠告すれば、とっとと消えたほうがおまえたちの身のためだ」
ヴァンフリーは不遜に首をひねった。
「うるせぇ! 見かけない男のくせに、この市場で金貨を見せびらかすことがどういうことかわかってないらしい」
「付き人もいねぇようだし、爵子じゃねぇなぁ。商人か高利貸しの子息か?」
「まあ、こいつが苦労を知らねぇってことにはかわりねぇ」
「おれたちに遭ったことがてめぇの運の尽きってぇことだ」
男たちは好き勝手なことを捲し立て、それを聞き終えた――もしくは云い終わるのを待っていたヴァンフリーは鼻先で笑う。おもむろに立ちあがった。
「云いたいことはそれで終わりか」
ヴァンフリーがいざ立ちはだかると、背丈の違いは歴然なほどで、男たちは無意識で一歩ほど後ずさる。そして、ヴァンフリーが詰め寄れば、そのぶんだけ男たちも下がった。
銀髪の効力がなかろうと、ヴァンフリーからは充分に高貴さと威厳が放たれている。一定の距離を保つだけで、それ以上に引き下がらないのは男たちの自尊心のなせる技か。それとも――さっとそれぞれの腰もとから抜かれた剣から力を得たのか。
凪乃羽は息を呑む。ついさっきまで興じるほどだったのに、その余裕はさすがに消えた。
ヴァンフリーは一歩二歩と動き、凪乃羽を男たちから隠すように躰の向きを変えた。そうやって迎撃するべく態勢を整えたのかもしれない。
「ここはおれたち賊徒の領域だ。通行料も支払わず、はばかることは許されねぇ」
「通行料? そんなものがこの市場にまかり通っているとは聞いたこともないが。つまり、おまえたちの目当てはおれの金貨か」
「わかってんなら早く出せ。そのほうがおまえのためだ。菓子を買うくれぇで金貨を出すんだ。おまえにとってはそれでも安いもんなんだろう」
「ああ、安いものだ」
応じたヴァンフリーは腰もとに手をやる。そこには、大きめの革の巾着がベルトに引っかけられている。その陰にグルカナイフがぶらさがっていることに男たちは気づいていないかもしれない。
ヴァンフリーはその柄に手をやりながら、「だが」と続けた。
「この金貨は己の妃のために使うものだ」
「往生際の悪い奴だ」
ぐっと男たちは剣の柄を握る手に力を込める。傷つけてでも金貨を奪うつもりなのか。
けれど、ヴァンフリーが怯むはずもなく――
「どっちがだ」
と、挑発した言葉を吐いた。
直後――
「この野郎っ」
その怒号が発せられるや否や男たちが一斉に剣をかまえた。
「ヴァンっ」
「じっと待ってろ」
至って落ち着いた声に、凪乃羽はさっきの言葉を思いだした。
ヴァンフリーが何者か、確かに凪乃羽は知っている。命の危険は、上人にとって万が一の可能性もない。
凪乃羽は言葉どおりに待っていればいい。動けばヴァンフリーの足を引っ張ることになる。固唾を呑んで、ヴァンフリーがグルカナイフを引きだすのを見守った。
長い剣に、せいぜいその半分の長さくらいしかないナイフでどう太刀打ちできるのだろう。そんな疑問が浮かぶと同時に、男たちが剣を振る。その間際、ヴァンフリーはグルカナイフを捻るようにしながら、左端の男から右端の男へと、まるで楽隊の指揮者のように優雅に運んだ。
その間、金属のぶつかる甲高い音が立ち、そして二拍ほど間を置いたのち、カランカランと軽い音が連続した。
あっという間の出来事だった。ブーメランのようにわずかに曲がったグルカナイフは、男たちの剣を器用に絡めとり、彼らの手から凶器を奪ってしまっていた。
ヴァンフリーは横に倒したグルカナイフを、後ずさった男たちにまっすぐに向ける。
「いま、おまえたちの首にこの刃を薙ぐこともできる。あるいは投てきの腕を久しぶりに試して見たい気もするが」
どうする? といったふうにヴァンフリーは首をひねった。
試すという言葉には余裕しか見えない。そう感じたのは男たちもそうだったのだろう。
「ちっ。引きあげるぞっ」
舌打ちをした男は、腰が引けたような様子で地面に落とした剣を拾い、そそくさと背を向けた。
「憶えてやがれっ」
そんな捨て台詞を別の男が吐き捨て、災難は立ち去った。
呆気ない幕切れは、それだけヴァンフリーは剣の扱いが達者だったという裏づけに違いない。
「やるねぇ、旦那」
声の聞こえない程度に賊徒の男たちは遠く離れ、それを見計らったように周囲から感心した声があがった。
「嗜みだ」
「その程度の言葉でおさまるようには見えなかったが……。最近は例のせいか、賊徒が勢いづいていかん。旦那、たまに顔を出してくれ。そうしたらあいつらも手控えて、この市場にもまた人が戻るだろう」
ヴァンフリーの“見かけ”よりふたまわりほど年配の男は、憂えた様子で訴えた。いまでも人は多いと思うのに、世が平穏であればごった返しになるほど人出が多いのだ。
「そのとおり、“たまに”しかできないとだけ云っておこう」
男は二度うなずいて、邪魔をしてすまないな、と断りを入れ、連れのほうに目を戻した。
「ヴァン」
「まったく手応えがない」
振り返ったヴァンフリーは不満を漏らし、凪乃羽を笑わせた。
ふたりの前に現れたのは、いかにも柄の悪い四人の男たちだ。生まれ育った環境は違えど、人の醸しだす雰囲気はどの世界でも共通だと、凪乃羽は妙に感心した。
不思議と凪乃羽に恐怖感はない。それはヴァンフリーが永遠の上人だと知っているからで、逆に、上人の前ではひれ伏すほど民は畏れているらしいのに、ヴァンフリーがその上人だと知らない男たちが気の毒な気もした。
いったいどういう展開になるのだろう。
ヴァンフリーに目を転じると、ふっと男たちに笑みを見せた。それが嘲笑でもなくおもしろがっているから、男たちにとっては始末に負えない。黒く染めた髪はともかく、よくよく見れば双眸が玉虫色だと気づくはずなのに、肝心の男たちがヴァンフリーを見極めることはなく。
「何を笑ってやがる」
「女の前だからって粋がってんじゃねぇ」
男たちは逃げ道をふさぐべく、ふたりの前で扇型に広がった。
すると、俄に圧迫感を覚えて凪乃羽はわずかに躰を引く。背後にある水路に落ちるほどそうしたわけではないものの、ヴァンフリーは引き止めるように凪乃羽の背中に手を当てた。
「腕前を披露してやろうか。もっとも、手応えもないだろうが」
ヴァンフリーは凪乃羽に向かってにやりとしてみせた。
そうかと思うと、凪乃羽が手に持った焼き菓子にかぶりついた。ヴァンフリーは男たちにおかまいなしで、小さく咬みちぎって味わっている。
「珈琲とは比べものにならないな」
さっきの言葉の意味を凪乃羽が把握できないうちに、焼き菓子はあえなく美食の範ちゅうから除外された。
凪乃羽もまた場をわきまえず、美味しいのに、と反論しかけたとき。
「てめぇ、無視するとはいい度胸だっ」
一人の男がわめき散らし、凪乃羽は首をすくめた。
「凪乃羽、おまえはこいつらと違っておれがだれだかわかっているだろう?」
ヴァンフリーはからかうように云い、それから男たちへと視線を移した。
「勝手に見せつけられているおまえたちに、おれが反論する必要はない。忠告すれば、とっとと消えたほうがおまえたちの身のためだ」
ヴァンフリーは不遜に首をひねった。
「うるせぇ! 見かけない男のくせに、この市場で金貨を見せびらかすことがどういうことかわかってないらしい」
「付き人もいねぇようだし、爵子じゃねぇなぁ。商人か高利貸しの子息か?」
「まあ、こいつが苦労を知らねぇってことにはかわりねぇ」
「おれたちに遭ったことがてめぇの運の尽きってぇことだ」
男たちは好き勝手なことを捲し立て、それを聞き終えた――もしくは云い終わるのを待っていたヴァンフリーは鼻先で笑う。おもむろに立ちあがった。
「云いたいことはそれで終わりか」
ヴァンフリーがいざ立ちはだかると、背丈の違いは歴然なほどで、男たちは無意識で一歩ほど後ずさる。そして、ヴァンフリーが詰め寄れば、そのぶんだけ男たちも下がった。
銀髪の効力がなかろうと、ヴァンフリーからは充分に高貴さと威厳が放たれている。一定の距離を保つだけで、それ以上に引き下がらないのは男たちの自尊心のなせる技か。それとも――さっとそれぞれの腰もとから抜かれた剣から力を得たのか。
凪乃羽は息を呑む。ついさっきまで興じるほどだったのに、その余裕はさすがに消えた。
ヴァンフリーは一歩二歩と動き、凪乃羽を男たちから隠すように躰の向きを変えた。そうやって迎撃するべく態勢を整えたのかもしれない。
「ここはおれたち賊徒の領域だ。通行料も支払わず、はばかることは許されねぇ」
「通行料? そんなものがこの市場にまかり通っているとは聞いたこともないが。つまり、おまえたちの目当てはおれの金貨か」
「わかってんなら早く出せ。そのほうがおまえのためだ。菓子を買うくれぇで金貨を出すんだ。おまえにとってはそれでも安いもんなんだろう」
「ああ、安いものだ」
応じたヴァンフリーは腰もとに手をやる。そこには、大きめの革の巾着がベルトに引っかけられている。その陰にグルカナイフがぶらさがっていることに男たちは気づいていないかもしれない。
ヴァンフリーはその柄に手をやりながら、「だが」と続けた。
「この金貨は己の妃のために使うものだ」
「往生際の悪い奴だ」
ぐっと男たちは剣の柄を握る手に力を込める。傷つけてでも金貨を奪うつもりなのか。
けれど、ヴァンフリーが怯むはずもなく――
「どっちがだ」
と、挑発した言葉を吐いた。
直後――
「この野郎っ」
その怒号が発せられるや否や男たちが一斉に剣をかまえた。
「ヴァンっ」
「じっと待ってろ」
至って落ち着いた声に、凪乃羽はさっきの言葉を思いだした。
ヴァンフリーが何者か、確かに凪乃羽は知っている。命の危険は、上人にとって万が一の可能性もない。
凪乃羽は言葉どおりに待っていればいい。動けばヴァンフリーの足を引っ張ることになる。固唾を呑んで、ヴァンフリーがグルカナイフを引きだすのを見守った。
長い剣に、せいぜいその半分の長さくらいしかないナイフでどう太刀打ちできるのだろう。そんな疑問が浮かぶと同時に、男たちが剣を振る。その間際、ヴァンフリーはグルカナイフを捻るようにしながら、左端の男から右端の男へと、まるで楽隊の指揮者のように優雅に運んだ。
その間、金属のぶつかる甲高い音が立ち、そして二拍ほど間を置いたのち、カランカランと軽い音が連続した。
あっという間の出来事だった。ブーメランのようにわずかに曲がったグルカナイフは、男たちの剣を器用に絡めとり、彼らの手から凶器を奪ってしまっていた。
ヴァンフリーは横に倒したグルカナイフを、後ずさった男たちにまっすぐに向ける。
「いま、おまえたちの首にこの刃を薙ぐこともできる。あるいは投てきの腕を久しぶりに試して見たい気もするが」
どうする? といったふうにヴァンフリーは首をひねった。
試すという言葉には余裕しか見えない。そう感じたのは男たちもそうだったのだろう。
「ちっ。引きあげるぞっ」
舌打ちをした男は、腰が引けたような様子で地面に落とした剣を拾い、そそくさと背を向けた。
「憶えてやがれっ」
そんな捨て台詞を別の男が吐き捨て、災難は立ち去った。
呆気ない幕切れは、それだけヴァンフリーは剣の扱いが達者だったという裏づけに違いない。
「やるねぇ、旦那」
声の聞こえない程度に賊徒の男たちは遠く離れ、それを見計らったように周囲から感心した声があがった。
「嗜みだ」
「その程度の言葉でおさまるようには見えなかったが……。最近は例のせいか、賊徒が勢いづいていかん。旦那、たまに顔を出してくれ。そうしたらあいつらも手控えて、この市場にもまた人が戻るだろう」
ヴァンフリーの“見かけ”よりふたまわりほど年配の男は、憂えた様子で訴えた。いまでも人は多いと思うのに、世が平穏であればごった返しになるほど人出が多いのだ。
「そのとおり、“たまに”しかできないとだけ云っておこう」
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