遠い宇宙の君へ

水妃

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生い立ち

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幼少期の記憶が自分は定かでは無い。
両親の記憶も無い。

名前はキースと呼ばれていたので
『自分はキースである』という認識だけを持っていた。

ただそれだけだった。

また、何故か教わってもいないプログラミングが最初から出来た。

他人とは違う能力を嬉しくも思ったこともあるけれど、
他者には自分と同じ感覚で新しい技術の凄みを感じて貰うことが出来ず、
時には苦しい時もあった。

でも、それは生きる上でどんな事柄でも同じことで
自分と同じように他者も認識することなんて無いのだから、
それはそれで仕方無いとも思っていた。

いつも遊び相手は兄のオッドだった。

これはしっかり覚えている。

兄は唯一の僕の理解者だ。

もちろん完全一致では無いけれど、
僕が新しい技術を開発する度に感動してくれた。

周りが理解してくれなくて苦しんでいた時も
兄は必死で理解しようと努力してくれた。

それは唯一の救いだった。

オッドはとても優しくて、時には厳しくしてくれた。

しかし、いつも何か欠けている気がしていた。

最初は何だか分からなかったけれど、
国民の生活を見ていると何となく輪郭がはっきりしてきた。

それは、自分は両親のぬくもりというものを感じたことが無い、
そして、友情や恋愛感情というものにも一切触れあったことが無いということだった。

両親について兄からは、
僕が生まれた直後に両親はプログラム開発中に不慮の事故で亡くなったと聞いている。

そして、昔はもっとたくさんの国々、そして企業があったと聞いている。

沢山の戦争や飢餓、疫病などにより沢山の民が亡くなり、
とても残酷な時代が続いたようだ。

我々の一族はその中で何とか競争を勝ち抜き、今、この地位を築いていると。

僕は十歳になる頃にはこのオッドテクノロジー社でシステム開発をしていた。

正直言うと何も教わってはいない。

学校に行ったことも無い。

ただ、古いプログラミングを見ると、
新しいアイディアがふと浮かんできて、
それを具現化することが出来た。

僕の周囲はその力を見て、とても驚いていた。

我々の一族で、一番の天才だと言ってくれた。

しかし、自分自身はとても不思議だった。

何故、自分にはこのような力が備わっているのか。


時は流れ、民は職を失い、仕事をする時間を無くしたことにより暇になってしまった。

そこに対して新しい生き方の再定義をしていくことがわが社の務めと兄は教えてくれた。

ただその言葉を信じてずっとやってきた。

今までの人生を度々このように思い耽るのは今が初めてではない。

時々、月が二つあるこの夜空を眺めながら、
そして人工的な機械の世界を眺めながら、こんな風に思いを巡らせる。


そんな時、またニュースが流れた。

「本日も三人が行方不明となっています」

何だろう、また人が行方不明になっている。
何か大事に至っていなければ良いけれど。


キースは何か大きなことが起ころうとしているのではないかと
不安な気持ちを抱えていた。
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