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ヴォルプリエの夜編
56話:フィンリー、師匠に泣きつく
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「今日はメイブとフィンリー帰ってくるだろうから、夕飯はビーフシチューにしましょうか。おっきな肉の塊で。フィンリー喜ぶと思う」
「そうですね。メイブ殿にはナッツ入りクッキーも沢山焼きましたし。夕方頃戻ってくるかな?」
ロッティとレオンはリビングでのんびりお茶をしていた。
2年前に『魔女の呪い』を祓う儀式をしたとき、ロッティは持てる魔力を殆ど解放して『魔女の呪い』を祓った。その為2年もの間眠りにつき、目覚めた今は身体が本調子ではない。
『癒しの森』の力に守られながら、普通に生活するぶんには平気だ。しかしまだ森の外へ出かけるのは無理だった。
2年前騎士を辞めて『癒しの森』へ引っ越してきたレオンは、ロッティの恋人として、家族として彼女に寄り添い、生活などをサポートしていた。
「あ」
ピクっと肩を震わせて、ロッティは面を上げた。
「フィンリーだけかな?戻ってきたみたい」
そう呟いたとき、
「ししょおおおおおおおおおおおおお!」
蹴破られるかと思うほど、ドアをバアアンッと開いてフィンリーが飛び込んできた。
「ししよおおう」
「言葉になってないよフィンリー…」
涙と鼻水で化粧された顔で迫られて、ロッティは仰け反った。
「メイブたんが、メイブたんが、一緒に飛んできてないんだ、メイブたんだけが」
「え?」
「落ち着けフィンリー」
レオンはティッシュの箱をフィンリーの前に差し出す。
フィンリーは乱暴にティッシュを数枚抜き取り、盛大に鼻をかんだ。
「ある情報を得たから、俺とメイブたんは急いで師匠に知らせようとしたんだ。俺の移動魔法使って、『癒しの森』へ戻ってきた。
ンダケド、戻ってきたのは俺だけで、肩に乗ってたメイブたんが消えてたの!
俺どっかで落とした?どうやってメイブたんだけ落とせるんだ?
どうしよう師匠!メイブたん死んじゃってたらどうしよう~~!」
ぺたりと床に座り、フィンリーは子供も真っ青な勢いで泣き喚いた。
「勝手にメイブを殺すんじゃないの!
メイブは私と魂を共有している使い魔だから、死ねばどんなに遠く離れていても感知できる。だから大丈夫、死んでないわ」
「メイブたん…」
ロッティは目を閉じて、意識を凝らす。メイブとの繋がりを辿る。
線を辿るようにしていくと、途中で魔法の力で弾かれた。
「……魔法で阻害された。まあ、移動魔法を発動している中に割り込んで、選別して取り出すなんて芸当は魔女じゃないと無理だから当然か」
腕を組んでロッティは首を傾げた。
「ドコの魔女の仕業か判らないけど、なんだってメイブをかどわかしたのかしら…」
「俺探してくる!メイブたんを助けないと!」
「一人で行くのはダメよ。魔女相手に」
「風の上級精霊が憑いてるから大丈夫!」
「落ち着きなさいフィンリー!」
ロッティは小さな拳でポカッとフィンリーの頭に制裁を加える。
「私はまだ動けない。だから何かあっても助けに行けない。助っ人を呼ぶから、ちょっと待っていなさい」
席を外していたレオンが、『魔女の回覧板』の水晶球を持って戻っていた。
「さすがレオン、気が利いてる」
ニコッとレオンは微笑んで、テーブルの上に水晶球を置いた。
「ウォカトゥス」
ロッティが水晶球に呼びかけると、水晶の中にゆらゆらと女性の姿を映しだした。
「ん?なんだ、ロッティ・リントンではないか」
驚いたように”曲解の魔女”コンセプシオン・ルベルティが仰け反った。
「こんにちは。こないだお見舞に来てくれた以来ね。
突然ごめんなさいね、ちょっと頼みを訊いて欲しいの」
「頼みだと?」
「ええ。メイブがどっかの魔女に誘拐されちゃったのよ」
「はああああああ!?」
フィンリーとレオンが肩をすくめるほど、水晶球からコンセプシオンの絶叫が迸った。
「使い魔を誘拐する魔女がドコにおる!冗談もたいがいにせい!」
「冗談だと思いたいケド、フィンリーが発動した移動魔法に割り込んで、メイブだけ攫ったようなの。そんな芸当魔女じゃないと出来ないし、フィンリーはまだ魔法初心者よ。メイブだけ残して魔法を発動させるなんて無理だもの。そもそも移動魔法は魔法陣を描いて、魔法陣に乗ってるもの全てを飛ばす。漏れるはずないわ」
「確かに…」
「魔法が発動される前に、面白がって自分だけ飛んでいって魔法陣圏外に移動するとか、そんな馬鹿な行為をメイブがするはずもない」
「その通りだ。で、どの魔女の悪戯か見当はついておるのか?」
「いやあ…サッパリ」
ロッティは肩をすくめて、お手上げのポーズをした。
「…だろうな。わらわはメイブ探しをすればいいのだな?」
「ええ、フィンリーも一緒にお願い」
コンセプシオンはフィンリーのほうへ視線を向ける。
「お願いしますう」
涙目全開でお願いされて、コンセプシオンは渋面を作った。
「判った…。もう少ししたらそちらへ行く。わらわが留守の間、イメルダを見てもらえるか?」
「もちろんよ。連れてきて」
「ああ、では後ほど」
「ありがとう」
通信が切れて、リビングが一瞬静まり返る。
小さく「ふぅ」とため息をついて、ロッティはフィンリーを見た。
「メイブは見た目は小さなヒヨコだけど、頑丈だし心も強い。でも、それでもやっぱり心細い思いをしている筈。早く見つけてあげてね」
「うん!」
フィンリーは大きく頷く。
「私も一緒に行こうか?」
「ダメダメ。団長は師匠についてて。師匠はまだまだ無理できる体調じゃないから」
「そうか」
レオンは気遣わしげにロッティの肩を抱き、ロッティは苦笑いを浮かべた。
「今すぐに助けに行ってあげたいけど、身体がまだ言うことを利かないから…。頼んだわね、フィンリー」
「任せて!」
「そうですね。メイブ殿にはナッツ入りクッキーも沢山焼きましたし。夕方頃戻ってくるかな?」
ロッティとレオンはリビングでのんびりお茶をしていた。
2年前に『魔女の呪い』を祓う儀式をしたとき、ロッティは持てる魔力を殆ど解放して『魔女の呪い』を祓った。その為2年もの間眠りにつき、目覚めた今は身体が本調子ではない。
『癒しの森』の力に守られながら、普通に生活するぶんには平気だ。しかしまだ森の外へ出かけるのは無理だった。
2年前騎士を辞めて『癒しの森』へ引っ越してきたレオンは、ロッティの恋人として、家族として彼女に寄り添い、生活などをサポートしていた。
「あ」
ピクっと肩を震わせて、ロッティは面を上げた。
「フィンリーだけかな?戻ってきたみたい」
そう呟いたとき、
「ししょおおおおおおおおおおおおお!」
蹴破られるかと思うほど、ドアをバアアンッと開いてフィンリーが飛び込んできた。
「ししよおおう」
「言葉になってないよフィンリー…」
涙と鼻水で化粧された顔で迫られて、ロッティは仰け反った。
「メイブたんが、メイブたんが、一緒に飛んできてないんだ、メイブたんだけが」
「え?」
「落ち着けフィンリー」
レオンはティッシュの箱をフィンリーの前に差し出す。
フィンリーは乱暴にティッシュを数枚抜き取り、盛大に鼻をかんだ。
「ある情報を得たから、俺とメイブたんは急いで師匠に知らせようとしたんだ。俺の移動魔法使って、『癒しの森』へ戻ってきた。
ンダケド、戻ってきたのは俺だけで、肩に乗ってたメイブたんが消えてたの!
俺どっかで落とした?どうやってメイブたんだけ落とせるんだ?
どうしよう師匠!メイブたん死んじゃってたらどうしよう~~!」
ぺたりと床に座り、フィンリーは子供も真っ青な勢いで泣き喚いた。
「勝手にメイブを殺すんじゃないの!
メイブは私と魂を共有している使い魔だから、死ねばどんなに遠く離れていても感知できる。だから大丈夫、死んでないわ」
「メイブたん…」
ロッティは目を閉じて、意識を凝らす。メイブとの繋がりを辿る。
線を辿るようにしていくと、途中で魔法の力で弾かれた。
「……魔法で阻害された。まあ、移動魔法を発動している中に割り込んで、選別して取り出すなんて芸当は魔女じゃないと無理だから当然か」
腕を組んでロッティは首を傾げた。
「ドコの魔女の仕業か判らないけど、なんだってメイブをかどわかしたのかしら…」
「俺探してくる!メイブたんを助けないと!」
「一人で行くのはダメよ。魔女相手に」
「風の上級精霊が憑いてるから大丈夫!」
「落ち着きなさいフィンリー!」
ロッティは小さな拳でポカッとフィンリーの頭に制裁を加える。
「私はまだ動けない。だから何かあっても助けに行けない。助っ人を呼ぶから、ちょっと待っていなさい」
席を外していたレオンが、『魔女の回覧板』の水晶球を持って戻っていた。
「さすがレオン、気が利いてる」
ニコッとレオンは微笑んで、テーブルの上に水晶球を置いた。
「ウォカトゥス」
ロッティが水晶球に呼びかけると、水晶の中にゆらゆらと女性の姿を映しだした。
「ん?なんだ、ロッティ・リントンではないか」
驚いたように”曲解の魔女”コンセプシオン・ルベルティが仰け反った。
「こんにちは。こないだお見舞に来てくれた以来ね。
突然ごめんなさいね、ちょっと頼みを訊いて欲しいの」
「頼みだと?」
「ええ。メイブがどっかの魔女に誘拐されちゃったのよ」
「はああああああ!?」
フィンリーとレオンが肩をすくめるほど、水晶球からコンセプシオンの絶叫が迸った。
「使い魔を誘拐する魔女がドコにおる!冗談もたいがいにせい!」
「冗談だと思いたいケド、フィンリーが発動した移動魔法に割り込んで、メイブだけ攫ったようなの。そんな芸当魔女じゃないと出来ないし、フィンリーはまだ魔法初心者よ。メイブだけ残して魔法を発動させるなんて無理だもの。そもそも移動魔法は魔法陣を描いて、魔法陣に乗ってるもの全てを飛ばす。漏れるはずないわ」
「確かに…」
「魔法が発動される前に、面白がって自分だけ飛んでいって魔法陣圏外に移動するとか、そんな馬鹿な行為をメイブがするはずもない」
「その通りだ。で、どの魔女の悪戯か見当はついておるのか?」
「いやあ…サッパリ」
ロッティは肩をすくめて、お手上げのポーズをした。
「…だろうな。わらわはメイブ探しをすればいいのだな?」
「ええ、フィンリーも一緒にお願い」
コンセプシオンはフィンリーのほうへ視線を向ける。
「お願いしますう」
涙目全開でお願いされて、コンセプシオンは渋面を作った。
「判った…。もう少ししたらそちらへ行く。わらわが留守の間、イメルダを見てもらえるか?」
「もちろんよ。連れてきて」
「ああ、では後ほど」
「ありがとう」
通信が切れて、リビングが一瞬静まり返る。
小さく「ふぅ」とため息をついて、ロッティはフィンリーを見た。
「メイブは見た目は小さなヒヨコだけど、頑丈だし心も強い。でも、それでもやっぱり心細い思いをしている筈。早く見つけてあげてね」
「うん!」
フィンリーは大きく頷く。
「私も一緒に行こうか?」
「ダメダメ。団長は師匠についてて。師匠はまだまだ無理できる体調じゃないから」
「そうか」
レオンは気遣わしげにロッティの肩を抱き、ロッティは苦笑いを浮かべた。
「今すぐに助けに行ってあげたいけど、身体がまだ言うことを利かないから…。頼んだわね、フィンリー」
「任せて!」
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