片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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勇気と決断編

episode498

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「き、きききききキスなんてそんなそ、ま、まだ告白も出来てないのにっ」

 狼狽えまくるキュッリッキを面白そうに見て、皇王は首をかしげる。

「まだ好きも言っとらんのか?」

「………うん……いえ、はい……」

 途端にキュッリッキに元気がなくなり、落ち込んだ様子に再び首をかしげた。

「何故言わんのじゃ?」

 キュッリッキは言いづらそうに顔を伏せていたが、やがてぽつりとこぼした。

「この間ね、仕事のときに、見られちゃったの。………片方しかない翼」

「ふむ……」

「メルヴィンびっくりした顔をしてたの。きっと、みっともないって思ったんだと思う」

 言いながら、キュッリッキの声はますます沈んでいく。

 皇王は暫く黙っていたが、やがて小さく頷いた。

「メルヴィンは、そなたがアイオン族であることを、知っておったのか?」

「たぶん、知らなかったと思う。ライオンのみんなには、言ってなかったから。一部を除いて」

「なるほどなるほど。それならば、メルヴィンがびっくりしたのは、そなたがアイオン族であったことについて、だろうの」

「えっ?」

「アイオン族は翼をしまっていると、ヴィプネン族と見分けがつかないから。それに、さっきの女狐のように、少々アイオン族は他種族に偏見があるところが目立つしの。それで驚いたのじゃろう」

「……そうなの、かなあ……」

「そりゃそうじゃ。なにせこんなに素直で可愛いアイオン族など、ワシは正直初めてお目にかかったくらいじゃ」

「ふ……ふむり」

 キュッリッキはちょっと照れくさそうに、目だけを下へ向けた。

 本当にそれだけだったのなら、どんなに嬉しいだろう。

「ワシはの、皇后に10回もフラれておる」

「ふぇ?」

「まだ皇太子だった頃じゃが、ワシの連れ合い、皇后にプロポーズしたのじゃが、10回もフリおっての。11回目にしてようやく結婚の承諾を得たときは、嬉しいを通り越して、疲れておったわい」

 皇王はぶはははは、と声を上げて笑った。そんな皇王の顔を、キュッリッキはびっくりして見上げた。

「皇后は実に可憐で愛らしく、控えめでいて、そのくせ頑固でな。もともと貴族階級の出身ではなかったから、身分違いだと頑なじゃった」

 現皇后エヴェリーナは、巨万の富を蓄える大商人の娘だった。その圧倒的な財力を背景に上流階級に仲間入りを果たしていたが、貴族階級から見れば、成り上がりものである。

 エヴェリーナは時々社交界に顔を出していたが、貴族たちの間ではあまり馴染めず浮いていた。

「この知的でイケメンのワシのプロポーズを断るなど言語道断。じゃが、中々受けてはくれなんだ」

 何故受けてくれないのか、とにかく当時の皇王は必死だったという。

「ワシもあの頃は若かった。エヴェリーナが受けてくれないその気持ちを察してやる余裕すらないほど、とにかくエヴェリーナを手に入れたくてしょうがなくての。ようやくエヴェリーナの思いに気づいてやれたのは、結婚して10年経ってからじゃ」

「10年……」

「長いじゃろう、だがそんなワシを、エヴェリーナは優しく支えてくれた。――何故エヴェリーナは、ワシのプロポーズを拒み続けていたと思うかの?」

 いきなり質問されて、キュッリッキは戸惑った。

「えと…」

 キュッリッキはしばらく考え込んだ。

「皇后様は、自分に自信がなかったから?」

 皇王は目を見張り、やがて小さく笑った。

「恋する乙女は鋭いの。そう、彼女は自分に自信が持てなかったんじゃ」
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