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フリングホルニ編
episode743
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スキル〈才能〉は遺伝しないものだと聞いているが、1万年前はそうではないのだろうか。
「もちろんよ。中には魔法とサイ《超能力》を一緒に備えた人間も多くいるわ」
「そ…それはすごいんだね…。……うーん、1万年前と今って、違うんだあ…」
キュッリッキは今と昔の違いに唸る。
「アピストリの任を拝命するために、あえてそうした能力を持つ者同士で婚姻を結んだり、養子に迎えたりして、特殊能力に磨きをかける家もあったのよ」
苦笑気味に言って、ユリディスは懐かしそうに、足元の映像の彼らを見つめる。
「ヴェルナ様が亡くなられて、私が新たにアルケラの巫女となり、同じく新たに任命されたアピストリ達と、ああして初めて謁見しているところね」
総勢12名の幼い男女。その中で一人の少女が、膝で床を歩きながら前に出た。
少女は篭手を外した片方の手を胸にあて、恭しく頭を下げた。
「新たなる巫女ユリディス様を御守り致すため、アピストリを新たに拝命つかまつりました。わたくしの名はイーダ、アピストリの隊長であります」
イーダと名乗った少女は、亡きヴェルナと同じように、明るくて燃えるような赤い髪をした、凛々しい面差しをしていた。まだ幼さの残る外見に似つかわしくない言葉には責任感が滲み、真摯な眼差しと態度が好ましい。
これから命を預けることになるアピストリたちに、ユリディスは何か言葉をかけようと思い、目をそわそわと泳がせていると、イーダの斜め後ろに居る少年と目があった。
金褐色の瞳をはめこんだ目は大きく、身体の線は細く、まだあどけなさを残した顔は、少女のような風貌をしていた。
少年はユリディスに、屈託のない笑顔を向けた。その瞬間、ユリディスは頬を朱に染めると、慌てて俯いてしまった。謁見中にそわそわと目を合わせてしまったことが、なんだか気恥ずかしい。
その挙動に気づいたイーダは後ろを振り返り、少年をキツく睨んだ。
「ユリディス様の御前(おんまえ)で、無礼であろう!」
そう勇ましく一喝し、ユリディスに再び頭を下げた。
「申し訳ございません! ヒューゴがご無礼をいたしました!」
「えー? ボクなんにも無礼なんかしてないってばー」
きょとんっとした顔をして、ヒューゴは肩をすくめる。
「口答えするな!」
「はーい…」
イーダは声を荒らげて、きっぱりとヒューゴを叱る。その様子がおかしかったのだろう、広間の隅に控える女官たちのしのび笑う声が、随所であがった。
「ふふ。イーダもヒューゴも、私にとって、大切で大事な親友。あの二人が、最期まで親友でいてくれました」
面白そうに、懐かしそうに、ユリディスはクスクスと笑い続けた。
「ヒューゴ……、あの幽霊のひと」
遺跡で出会った幽霊の名前。そういえば、なんとなくそんな面影があった。
過去の映像の中では、イーダに叱られるヒューゴの様子に、ユリディスはおっかなびっくりした顔を向けていた。
しっかり者の雰囲気をまとうイーダは、どことなくファニーを彷彿とさせ、キュッリッキも自然と口元に笑みを浮かべた。
世間から見れば、マトモな育ち方をしてこなかったキュッリッキは、普通なら知ってて当たり前のことが判らなかったり、間違った認識をしていることが多々ある。そこに気づくと、ファニーは叱りながらも、きちんと正しく教えてくれた。ハドリーも一緒にいると、助け舟を出してくれたり、やんわりと間に入ってくれる。
キュッリッキが得た初めての友達。二人は親友、と言っても過言ではない。そう、今のキュッリッキには思えていた。
謁見が済んで、ユリディス、イーダ、ヒューゴの3人だけになっても、イーダは事あるごとにヒューゴを叱っている。ヒューゴの持つすっとぼけた雰囲気が、イーダの神経を逆撫でしているのかも、とユリディスが笑い含みに言った。
「……なんか、アタシとファニーを客観的に見ているキブンになってくる」
映像の中のイーダは、もはやファニーにしか見えない。キュッリッキはうっすらと困った笑みを浮かべた。
「ファニーさんて方も、イーダによく似て、ガミガミ言うタイプなのね?」
笑うユリディスに、キュッリッキは疲れたように頷いた。
「いっつも叱られてた……」
「じゃあ、ファニーさんにとって、あなたはとても大切だったのね」
「大切?」
「ええ。大切に思うから、うるさいほど世話をやいてくれたんだわ。そうでなければ、きっと、何も言ってくれなかったと思うの」
気になるから、行動にも言動にも、つい口が出てしまう。大切だから、知らないことは正しく教えたいと思うし、間違いは正したいと思う。
出会ったばかりの頃、コテンパンと言っていいほど、ファニーに叱られたことがあった。そのときは、ファニーのことを大っ嫌い! と拗ねて大むくれしてアパートを飛び出してしまった。しかし、追いかけてきたハドリーに、窘められ、友達だからうるさく言ってしまうのだと言われた。
あの時のキュッリッキは、ハドリーに言われるまま頷いていたが、今ではハドリーに言われたことは、きちんと受け止め理解出来ていた。
途端、キュッリッキはファニーとハドリーに会いたくなって、たまらなくなった。
「もちろんよ。中には魔法とサイ《超能力》を一緒に備えた人間も多くいるわ」
「そ…それはすごいんだね…。……うーん、1万年前と今って、違うんだあ…」
キュッリッキは今と昔の違いに唸る。
「アピストリの任を拝命するために、あえてそうした能力を持つ者同士で婚姻を結んだり、養子に迎えたりして、特殊能力に磨きをかける家もあったのよ」
苦笑気味に言って、ユリディスは懐かしそうに、足元の映像の彼らを見つめる。
「ヴェルナ様が亡くなられて、私が新たにアルケラの巫女となり、同じく新たに任命されたアピストリ達と、ああして初めて謁見しているところね」
総勢12名の幼い男女。その中で一人の少女が、膝で床を歩きながら前に出た。
少女は篭手を外した片方の手を胸にあて、恭しく頭を下げた。
「新たなる巫女ユリディス様を御守り致すため、アピストリを新たに拝命つかまつりました。わたくしの名はイーダ、アピストリの隊長であります」
イーダと名乗った少女は、亡きヴェルナと同じように、明るくて燃えるような赤い髪をした、凛々しい面差しをしていた。まだ幼さの残る外見に似つかわしくない言葉には責任感が滲み、真摯な眼差しと態度が好ましい。
これから命を預けることになるアピストリたちに、ユリディスは何か言葉をかけようと思い、目をそわそわと泳がせていると、イーダの斜め後ろに居る少年と目があった。
金褐色の瞳をはめこんだ目は大きく、身体の線は細く、まだあどけなさを残した顔は、少女のような風貌をしていた。
少年はユリディスに、屈託のない笑顔を向けた。その瞬間、ユリディスは頬を朱に染めると、慌てて俯いてしまった。謁見中にそわそわと目を合わせてしまったことが、なんだか気恥ずかしい。
その挙動に気づいたイーダは後ろを振り返り、少年をキツく睨んだ。
「ユリディス様の御前(おんまえ)で、無礼であろう!」
そう勇ましく一喝し、ユリディスに再び頭を下げた。
「申し訳ございません! ヒューゴがご無礼をいたしました!」
「えー? ボクなんにも無礼なんかしてないってばー」
きょとんっとした顔をして、ヒューゴは肩をすくめる。
「口答えするな!」
「はーい…」
イーダは声を荒らげて、きっぱりとヒューゴを叱る。その様子がおかしかったのだろう、広間の隅に控える女官たちのしのび笑う声が、随所であがった。
「ふふ。イーダもヒューゴも、私にとって、大切で大事な親友。あの二人が、最期まで親友でいてくれました」
面白そうに、懐かしそうに、ユリディスはクスクスと笑い続けた。
「ヒューゴ……、あの幽霊のひと」
遺跡で出会った幽霊の名前。そういえば、なんとなくそんな面影があった。
過去の映像の中では、イーダに叱られるヒューゴの様子に、ユリディスはおっかなびっくりした顔を向けていた。
しっかり者の雰囲気をまとうイーダは、どことなくファニーを彷彿とさせ、キュッリッキも自然と口元に笑みを浮かべた。
世間から見れば、マトモな育ち方をしてこなかったキュッリッキは、普通なら知ってて当たり前のことが判らなかったり、間違った認識をしていることが多々ある。そこに気づくと、ファニーは叱りながらも、きちんと正しく教えてくれた。ハドリーも一緒にいると、助け舟を出してくれたり、やんわりと間に入ってくれる。
キュッリッキが得た初めての友達。二人は親友、と言っても過言ではない。そう、今のキュッリッキには思えていた。
謁見が済んで、ユリディス、イーダ、ヒューゴの3人だけになっても、イーダは事あるごとにヒューゴを叱っている。ヒューゴの持つすっとぼけた雰囲気が、イーダの神経を逆撫でしているのかも、とユリディスが笑い含みに言った。
「……なんか、アタシとファニーを客観的に見ているキブンになってくる」
映像の中のイーダは、もはやファニーにしか見えない。キュッリッキはうっすらと困った笑みを浮かべた。
「ファニーさんて方も、イーダによく似て、ガミガミ言うタイプなのね?」
笑うユリディスに、キュッリッキは疲れたように頷いた。
「いっつも叱られてた……」
「じゃあ、ファニーさんにとって、あなたはとても大切だったのね」
「大切?」
「ええ。大切に思うから、うるさいほど世話をやいてくれたんだわ。そうでなければ、きっと、何も言ってくれなかったと思うの」
気になるから、行動にも言動にも、つい口が出てしまう。大切だから、知らないことは正しく教えたいと思うし、間違いは正したいと思う。
出会ったばかりの頃、コテンパンと言っていいほど、ファニーに叱られたことがあった。そのときは、ファニーのことを大っ嫌い! と拗ねて大むくれしてアパートを飛び出してしまった。しかし、追いかけてきたハドリーに、窘められ、友達だからうるさく言ってしまうのだと言われた。
あの時のキュッリッキは、ハドリーに言われるまま頷いていたが、今ではハドリーに言われたことは、きちんと受け止め理解出来ていた。
途端、キュッリッキはファニーとハドリーに会いたくなって、たまらなくなった。
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