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フリングホルニ編
episode771
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キュッリッキは心の底から怒っていた。
メルヴィンが自分のために命懸けで戦ってくれるのは、恋人だから、だと思っている。それは仕方がないが、逆の立場なら、キュッリッキも同じように命をかけて戦う。しかし、みんなは恋人ではない。ただ傭兵団の仲間なだけだ。
たかが仲間の一員のために、その貴重な命を散らすような無理をおしてまで、戦う必要がどこにあるのだろう。相手はベルトルドであり、今はユリディスの呪いの力を受けて、ドラゴンに変じてしまっている。ベルトルドの力、そしてドラゴンがどういうものか知っているキュッリッキから見れば、みんなが勝てる見込みは殆どないのだ。
レディトゥス・システムから出してもらえただけで十分だ。本当は一刻も早く、ここから逃げて欲しい。そう思っているのに、あんな怪しげな薬を服用してまで、無理に戦おうとしてくれている。
「早く逃げてよ……」
泣きじゃくるキュッリッキを、メルヴィンがそっと抱き寄せて、ギュッと抱きしめた。
「リッキー、家族だから、当然なんですよ」
キュッリッキの頭を優しく撫でながら、メルヴィンは愛おしさを込めてキュッリッキを見つめる。
「血は繋がっていませんが、ライオン傭兵団という家族なんです。リッキーは一番の年下だから、末っ子の妹です。妹の危機に命を張るのは、当然のことなんですよ」
生まれてすぐ捨てられたキュッリッキには、家族というものが判らない。人付き合いも上手く出来てこなかったから、仲間というものも判らない。
だから、仲間たちがここまでしてくれることが、キュッリッキには理解出来ないということは、みんな判っていた。
けっして、悲劇のヒロインを気取っているわけでもなく、勘違いしているわけでもない。ただ、理解出来ていないだけなのだ。
つい最近、自らのことを打ち明けて、ようやくスタートをきったばかりだ。これから時間をかけて、ゆっくりと育んでいくことだ。
キュッリッキのこうした気持ちは、みんなには逆に、くすぐったい気分にさせていた。
「更にオレは、リッキーの最愛の恋人ですから、命をかけるのは当たり前です」
見上げたメルヴィンの顔には、どこか照れくさい笑みが浮かんでいた。
仲間という家族が出来たことは理解している。しかし、その本当の意味までは判っていなかった。
そのうち判っていけばいいことだと、以前メルヴィンが言っていたことを思い出した。焦っても仕方がないことだとも。
やがてキュッリッキは、メルヴィンに小さく笑顔を向けた。
「泣き顔も綺麗ですが、リッキーには笑顔が一番似合います」
ハンカチを取り出したメルヴィンは、キュッリッキの涙を優しく拭ってやった。
遠巻きに二人の様子を見ていたザカリーは、唇を尖らせて目を眇めた。
「ケッ、クサイ台詞も言えるようになったじゃねーか」
「恋は人を成長させるんだよ~」
ルーファスが苦笑気味に応じる。確かにキュッリッキが来る前のメルヴィンからは、想像もつかない成長ぶりだった。
「妬かなぁ~い、妬かない」
「うっせーブス!!」
「うわーんブスって言われたああ~~~」
マリオンにからかわれて、ザカリーは顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
家族だから当たり前だと言われ、キュッリッキは心底嬉しかった。でも、だからこそ、もう自分のためにみんなが傷つき、痛い思いを味わうことだけは終わらせたかった。
もう、十分だから。
「やっぱりここは、みんなさがって。アタシに任せて」
「リッキー」
「みんなの気持ち、すごく嬉しいの。まだ家族ってどんなものか、仲間がどんなものか本当には理解できてない。でも、アタシのせいでみんなが傷つくのは、もうイヤなの」
「だがよ……」
「怪しい薬でブーストしても、みんなじゃベルトルドさんは止められないし、元に戻すのは不可能なの。クレメッティ王がなってた化物とは格が違う、殆どアルケラにいる神龍クラスの力を持ってるから」
キュッリッキの言葉に、みんな素直に青ざめた。
――アンタ化け物に姿が変わって、ますます強さに磨きがかかったのかよ。
異口同音、みんなの目が物語っていた。
「もう、アタシにしか止められない」
キュッリッキの右にフェンリルが、左にフローズヴィトニルが立つ。
「これが最後の戦い。もう、終わらせようね、ベルトルドさん」
メルヴィンが自分のために命懸けで戦ってくれるのは、恋人だから、だと思っている。それは仕方がないが、逆の立場なら、キュッリッキも同じように命をかけて戦う。しかし、みんなは恋人ではない。ただ傭兵団の仲間なだけだ。
たかが仲間の一員のために、その貴重な命を散らすような無理をおしてまで、戦う必要がどこにあるのだろう。相手はベルトルドであり、今はユリディスの呪いの力を受けて、ドラゴンに変じてしまっている。ベルトルドの力、そしてドラゴンがどういうものか知っているキュッリッキから見れば、みんなが勝てる見込みは殆どないのだ。
レディトゥス・システムから出してもらえただけで十分だ。本当は一刻も早く、ここから逃げて欲しい。そう思っているのに、あんな怪しげな薬を服用してまで、無理に戦おうとしてくれている。
「早く逃げてよ……」
泣きじゃくるキュッリッキを、メルヴィンがそっと抱き寄せて、ギュッと抱きしめた。
「リッキー、家族だから、当然なんですよ」
キュッリッキの頭を優しく撫でながら、メルヴィンは愛おしさを込めてキュッリッキを見つめる。
「血は繋がっていませんが、ライオン傭兵団という家族なんです。リッキーは一番の年下だから、末っ子の妹です。妹の危機に命を張るのは、当然のことなんですよ」
生まれてすぐ捨てられたキュッリッキには、家族というものが判らない。人付き合いも上手く出来てこなかったから、仲間というものも判らない。
だから、仲間たちがここまでしてくれることが、キュッリッキには理解出来ないということは、みんな判っていた。
けっして、悲劇のヒロインを気取っているわけでもなく、勘違いしているわけでもない。ただ、理解出来ていないだけなのだ。
つい最近、自らのことを打ち明けて、ようやくスタートをきったばかりだ。これから時間をかけて、ゆっくりと育んでいくことだ。
キュッリッキのこうした気持ちは、みんなには逆に、くすぐったい気分にさせていた。
「更にオレは、リッキーの最愛の恋人ですから、命をかけるのは当たり前です」
見上げたメルヴィンの顔には、どこか照れくさい笑みが浮かんでいた。
仲間という家族が出来たことは理解している。しかし、その本当の意味までは判っていなかった。
そのうち判っていけばいいことだと、以前メルヴィンが言っていたことを思い出した。焦っても仕方がないことだとも。
やがてキュッリッキは、メルヴィンに小さく笑顔を向けた。
「泣き顔も綺麗ですが、リッキーには笑顔が一番似合います」
ハンカチを取り出したメルヴィンは、キュッリッキの涙を優しく拭ってやった。
遠巻きに二人の様子を見ていたザカリーは、唇を尖らせて目を眇めた。
「ケッ、クサイ台詞も言えるようになったじゃねーか」
「恋は人を成長させるんだよ~」
ルーファスが苦笑気味に応じる。確かにキュッリッキが来る前のメルヴィンからは、想像もつかない成長ぶりだった。
「妬かなぁ~い、妬かない」
「うっせーブス!!」
「うわーんブスって言われたああ~~~」
マリオンにからかわれて、ザカリーは顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
家族だから当たり前だと言われ、キュッリッキは心底嬉しかった。でも、だからこそ、もう自分のためにみんなが傷つき、痛い思いを味わうことだけは終わらせたかった。
もう、十分だから。
「やっぱりここは、みんなさがって。アタシに任せて」
「リッキー」
「みんなの気持ち、すごく嬉しいの。まだ家族ってどんなものか、仲間がどんなものか本当には理解できてない。でも、アタシのせいでみんなが傷つくのは、もうイヤなの」
「だがよ……」
「怪しい薬でブーストしても、みんなじゃベルトルドさんは止められないし、元に戻すのは不可能なの。クレメッティ王がなってた化物とは格が違う、殆どアルケラにいる神龍クラスの力を持ってるから」
キュッリッキの言葉に、みんな素直に青ざめた。
――アンタ化け物に姿が変わって、ますます強さに磨きがかかったのかよ。
異口同音、みんなの目が物語っていた。
「もう、アタシにしか止められない」
キュッリッキの右にフェンリルが、左にフローズヴィトニルが立つ。
「これが最後の戦い。もう、終わらせようね、ベルトルドさん」
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