片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
316 / 882
それぞれの悪巧み編

episode297

しおりを挟む
 物語は昔話で、若い夫婦の布団を巡る物語だった。

 キュッリッキは辿たどしく声に出して読み始め、ところどころつっかえたり間違えながら、最後まで読みきった。

「はい、結構です。この本なら問題はなさそうですね。――キュッリッキさんはこの物語を、どう感じましたか?」

 感想を振られ、キュッリッキは背筋を伸ばす。

「えと、奥さんの気持ちは健気だけど、やってることがおバカさん、ってかんじに思いました」

 グンヒルドはクスッと笑う。

「そうですね。旦那さんもちゃんと言ってあげればいいのに、それをしないで、堂々巡りをしているのだから」

 と言って、急にグンヒルドの表情が殺伐としたものに塗り変わる。

「のろけてんじゃねーよ、このド新婚がっ、て思ったものです」

 優しい笑顔に戻って締め括ると、「あら?」とキュッリッキの顔を見る。

「どうしましたか?」

 キュッリッキの表情は凍りついていた。

(せ…センセイ…怖い…アルカネットさんみたい…)

 優しさの塊の様な人だと思っていたが、実は怖い裏の顔もあるのだと、キュッリッキは気づいてしまった。

(アタシ、絶対、先生を怒らせないようにするんだもん…)

 心に固く誓うのだった。



 1時間はあっという間に過ぎ、初めての授業が終わる。そしてリトヴァが部屋に顔を出した。

「失礼いたします。お嬢様、先生、昼食の用意が整ってございます」

「ありがとうございます」

「先生も一緒に食べていけるんだね」

 嬉しそうに言うキュッリッキに、グンヒルドはにっこり笑った。

「ご馳走になります」

 2人はリトヴァに案内され、東棟にあるパーラーに案内された。

 ベルトルドもアルカネットも独身で、内縁の妻も子供もいない。キュッリッキが来るまでは、くつろぐ時はスモーキングルームか自室になる。仕事を持ち込めば書斎か応接間に行くし、食事は自室か食堂で摂っていた。パーラーはほぼ使われていないのである。

 今はキュッリッキがいるので、ようやくパーラーは役目を与えられ、新しい主を迎えた。しかしキュッリッキも初めてくる部屋である。可愛らしい雰囲気の内装で、キュッリッキの部屋のような印象だ。室内を珍しそうに見ながら席に着く。

「アタシってば、一回目は応接間だけ、二回目は動けないまま来たから、このお屋敷にどんな部屋があるか、あんまり知らないなあ。この間、誕生日パーティーを開いてくれた時に、初めてパーティールームに入ったんだよ」

 向かい側に座ったグンヒルドに、小さく肩をすくめてみせる。

「リハビリを兼ねて、お屋敷の中を探検してみては?」

「探検!」

 楽しそうな響きに、キュッリッキの顔がパッと花開く。

「迷子にならないでくださいましね」

 給仕をしているアリサが、くすくす笑った。

「ご飯終わったら、行ってみよっと」

「ダメですよ」

「えー、なんでー?」

 即アリサに反対され、キュッリッキは唇を尖らせる。

「お食事が済んだら、お昼寝をして下さい」

「…どうして?」

「ヴィヒトリ先生のお言いつけでございます。毎日必ず、昼食後はお昼寝をするように、そう仰っていました」

「ぶぅ」

「ライオンの皆様がお帰りになったとき、寝ちゃってたらどうするんですか?」

 朝から夜まで、ライオン傭兵団の皆は軍に出向している。せっかくベルトルドの屋敷で合宿なのに、会えるのは朝食の時と、夜帰ってきてから数時間だけだった。

「お昼寝のあとでも、探検は出来ますよ」

 グンヒルドにも言われて、キュッリッキは不承不承頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...