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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode365
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出入国管理や税関などのあるもう一つのステーション内は、派手な魔法戦が行われたようで、見るも無残な有様と化していた。屋根には大量の穴があいていて、屋根の機能を成していない。瓦礫と煙たなびくホームの至るところにも、大小のクレーターがあいていた。
「ふむ! 汽車は大丈夫なようだな!」
ホームに立ってふんぞり返りながら汽車を見上げ、ベルトルドは満足そうに頷く。ダエヴァに接収させたこの汽車は、モナルダ大陸でも格式高い屈指の高級汽車だ。
そこへダエヴァの軍人たちが数名駆け寄ってきて敬礼した。
「すぐ出せるか?」
「申し訳ありません、まだ少しゴミがうろついております、閣下」
「フンッ、随分こちらに雑魚戦力を派遣してきているんだな。リッキー目当てだからだろうが。――メルヴィン、アサシンの気配はどうだ?」
「ステーション内には存在していません」
「パウリ」
「はい」
「部下たちと掃除しておけ、汽車を出す」
「承りました」
メルヴィンたちと共にきていた少佐――パウリ少佐は、優雅な敬礼を残して、部下たちと共に敵のいるほうへと消えていった。
「あいつはな、昔マリオンの恋人だった男だ」
にやりとベルトルドが言うと、ルーファスとメルヴィンはびっくりしたように顔を見合わせた。
広々とした個室に区切られた車内は、随所にダエヴァが配置され、物々しい雰囲気に包まれていた。
特別車両の特別室に通されたベルトルドたちは、赤いビロード張りの座席にベルトルドとアルカネットが並んで座り、向かい側にルーファスとメルヴィンが座った。座席自体も大きくゆったりと作られていて、大人が4人ずつ並んで座っても十分余裕だった。その分通路が狭くなっている。
ガラス張りの扉の外には、2人のダエヴァが立って警備にあたる。
「フェルトまでは5時間ほどで着くらしい。奇襲があっても俺がいるから問題ない」
座席に深々と腰をかけ、長い脚を組んでベルトルドはにっこりと微笑んだ。そして隣に座るアルカネットの腕の中で、微動だにせず眠り続けるキュッリッキの頬に、そっと指先で触れた。
「いい加減目を覚まさせてやれ。少しのんびりとした汽車の旅だしな。こういう上等な汽車は、リッキーも初めてだろう、たぶん」
それに、とベルトルドは車窓に目を向ける。
半開きにされた窓枠に、フェンリルがぶら下がって外を珍しそうに見ていた。顎と前脚で窓枠にしがみついて、器用にぶら下がっている。そのあまりにも面白いフェンリルの行動に、ベルトルドは吹き出したいところを必死に我慢した。フローズヴィトニルはルーファスの膝の上で、丸くなって眠ったままである。
「愛らしい寝顔を、ずっと見ていたかったのですけれど……」
左腕でキュッリッキの身体を支えながら、右手を顎に添えると、優しく唇を重ねた。
「あああああ!!」
隣でベルトルドが素っ頓狂な絶叫をあげた。
「どさくさにまぎれてお前は何をしているっ!!」
「眠り姫の眠りを解くのは王子のキスと、相場が決まっているでしょう」
輝くばかりの笑顔でさらりと言われ、きぃいいいっと金切り声をあげながら、ベルトルドは身体を戦慄かせた。
魔法使いの中には、薬学の心得があると、魔法と組み合わせた特別調合の薬品を作り出せる者がいた。そして魔法のかかった薬の効果を打ち消すことができるのは、その薬を作った魔法使いだけである。
当然アルカネットは、薬学にも精通していた。
「俺が消毒してやる! リッキーを寄越せ」
「穢れるの間違いでしょう! 嫌ですよ全く」
顔を突き合わせて子供じみた喧嘩を始めた2人を、ルーファスとメルヴィンが呆気に取られてみていると、アルカネットの腕の中で、キュッリッキが小さくくぐもった声をあげた。
「ん……」
「ふむ! 汽車は大丈夫なようだな!」
ホームに立ってふんぞり返りながら汽車を見上げ、ベルトルドは満足そうに頷く。ダエヴァに接収させたこの汽車は、モナルダ大陸でも格式高い屈指の高級汽車だ。
そこへダエヴァの軍人たちが数名駆け寄ってきて敬礼した。
「すぐ出せるか?」
「申し訳ありません、まだ少しゴミがうろついております、閣下」
「フンッ、随分こちらに雑魚戦力を派遣してきているんだな。リッキー目当てだからだろうが。――メルヴィン、アサシンの気配はどうだ?」
「ステーション内には存在していません」
「パウリ」
「はい」
「部下たちと掃除しておけ、汽車を出す」
「承りました」
メルヴィンたちと共にきていた少佐――パウリ少佐は、優雅な敬礼を残して、部下たちと共に敵のいるほうへと消えていった。
「あいつはな、昔マリオンの恋人だった男だ」
にやりとベルトルドが言うと、ルーファスとメルヴィンはびっくりしたように顔を見合わせた。
広々とした個室に区切られた車内は、随所にダエヴァが配置され、物々しい雰囲気に包まれていた。
特別車両の特別室に通されたベルトルドたちは、赤いビロード張りの座席にベルトルドとアルカネットが並んで座り、向かい側にルーファスとメルヴィンが座った。座席自体も大きくゆったりと作られていて、大人が4人ずつ並んで座っても十分余裕だった。その分通路が狭くなっている。
ガラス張りの扉の外には、2人のダエヴァが立って警備にあたる。
「フェルトまでは5時間ほどで着くらしい。奇襲があっても俺がいるから問題ない」
座席に深々と腰をかけ、長い脚を組んでベルトルドはにっこりと微笑んだ。そして隣に座るアルカネットの腕の中で、微動だにせず眠り続けるキュッリッキの頬に、そっと指先で触れた。
「いい加減目を覚まさせてやれ。少しのんびりとした汽車の旅だしな。こういう上等な汽車は、リッキーも初めてだろう、たぶん」
それに、とベルトルドは車窓に目を向ける。
半開きにされた窓枠に、フェンリルがぶら下がって外を珍しそうに見ていた。顎と前脚で窓枠にしがみついて、器用にぶら下がっている。そのあまりにも面白いフェンリルの行動に、ベルトルドは吹き出したいところを必死に我慢した。フローズヴィトニルはルーファスの膝の上で、丸くなって眠ったままである。
「愛らしい寝顔を、ずっと見ていたかったのですけれど……」
左腕でキュッリッキの身体を支えながら、右手を顎に添えると、優しく唇を重ねた。
「あああああ!!」
隣でベルトルドが素っ頓狂な絶叫をあげた。
「どさくさにまぎれてお前は何をしているっ!!」
「眠り姫の眠りを解くのは王子のキスと、相場が決まっているでしょう」
輝くばかりの笑顔でさらりと言われ、きぃいいいっと金切り声をあげながら、ベルトルドは身体を戦慄かせた。
魔法使いの中には、薬学の心得があると、魔法と組み合わせた特別調合の薬品を作り出せる者がいた。そして魔法のかかった薬の効果を打ち消すことができるのは、その薬を作った魔法使いだけである。
当然アルカネットは、薬学にも精通していた。
「俺が消毒してやる! リッキーを寄越せ」
「穢れるの間違いでしょう! 嫌ですよ全く」
顔を突き合わせて子供じみた喧嘩を始めた2人を、ルーファスとメルヴィンが呆気に取られてみていると、アルカネットの腕の中で、キュッリッキが小さくくぐもった声をあげた。
「ん……」
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