チートスキルと言われてますが何か微妙なスキルです

Not Welcome

閑話①

“ギシギシ”と音を立ててとある部屋に向かう影2つ。

「リュリが部屋に居ないからってわざわざ緋炎に電話しないでよ。取ったのが私だから良かったけどαや団員だったら大変だったわよ」
「だって、うちの可愛いリュリだよ。何処の変態野郎に連れ去られたら大変！」

そう、私、ユーリ・スレイプズは先程までいた宿屋に戻ってきたのだ。横で半泣き状態になっているランジュ・リヴァティーニの要請で。

「気配察知くらいはお茶の子さいさいなんでしょ？」

「たまにリュリ気配消すから。今も消えてるし。これで夜の繁華街とか行ったらどうしよう」

「アンタに気付かれないのって自信持ちなさいよ。宿屋内に居なかったら団員呼び出して市中捜索するから。最後はツバサちゃんの部屋ね。合鍵もってるわよね」

「さすがにここには居ないとは思うけど。貴女の場合は彼女の寝顔が見たいだけでしょ」

「それもあるけどねっ」 

「あるんかいっ！！んっ・・・けどって？」

「彼女、間違ってこの世界きちゃったのよ。他の異世界人様達は自らの意思で来てるから。それに、本当に色々とあって。さっき荷物置きに行った時には疲れて眠ってたけど、今は不安で眠れないだろうなって心配で」

「そっか、そっか」

義理人情に熱いランジュが頷きながらツバサちゃんの部屋の合鍵を入れようとドアノブを握ると扉が開いた。
2人とも顔を見合わせて急いで部屋の中に入るとツバサと探していたリュリの2人がツバサのベッドでスヤスヤと眠っていた。

“キュキュキュキューン！！”

母性愛がキュンキュンする！これが過去の聖乙女がよく叫んでいた萌えとか尊いって奴？

「くっ！天使が！天使が居る！！」
横のランジュが鼻血止まらない状況だったので急いでトイレットペーパーを渡して対処。

私も『アイツ』が作った通信機器にカメラ搭載との事なのでガンガンに撮りまくりました。電池が使用者の魔力なので興奮と魔力消費で疲れたけど。

鼻血が止まって落ち着いたランジュと私はそっと部屋を出て鍵をかけ一階の食堂の椅子に座った。
ランジュは立ち上がり、冷蔵庫からキンキンに冷えたビール缶を２つとアーモンドを取って持ってきた。

「はい、ツマミは乾き物だけど」
「依頼料がこれだと破格だけど可愛いの見れたから良しとしますか」

「「乾杯」」

冷えたビールが喉に直撃する。今日は色々と疲れたからこの一杯がご馳走だ。
アーモンドも食堂のお姉様達の手作りだから美味しい。

「結局、リュリはツバサちゃんが寂しくなるのを察してって事でいいの？」

「人の不安には敏感だからな。それに、気に入ったって言うのもあるのか。俺も気に入ったし」

ランジュは酔い始めたのか頬を赤らめながらアーモンドを頬張る。

「ツバサちゃんもアンタのこと悔しいけど気に入ってるみたいだったしね」

「そりゃよかった」

「この顔面偏差値が高い世界でホッとする存在だからかも」

「まっ、この世界は『乙女ゲーム』の世界とか言われているから俺みたいなモブ顔は癒しにって俺のことディスってるのか？『炎(ホムラ)の女帝』様よ」

「二つ名で呼ばないでよ。彼女もこの世界に呼ばれたのは偶然かはたまた必然なのか。エイロスが見出した時点で必然フラグが掲揚されてるから」

「エイロスの旦那が見出したって言うことは『勇者様』に関わることって事だな。最近『アチラさん』のキナ臭い噂も聞こえてくるし」

「それでじゃないと思う。ただただ・・・」

「ほら、旦那の事考えると疲れるから、だから今は飲もう。互いの大切な人の明日の為に」

言いたい台詞が喉まで来てるけど何か胸が変な感じで出てこない私のおでこに2本目のビール缶を当てて上のツバサちゃんの部屋を指差しニコッと少年の様に微笑むランジュに言ったら絶対こいつつけ上がるから言わないけどホッとしたのは確か。缶のプルタブ開けてそう思いながら飲もうとすると。

「あっそうだ。これからお金発生するから」

「・・・それ早く言え！」

今日はこのまま居て明日ツバサちゃんをギルドに送ってから帰るか。αとβには連絡しておくけど、家には連絡しないでおこう。初朝帰りで阿鼻叫喚する様見てみたいし。
酔ってきたのか少し楽しくなってきたのか自然と笑みが浮かんできた。