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Belle rencontre

アウフォ・ハーフェング サイド 後編 ①

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今日は何故だか薄い桜色のワイシャツを着ている。余り着ない色だからマジックバックの奥に入れていたが、いつも着る服決まっていたからたまには違うのも着てみようかなと。

彼(古の呪い)は今日も誰かと交信している。

今期の聖乙女は、初代に匹敵するくらい痛い奴らしいので彼とエイロスがタッグを組んで妨害しているらしい。
かつては敵対していた存在同士がタッグを組むなんて普通はないよな。
そんな中、除け者になってる俺は寂しいとか思ってないからな。

《で、なんだ。今日彼女が学園に来るって?ふむふむ、エイロスがここに来る様に声かけしたと。ほうほう、アイツやるじゃん》

その話を聞いた俺は勢いよく飛び起きた。
彼の初めて聞く楽しそうな声にも驚いているが、それよりも彼女が来ること。そして、俺の元にようやく現れる。
鼓動が自分でもわかるくらい大きな音を立てている。呼吸もうまくできない。彼女に会う前に俺は死んでしまうのか?否!!だったら彼女の存在を知る前にして欲しかった。これもあのクソ女神の企てか?

《アウフォ、まずは落ち着け。深呼吸だ。こんな高度なことあのアホに出来るわけないから。それに、会う前から興奮してたら会った時はヤバいことになって嫌われるぞ》 

我を忘れかけた俺に諭すように彼は自分が絡みついている俺の心臓に”ポンポン”と手?を当てた。

《その前にここに辿り着けるかも怪しいな。ここはあのアホにしてはあり得ないくらいの強固な封印がしてあるし、この封印を一部でも解除してこの場所に入れるのは聖乙女のみ。でも、一縷の望みは今までこの世界には聖乙女と転生者しか異世界人はこなかったが、あのアホが直に異世界人を召喚したからもしかしていけるかも》

一応、アホだけどこの国の守護女神だからな蒼海の女神ブェラってさ。

俺はダメ元で桜の木におでこを当てて
『是が非でも彼女に会いたいから手助けしてください』と強く願うと、桜の木は答えてくれるかのように揺れ動いた。
1時間後、事務棟の方ででかい破壊音が聞こえたので敵襲か?それともゲイリューン来襲か?と飛び起きたが、彼曰く。

《よく意味わかんないけど、正解者への殴り込み?とか言っていた。ゲイリューンはまだ来ない》
(のちに冒険者ギルド本部の上役の監査だったと聞いた)

なんだか疲れたので桜の木に背をつけて空を見上げた。空を見上げても何もならないことは百も承知だ。この結界からは一生出ることはないから。
無限大の魔力を持っている伝説の不老不死の勇者。平和な時代には無用の産物だしこの学園、強いて言えばこの国の結界の充電器扱い。

「ふぅっ」

“ザワザワ”と枝が揺れる音・・・今まで聞いた音じゃない。

《誰か上にいる。あのアホの事だから上部の結界には誰も来ないから弱くしてるのかもしれないな。斥候だったらマズいからちょっと見て来る》

ん?斥候だとしたら学園自体に入れないはずなんだが。

《えっ!!女の子!?》と言う彼の驚いた声。そして、上から「キャーーーっ!!」と言う叫び声と共に女の子いや、天使が降ってきたので咄嗟に抱きしめた。これがお姫様抱っこって言うやつなのか。

抱きしめた天使は柔らかくて暖かい。ヤバイ、ドキドキが止まらない。

ショートカットの日に照らされ少し茶色の髪と軽く日焼けした肌。全て見透かしてしまう程な大きな目に黒曜石の様な瞳。彼女の瞳には自分が写っている。ドキドキしている彼女が可愛い。

彼女の方も俺を見てくれてるようで、嬉しさがこみ上げて来る。今まで女性に対してこんな感情は起きなかったな。

《おっ、お前なにトキメキ爆発しているんだよ。根元の方が熱いんだけどさ!》

肩越しから彼女と俺を覗き込んでいる彼。

「あっ、ありがとうございます」

初めて聞いた彼女の声。照れるようにボソボソと話すが、今まで聞いた甘ったるい嫌な声じゃなくて良かった。やっぱり可愛い。

「まさか空から人が落ちて来るなんてびっくりしたよ」

自分の発言に感動したが、彼女の心には刺さらなかったみたいだしこの体勢が嫌なのかモゾモゾと動いているのでしかたなくおろすことにした。
ようやく待ちわびた彼女の温もりと柔らかさをもっと感じたかったが嫌われたら嫌なので。
降りた彼女は”ペコリ”と礼儀正しく会釈したが、体はすぐにここから去りたい態度がよく分かる。
これを逃したら2度と会えないかもしれない。最悪この結界(檻)に閉じ込めてもう誰とも会わせずに俺しか見れないように調教しようかと。自分にこんな黒い感情があったのか。

《なんだお前こんな闇を持っていたのか?長く一緒にいたのに気付いていなかったぞ》

彼は肩越しに俺の顔を覗き込んでニヤニヤしだした。
俺だって男だし、待ちわびた運命の天使と言うこともありだし、まあ、初恋って言ったら初恋だし、それ拗らせて束縛願望だし。
目の前の彼女に知られたら逃げられるだろうが、そうなったら全魔力総動して結界ぶち壊して地の果てまで追い詰めて・・・

《ちょっ!!ちょっと待てよ!何、これ!お前の魔力暴走して!ヤバイ!喰われる!》

彼の叫びとも聞こえる声に我を返った瞬間、彼の姿がモヤから大蛇の姿になり、俺の肩越しから彼女へ襲いかかった。
「止めろ!くそっ!うまく魔力制御が出来ない。彼女が・・・えええっ!!!!!」

目の前の彼女は恐怖に慄く事もなく、逃げ出そうともせずにバックから禍々しい程漆黒の刃の双剣を取り出して右腕に付けていた腕輪から防具が現れ自動装着。戦闘態勢OK状態で速攻で暴走して大蛇姿の彼に攻撃を仕掛けた。俺も魔力制御に集中して、彼の意識を呼び戻す。彼の意識の流れを掴み、魔力を流し込み強制的に覚醒させる。
彼女の方も動きが鈍くなってきている、多分前に戦闘したのだろう的疲労が見えている。
最悪、心臓を直接握り潰して呪いの効果を一時的に止める方法に移行するかもしれないな。
ようやく、彼の意識が覚醒したのと同時に別の意味で最悪な状況になってしまった。彼の牙が彼女の右腕に喰らいついたのだ。

昔、彼の呪いを解除しようとした術士が彼に触れた瞬間にボロボロに崩れ去ったことがあったので彼女もとこの身を恨んだが、目の前の彼女は、無傷な姿で武器を地面に落として素手になり、右腕に喰らい付いている彼の首根っこを左手で”ムンズ”と掴み握り潰す様に力を込めた。

「っつ。昔こうやって蛇握り潰して3枚に下ろして蒲焼きにして食べたわね。アンタは美味しいのかしら」

はい?

目の前の出来事に対処出来なくて一瞬俺も彼も思考回路が遮断された。
えっと、古の呪いだぞ。普通は朽ち果てるぞ。普通は恐怖に慄いたりするはずだぞ。痛みに耐え切れずに叫び出すとかのはずなのに。
待ちわびた目の前の天使、いや彼女は予想以上に最高な存在だ。

「《プッ、ハハハハ!!》」

俺も彼もそんな彼女に大爆笑してしまい、彼は大蛇の姿からいつものモヤの形に戻った。
彼女は膝から崩れ落ちて地面にペタンと座り込んだ。顔は何が起きたか分からずに戸惑っている。

「ごめん、ごめん。こいつに立ち向かってくるのも久しぶりだけど、3枚に下ろして蒲焼きって・・・蒲焼きってまずいにきまってるし」

蒲焼きがツボにどハマりしてしまい笑いが治らない。
こんなに笑ったのは生まれて初めてだ。
彼女は俺に初体験を沢山くれる存在だな。やっぱり離したくないと口元がにやけ出す。

《意図的に具現化する前に『俺』の存在に気づくやつ初めてかもしれないぞ、アウフォ》

目の前の彼女が彼の声が聞こえたようで驚愕の表情を浮かべる。これは多分彼との波長があったのか彼に噛まれた副作用かのどちらかだろう。
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