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狙う者と護る者

Chapter 1

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 夜の雲の上を飛行機は飛んでいた。フランスから飛び立った。
30分程過ぎたのだろうか、ファーストクラスの座席に私は座っていた。
窓の外には夜の星が点々としている。少しばかり風の流れが強いのか、カタカタと揺れる事もしばしば。
隣の席に座っているアズマは、目をつむったままで、じっと眺めていても気がつかない。
寝ているのかと気になったが、相手にしないことにした。
とてつもなく暇なこの時間が早く過ぎないかと思っていたが、そんな事があるわけがない。
1900年代の人達は、2018年頃にはワープパネルで世界を越える事ができると考えていたのかもしれないが、世界はこれといって変化していない。
変わっているとすれば、飛行機の設計と事故の発生率くらいね。
「はぁ………」
正面にあるモニターをリモコンで操作すると、色々な文字の配列が出てくる。
英語から日本語設定へと変更して、もう一度アズマの方を振り返ると、横から薄い雑誌の様な物を差し出された。
その表紙には映画などの案内が書かれている。過去のシリーズ作品のファーストムービーなどが見れるらしい。
気の利いた彼の行動に、何も言わずに案内表を手に取り ぺらぺらと捲りはじめる。
「あ、ファンタスティックフォー見れるんだ。それにヒーローズ・リボーンも………」
「昔からそういうジャンルに興味が?」
横から話しかけてきた彼は目を瞑ったまま言っていた。
セリアはそんな彼の姿に、疑問を抱きながらも とりあいず返事を返す。
「うん。ほら、私生まれて物心ついた時には【コレ】だったから。そういう系のドラマとか片っ端から見てたの」
使い慣れた感じの日本語は、まるで変なアクセントすらない。
自分に惚れ惚れする位 上手な日本語だと、誇らしげにしている。
少しニヤけた表情になってしまったのに気がつき、セリアは凛とした表情に戻して、リモコンを扱った。
見たい映画を再生開始すると、忘れていた機内イヤホンを急いで取り出した。
自分の隣で、再び目を瞑ったアズマを余所に、イヤホンを両耳に装備して自分の世界へと入って行く。
無限の可能性の広がる映画の世界へと、どっぷりと引き込まれていった。
日本に到着するのは約12時間。
有り余る時間の中、アズマは辺りを気にしていた。
妙な事は無いか、妙な会話は聞こえてこないかを目を閉じて聞いて行く。
ファーストクラスは人数が少なく、他愛ない会話ばかりしか聞こえてこなかった。
それでも気を抜く事はない。 教授の頼みを守るためにも……………
 食事を終えて食器などの回収をされはじめた。
満足そうな顔をしたセリアは椅子に深く座り直してから横へと振り返る。
直ぐ目の前に座っている彼を見ていると、不思議とドキドキした。
振り返る彼と同時に目を反らす。何してるんだか、と自分に言いながら窓の外へと視線をやった。
外は真っ暗で何も見えない。飛行機というのはこういうものなんだろうか?
じっとしていると、アズマが席から立ち上がる。
「少し外しますね」
「それはいいけれど、そろそろ 警護は止めてくれないかな?」
席を外そうとした彼に対して、少し強く言うと、彼は頷いた。
そのまま後ろへと歩いて行く彼の姿が見えなくなると、また暇が訪れた。
中々経過しない時間に、おじい様の長い話を聞いている時と同じ苦痛が訪れる。
同じ空間に座ったまま時間を過ごすというのは、思っているよりよっぽど疲れるものだ。
再び 映画を見る事に決めたセリア。席を外したアズマの事など気にする事なく自分の事に集中しようとしていた。
 機内の殆どがモニターでゲームをしたり、新聞を読んでいたりなど、できる限りのリラックスをしている。
奥の方にあるトイレへと、客達を見ながら歩いて行き、機体の中間部分へと移動。
トイレの有る個室の前へと行くと、妙な気配を感じた。
さっきまでは誰もいなかったはずの背後から、足音が聞こえる。
振り返り様にアズマは右拳を構えながら背後を確認。気配と同じくらいの背丈。
185㎝はあるだろう黒人男性が右腕を振りかぶっていた。
それと同時に素早く右ストレートを男の胸元へと一直線に伸ばした。
だがそれを相手の左腕が弾きながら右拳を入れ込んで来ようとする。
払われた右手を下から相手の腕へと絡めながら、手首を掴んでの攻撃をしようとしたが、思わぬ衝撃が胸元へと伝わった。
金属のバットでプロの野球選手のスイングを直撃させたような威力。
その一発で、唐突に壁へと叩き付けられる。
アズマが前へと視線を向けた途端に首元を太い腕で押さえつけられる。
後ろの機体の方には音すら聞こえていない様子さった。運悪く誰もいない。
とてつもなく危ない状況だ。 ただ、それだけじゃない。目の前にいる男の異常な力は人間とは思えなかった。
関節部分である肘へと左拳で叩き付けるが、微動だとしていない。
膝打ちも男の腹には届かずに、相手の腕力が更に強くなる。
壁へと押さえつけられて、見えているのは目の前にいる男の睨む姿だ。
「悪いな。だが、ココで、消えてもらわないといけない」
「異常な筋肉の発達。 乱れる脈拍と酸素の大量摂取。肉体強化の能力。 接近戦での勝率は、皆無」
「よく分かってるじゃないか。ほんの一瞬だ。楽に終わる」
セリアを狙ってここまで乗り込んでいたのだろう。
そして彼の能力に対抗するには銃や刃物が必要。だが、そんな物はここには無い。
機内にあるはずがない。 怪力で抑え込まれた状態からは、もう逃げ出す術も通常では無いに等しい。
この二人の会話が行われている今も、ファーストクラスで映画を観賞しているセリアは気づかない。
意外にも冷静そうにしているアズマが口を開いた。
「………楽に、終わるさ」
瞳に映っている男を見ながら言ったアズマは、彼へと向けた視線を外さずにいた。
アズマの妙な態度に困惑しながらも、力を強めようとする。
もちろん動けないアズマは特に何も行動する事なくジッとしていた。
動かない姿に対して更に不気味さを感じた男は、左腕を振り上げて、いっきに殴りこもうとする。
加速する拳はアズマの頭めがけて一直線。逃げ場は、無い………
 直ぐに片が付いた。ファーストクラスへと足を踏み入れて、少し遅い足取りで入口の角に手を置いて止まる。
一息ついてから重い足取りで進んでいく。ぎこちない動きで向かった先はセリアの座っている席。
機内は少し揺れながらも、各自自由に過ごしている中、セリアも映画を観賞していた。
ガンアクションものの映画で、中盤へと差し掛かるであろう男性の苦戦する場面が見える。
集中している彼女は唐突に気配を感じると、ドンっと隣の椅子から人工的な揺れを感じる。
「!?」
横を振り返れば、コートを脱いでワイシャツ姿になっているアズマの姿があった。
さっきと違い顔色が悪く、何だか疲れた様子だ。
モニターを一時停止させて、イヤホンを投げる様に下へと落として彼の方へと顔を寄せた。
見てはいなかったが、きっと倒れる様に座ったのだろう。 
「追手がいたの? 顔色悪いわよ アズマ」
「機体の揺れで体を打ち付けた」
そう言いながら、さっきとは違い、深く座り直した。
リラックスする姿にツッコむ気力も消え、アズマへと人差し指を向ける。
一つ目のボタンしか外してなかったはずなのに、今は二つ目まで開いていた。
それにボタンまで無くなっている。どうやら気がついていなかったらしく、不思議そうな表情をする彼に口を開いた。
「二つ目のボタン、無いわよ。でも、どうせ開けるなら そのくらいの方がオススメよ」
「…………?」
自分の服を見直すとボタンがあった場所を左手で触れて、無くなっている事を再度確認する。
特に表情も変える事なく、頭を後ろへ乗せて眠ろうとしていた。
心配した事になんだか損した気分になりながら、セリアはジッと見つめている。
彼が言っている事が、本当とは思えなかった。なんというか、嘘が下手な人が業と嘘をついたような………
でも、何のためにそんな嘘をつかないといけないのかも分からなかった。
私を護ると言ったのはアズマのはずなのに。
それについては、敵を倒しても主張する事なく 意外にも自由気ままに行動している。
逆にセリアが疑問符を浮かべながら、モニターへと視線を変えた。
停止したままの映画のワンシーンを見つめて、下へと落ちたイヤホンを手に取った。
◆◆◆◆
 10時間後、朝になった日本の空港に二人は到着した。
重い瞼が何度も下がってくる中、アズマはキャリーバックを二つ引いて行く。
春風がホールの向こうから駆け抜けてくるのを感じて、セリアは急いで彼の背中を追った。
新鮮な日本の風景はビルばかりだった。造りの違う建物が沢山立ち並んでいる地に、視線を四方八方へと向ける。
ゴシックロリータの黒い服をひらひらと揺らしながら、アズマの横へと並ぶ。
視線を鋭くしている彼の目は何だか異常に感じた。
辺りには沢山の人がいて、どの人達も個人の物語の中を生きている。
人を避けながらも、行き着いた先はタクシー乗り場。
でも、そこに駐車していた車はタクシーには見えない。何なのかとアズマの後ろからひょっこりと顔を出した。
すると車越しに向いから男の顔が、「よっ」と片手を振っていた。
ジープはエンジンをつけたままで、法衣姿の彼がアズマへと声をかける。
アズマより少し年上だろうか?
でも、何だかアズマより落ち着きはなさそうに見えるのは、気のせいだといいのだけど……
「よぅ、久々だなぁ。オマエが4歳の頃、俺はお前と遊んでたんだが……憶えてる?」
「憶えて……ない。それに親しむ程の仲でもなかった気が………」
「いいからいいから! ほら乗れ。もう安心だ。俺等の街に来りゃ、そりゃ安心っ!!」
そう言いながらも運転席へと乗り込んだ。彼のテンションに追いつけていない自分達。
お坊さんとは思えない動言の彼に、本当にお坊さんなのかと聞く事も無く、ジープの後部座席のドアを開く。
奥へと二つのキャリーバックを詰め込むアズマの姿を見ていると、何気なく視線を感じた気がした。
それも、その方向は斜め上くらいからだ。 元々直感のいい自分も、時にはそんな事もあるのかと、そう思いながら乗り込んだアズマの隣へ座った。
ドアを閉めて一息つくと、アズマの顔が目の前に飛び込んだ。
頬を赤く染めるセリアに倒して、アズマはドアの鍵をロックにしているだけだった。
直ぐに真ん中の席へと座り直すと、ミラーを確認する。
注意深いというか、まるでスパイ映画でも見ているみたいだ。
セリアは溜息を吐くと、車が発進しはじめた。
今から向かう場所が自分達が再びクラス場所。こんな事を事前に準備していたアズマは、何か怪しくもあった。
でも、今 自分を本当に護ってくれそうなのは、彼しかいなかった。
親族は私を引き取りたがらない。唯一 おじい様だけが私を見ていてくれたんだ。
「嬢ちゃん。おじいさんの件については聞いてる。お気の毒に………」
「気を遣わなくてもいいわ。 その事については、私自身 整理がついてるの」
「そうかい。強い子だな嬢ちゃんは…………俺なんて母ちゃんが死んだ日、町中を走りまくってた」
ぽかーんとなった二人に対して、お坊さんの彼はガッハッハと大笑いしていた。
白けている車内に対して彼だけがハイテンション。特にかける言葉もなく、彼の長い話しが続く事となった。
進み始めた車と、春になり川のふもとの桜が散り始めている。
キレイなその光景にセリアが目を輝かせた。
このまま安全に日常を過ごせられるのならいいのだけど、願いはただの願い。
そうなるとは限らない。



 五徳市の一角。その都会とも田舎ともいえないような住宅地。
一つの家の前で車は止まっていた。ジープから降りて出るセリアとアズマ。少しばかり畑の匂いがするのは、少し先にある小さな土地から流れてきているのだろう。
キャリーバックを二つ下ろして、アズマが運転席へと振り返る。
窓を開いた坊さんは、さっきまでと違い少し険しい表情になっていた。
彼に対してアズマは口を開いた。
「日向、例の通りに頼むよ。アンタの能力を信じて」
「わかってるって。俺は強力だ。市の一つくらい、俺等兄弟にかかればシュシュシュのシュだ。んじゃな」
頷いたアズマに笑顔を浮かべて、車が動き始める。
二人の会話を聞いて何のことを話しているのか分からずにいると、家の扉が開いた。
エンジン音で外にいるのが分かったのか、出てきたのは女性だった。
アズマを見るなり、少し微笑みながら外を見ていた。
遠くなっていく車のエンジン音が聞こえると、先に口を開いたのは彼女の方だ。
「けっこう早かったやん。その子がドルビネ教授の? とにかく入って話そっか」
「あぁ、母さんも元気そうでよかった」
目を丸くして、キャリーバック二つを持って玄関へと入ったアズマの後ろ姿を見ていた。
今、彼女の事を母さんと呼んでいたけど、アズマも20代前半。それにしては母親は若い外見で、ちょっとわかりにくい日本語を使っている。
いったい、何者!?
とにかくアズマの後ろをくっ付いて中へと入ると、二階へと繋がる階段から降りてきた一人の人物が視界に映る。
「兄貴、おかえり。じゃないな、初めまして」
「はじめまして、だな。今日からよろしく頼むよ、[[rb:土筆 > つくし]]」
アズマが玄関で靴を脱ぐ姿を見て、マネをする様にセリアがブーツを脱いだ。
その二人の姿を見ている弟の土筆。セリアが振り返ると、何だかジト目で睨む様に見つめていた。
ま、まあ馴れるしかないわよね。ここで暮らす事になるんだから。
少し威圧を感じながらも、リビングへと移動する事になった。
数分もせずに、全員がリビングのソファーへと座る。
テレビではニュースが流れていて、その一面にフランスを飛び立って直ぐの場所が視界に映った。
その地図ではそこが注目されている。
アズマがソレを見ている間に、彼の母が全員分のお茶を用意していた。
『……なので、この漁船に発見された男性は【空から】落ちてきたという事になります。運び込まれた病院から、姿を消した男性。日本を中心に起こっている怪事件に注目していきましょう。それでは、次のニュースです。』
長いテーブルの上に置かれたティーカップにはミルクティーが注がれている。
母が向いのソファーに座ると、話しが始まった。
「それじゃぁ、今日からセリアちゃんもうちの家族やけんね。おじいさんのドルビネ教授の代わりになるわけじゃないけど、相談だったら私もアズマも聞いちゃるよ。部屋は二階の奥でアズマの部屋の隣!」
「あ、ありがとうございます」
丁寧な日本の礼儀で、頭を下げたセリアの姿に少し笑っている。
綺麗に整った部屋はカウンターの向こうにキッチンまであった。
日本といえば和風、というイメージがあるのだけど、こういう暖かい家庭という雰囲気はとても良かった。
頭を上げながら微笑み返すと、彼女が再び口を開く。
「私は功鳥 多加穂でこっちが土筆」
「えっと、セリア・レインベールです。よろしくおねがいします」
「日本語が上手やね~。転校受験も大丈夫だろうから、色々準備しとかんと~」
言いながら立ち上がった彼女はリビングから出て行ってしまった。
土筆はそんな母の姿を見て、ぽかーんとしていると、ソファーの上に置いて有った学ランを手に立ち上がる。
そう、今日は平日なんだ。飛行機が朝早くに日本に到着して、ここに着いたのは7時だった。
今から皆が動き始める時間帯なんだ。
学ランを着る土筆がアズマの方を見てから、床に置いた鞄を持ち上げる。
「帰ってきたら話聞かせてくれよ。どんな仕事してたかさ……」
「わかった。それまでに荷物を整理しておくよ」
去り際に手を振りながら、部屋を出て行った弟の姿を見まもるアズマの顔は、今まで見た事のないような優しい顔だった。
彼も家族は大切な存在なのだ。どんな過去があったとしても、一人間として それだけは絶対じゃないといけない。
少し安心したような気持ちと共に、自分に対しての寂しさを感じる。
私はおじい様しかいなかった。
気持ちが入り混じっていきそうになるセリアに、アズマはそっと肩に手を乗せる。
顔を覗いている彼は一言だけ告げた。
「今日から家族。そう言われたはずじゃなかったかな……?」
そう、多加穂さんが言っていた事だ。でも 血すら繋がっていないのに、大切な存在になれる事なんてある?
彼が心配しているのは分かるけど、本当の目的は何か別の何かのような気がしてならなかった。
おじい様が殺された日、アズマはあの屋敷にいた………。
「わかってるわ。そんな事より、私の受験の事なんだけど」
「今から行けば間に合う。母さんには伝えてある」
という事は車で送ってもらえるという事なのだろう。
飛行機内でのアズマの説明では、規則の薄い私服高校という事だけは聞いていた。
少しばかり緊張するけど、何とかするしかないわ。
「優等生の君なら大丈夫だ。それに、日本語検定一級なんだろ?」
「貴方、私にプレッシャーをかけてるの?。少し黙ってて」
笑みを浮かべながらもリラックスしている様子のアズマ。
今日からが始まりなんだ。 新たなるスタート。
いい方向に行くか悪い方向に行くかも分からない。それはこの世の人間がそうだ。
リセットのきく人生なんて、絶対に存在してはならない。
だから、今あるこの世界を生きていく。個の意思を強く持ち、未来へ向かう為に
◆◆◆
 家の中には誰もいない。アズマだけが家の中で荷物を整理していた。
窓に背を向けるように、フランスから持ってきたデスクの上にノートPC。
部屋の端から延長コードを伸ばし、デスクの下で、色々なコードを接続していた。
デスクライトはデスクの左端あたりにあり、印刷機まで近くに置いて有る。
ベッドや本棚はきっちりと整った場所に置いて、床には絨毯。
元々ある押し入れをクローゼットにして、ダンボールの中に入れ今Dネイルファイルもそこに置いていた。
片付いた部屋を一通り見て、デスクの前にある椅子へと腰を下ろした。
デスクの下にある収納庫を開き、一まとめにされた資料を上へと置き、PCの電源を入れた。
資料には能力についての分析論文までぎっしりと書かれてある。
DNA情報のタンパク量や、変異性の細胞。色々な事が書かれている中で、顔写真まで張られている。
日本語で書かれているその資料はクリップで上に止められていて、沢山の紙が集まっていた。
その中の一枚に、【メラニー・ジョーンズ】と書かれている少女の顔がある。
アズマは小型の録音機のボタンを押すと、一人で喋りはじめる。
「ナンバー19、2018年4月13日 教授のやろうとしていた事を進めるわけにはいかない。ファイルは全て人の見ない場所へ置く事にした。俺は教授との最後の約束。セリア・レインベールの護衛を優先実行にする。報告は以上、このファイルを使うべき人物は、将来現れるはずだ。これだけは言わせてくれ、とてもじゃないが手に負えなくなる程危険だ」
録音機を停止すると、少しの間ジッと動きを止めて、ファイルを手に取りダンボールの中へと入れ込んだ。
全てのファイルを中へと入れ込んで、ガムテープで閉じる。
ガッチリと閉じられた箱を押し入れの奥へと追いやられ、その前や横にも小道具を入れ込む。
床に置いていた、幼いころの道具やアルバム。
ふすまを閉めてしまい、窓の外を眺めた。
青い空が広がっている。
始まりの日。
平凡な日々、とは言えないだろう。
ただ必要なのは目的に忠実である事。それだけだ。
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