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異能力との対峙

Chapter 14

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 休み時間の学園内は、雨のおかげで校舎に生徒達が集中していた。
雷の音にキャーキャーと騒ぐ女子生徒や、好きな話題にテンションを上げる男子生徒。
来夢はそんな廊下を歩き進むと、湿気だらけの空気に気分が悪そうにして、一人の少女を探す。
いつも放課後に集まる超能力研究会の部室へと向かう。
他の学校とは違う西洋ランプの様な電気が、廊下を照らしているのには、やっぱりあまり慣れない気がした。
デザインも西洋寄りなのに、この電気のおかげで廊下は黄色、オレンジの様な感じに見える。
階段を登り、部室の有る塔へと移動していくと、人気が無くなり急に静かになってしまう。
あまり良い感じではないものの、部室からは中の蛍光灯の白い光が廊下まで出ていた。
ドアを開けば、部屋の中に野坂部長と皆の姿が視界に映る。
入ってきた来夢の方へと、セリアが視線を向けてきた。
「やっと見つけたよセリア。ちょっと話があって」
「おい、ソイツは誰だ? 部員意外は立ち入り禁止なんだが」
ポニーテール姿で部長が言うと、来夢も困惑していた。
何の事か分からないまま後ろへ視線を向け、至近距離にいた少女に気がついた。
クールそうなロングヘアーの少女。ブレザーをボタンを解放した彼女の姿に驚いていると、彼女は部屋にいる全員の姿を見て微笑んだ。
面識のあるセリアが立ち上がろうとした時には、もう遅かった。
彼女は口を開き、命令権を手に入れる。
「来夢意外の人は関係ないの、貴方達は黙っていて」
真横にいた来夢が頭の上に疑問符を浮かべている中、部室にいた全員が何事も無かったように自分のしている事へと視線を移す。
既に驚く事もできずに放心状態になったように、ジッとしている来夢の手を[[rb:奈央 > なお]]は引いた。
部室から出て廊下へ移動すると、外の雨の音が強く感じる。
斜めに降り注ぐ雨は窓ガラスへと叩き当っていく。
「ちょ、ちょっと 貴方誰? 今のって貴方の力?」
「そんなのはどうでもいい事よ」
足を止めた彼女が手を離すと、奈央はスマートフォンを取り出してから見慣れないアプリを起動させる。
来夢の方を見てから真剣な表情になっているのに、息を飲んだ。
「私の仲間がアズマの手伝いをしてるのは知ってる? 彼等によると、松園しょうえん区の居酒屋でアズマがピンチらしいの。だから、彼等は来夢に手伝ってほしいって」
「ちょ、ちょっと待って……つまりアズマがピンチだから、同じ能力者の力を借りたいって事?」
「まぁ そうなるわね。あまりセリアにはかぎつけられたくないから…………ほら、早く行くわよ」
アプリが起動した画面には、アズマのいる場所がモニタリングされる。
彼の持っている端末から場所が特定できるようになっているのだろう。
こんなものを造ったのも美鈴みすずの独断行動。
奈央が窓の外を一度見ると走り出す。
湿気ている廊下を滑らない様に走り込んだ奈央の姿に、後を追って駆け出す来夢。
能力者を倒せるのは能力者か、戦い馴れした人。
それは知っていても、前に朱里と一緒に危機に直面した事もあった。
でも、そんな事も考える事をやめていた。
自分を見つけてまでアズマを助けようとしている彼女の背中を追って、名前を知らない彼女と手を組む事を決めた。
意志を固めた二人は、雨の中を駆け、アズマのいる松園区へと向う。

 外の雨音が大きく聞こえ、居酒屋の中も静まり返っていた。
ロウティという女が片手で捕まえているセリアの姿へと視線を向ける。
次第に外は風が強くなりはじめたのか、雨は建物の中まで入り込み、床を少しずつ濡らしていく。
余裕そうにしている男の表情に、嫌なものを感じたが、動く事すらできない。
後ろには、高速移動のできるスリムな男に、黒人の怪力使い。
この居酒屋には他にも色々な人物が集まっている様子だ。
捕まっているセリアを救出する事もできそうになかった。
男はニヤケタ口元を開いて話かけてきた。
「どうだ? 君の戦闘能力には私も評価している。私の組織に入るつもりは………?」
彼の言葉に首を縦に振る事は無かった。
頑固に彼を睨みつけていると、呆れた表情へと変わり、アズマの方へと右手を向けるように上げ始める。
空気がピリピリとしているこの状況で、何をどうすればいいかさえも分からなくなってしまった。
相手はセリアを人質にしていて、入口も完全封鎖状態。
俺が何かをしようとするよりも先に、後ろの入口に立っている彼が動く。
空間移動も、できるのは室内だけに限られてしまっている今、逃げる事は不可能かもしれない。
「そうかそうか、一つだけ教えてあげよう。私の名は比留間 祐二。ナチ第三項派 独立組織。E.F.エフを設立したのは私だ」
エフというのが、奴の組織………
彼等の組織がしようとしている事なら、大体把握している。
とにかく能力者をかき集めているんだ。従わせてでも組織の一員にする[[rb:傲慢 > ごうまん]]なボス。
それが、今俺の目の前にいる男。比留間 祐二。
だが力でねじ伏せられるわけにもいかない。
俺はセリアを護る為に存在しているんだ。
足元を伝って、後ろからすごい振動が起こったのが分かる。
原因となった音は、入口に立っていた男が木の床へと倒れたからだった。
ドズンと沈んだ彼の体に、自分の体まで揺れた。
後ろへと振り返ろうとすると、唐突に右腕を掴まれてしまう。
敵地の中で、敵一人が倒れて俺の腕を掴む。
そんな敵はいるだろうか………反逆者か、もしくは味方といったところか
強引に引かれた腕に、違和感を感じた。
体は風で浮き上がる様に軽くなり、既に地面から足が離れている。
この居酒屋の中にいた攻撃的な人物は、皆床へと倒れて動けなくなってしまっていた。
外へと引っ張り出され、視界に映った人物は肩まで届かない程の伸びた髪を揺らして走る少女の姿。
道路の前へ出た時には自分の体は普通に地面へと足をつけて、彼女に釣られるように走りながら真っ直ぐ進んで行く。
強い雨に打たれて、目の前があまり見えない。とても冷たく、後ろを確認する事もなかった。
人質に取られたエメリナを置いてきてしまった。
これからどうすればいいかすら考えられない。
居酒屋からは、急ぎ足で飛び出してきたジャバスが、左右を見渡して、消えたアズマの姿を探した。
二人して走っている姿を直ぐに目撃されて、彼は走りはじめた。
振り返りながら追ってきているジャバスを見て、アズマは再び前へと視線を向ける。
赤毛の少女はワイシャツ姿に傘すら持っていない。
さっき、店の中にいた高速人間を地面へ叩き付けたのはこの子なのだと、今更ながら考える。
「んやぁ。大丈夫かい? ヤツ等に囲まれてるの見て、放っておけなかったのさ。やっぱり私って良い女ぁ?」
腕を引っ張りながら走っているというのに、殆ど息切れも無さそうだった。
道の角から曲がり、集合住宅街へと入って行く。
風景ががらりと変わり空が開けた空間へと出て、それでも二人は走る。
彼女も彼等 組織の存在を知っているらしい。 彼等が能力者を集めているという事も知ってるという感じだ。
住宅街だというのに20メートル先は視界に映らないくらい、雨の水量は凄まじく、霧でもあるくらいに酷い。
後ろを振り向いてもジャバスの姿は見えなかった。
「君は? 俺の知り合いがまだあの建物にいるんだ。 いかないと!」
引っ張っていた彼女の手を振り払い、その場で足を止める。
組織の大物との対面を終え、緊張が解けたのか、急に疲れが強い重力の様に押しかかる。
この子が力を使っているわけではなさそうだ。
立ち止るアズマが、少しばかり息を切らしている姿の方へと振り返る少女。
不思議そうな表情でアズマを見上げて、眉を寄せて怒っているように少し睨む。
どうして彼女に睨まれないといけないのかと、アズマは直ぐにでも元来た道を戻ろうとUターンする足取りを見せた時だった。
雨に打たれる中、濡れたアズマの袖ごと腕を再び掴んで、二人で動きを止めてしまう。
本当なら、さっきのシチュエーションは最悪なはずだった。
だが、この子に助けられた事で、俺はいまこうして脱出ができた。
あの能力者の数に正面から立ち向かっても、勝てる確率は殆ど無いに等しい。
今はこの子の言葉を聞くまで待つしかなかった。
「何いってんの? まずは自分の安全を確保してからでしょ。大丈夫ですか? 特に頭」
「それは、わかってる」
「わかってるなら 黙って私についてきて、良い廃屋 しってるから」
少女に流されるまま身を任せてしまった。
雨の中 二人の向かった場所は、さっき言っていた一つの廃屋。
車の走る音や雨を弾く音ばかりしか聞こえてこない。
ボロボロの建物の中で、二階の窓際からの風景はとても良いとはいえないものだ。
伸びた木や草達に囲まれて、落書きだらけの秘密基地といった感じのする場所。
窓ガラスの無い窓からは、雨水が入り放題。
少女はそんな場所から外を確認して、彼等が追ってきているかを見ているが、もはや彼等の姿すらない。
やっぱり、逃げてくるもんじゃなかった。
最優先すべきはセリアの安全。貰い物の濡れたジャケットを脱ぎ、少しでも雨水が振り落そうと両手で上下に素早く振る。
布に染みこんだ水は中々払う事はできない。
少女の方へと視線をやると、彼女もびしょびしょに濡れていた。
「よくそこまでして俺を助けたよ。ワイシャツ姿で雨に濡れてまでね」
「………ッッ ずっと見てたの? 透け透けが好きなんて 男ってサイテー」
「ほら、コレを着てくれ。目のやり場がなくなる」
雨水に濡れているジャケットを投げるように彼女の方へと渡すと、それを両手で受け取るなり、濡れて冷たいジャケットを睨みつけていた。
透けているよりマシだろうと、良かれと思って渡したのに、彼女は不機嫌そうにジャケットを羽織って体を隠す。
アズマは片手に持った警棒をポケットへと入れ込む。
敵を倒すならまず、数を減らすのが普通だ。
一人相手なら、高速移動の男でも倒せる自信はある。
怪力のジャバス。確認できていない能力者も含めて、8人弱。
天候は完全に悪い状態だが、戦闘手段が無いわけじゃない。
考え込んで眉を寄せているアズマの顔を覗き込み、少女はジト目で見つめてきていた。
「ねぇ、まさかアイツ等の場所に戻る気? せっかく逃げきれたのに」
「この市内に住んでいるのなら、いずれ戦う事になる。 力には使い時があるんだ。俺は護る人がいる。 さっきは助かったよ。また会ったら、ゆっくり君の能力について……」
「バカじゃないの? 人を護るって、自分の能力じゃん」
「君だって俺を助けた」
「うぅ………な、何さ 私のは気まぐれであって、普通は人を助ける為になんか使わないよ」
「とにかく、俺は行かせてもらう。一対一ならヤツ等でも倒せるはずだ」
自信有り気なアズマに、心配そうな顔をした彼女の視線が階段の方へと向いた。
妙な気配と同時に普通じゃあり得ない程の量の足音が流れ込んでくる。
部屋の中を暴れ回る様な衝撃が床から伝わった時には、部屋の中心に男の姿がある事に気がついた。
居酒屋で入口を塞いでいたヤツだ。能力は加速だろうか?
とにかく早い男だ。 時空間能力の可能性が無いわけでもない。
自分の目で確認した事はないが、そういう能力者がいてもおかしくはない。
事実、科学で解明できないのが超能力の基本なのだから。
男はアズマの方へと向き直りながら口を開く
「一対一なら倒せる? バカな事を言うな。テレポーターが俺を倒すなんてできるわけないだろう」
「テレポーターだって誰が言った? 高速移動に最適な戦闘法の一つや二つ。有るさ」
挑発するように言い放つアズマに、男は一歩踏み出そうとした。
能力の発動にかかるタイミングは既に把握済み。問題は自分と相手が次に何をするかを知らない事だ。
一歩を踏み込んだのと同時に、男の姿は消え行く煙の様に見える。
外の雨の音より大きな足音は廃屋の一室全体に広がり、彼がどこを走ってきているのかは感覚的に理解ができた。
ここまで0.07の出来事だ。 少女が目を丸くしている次の瞬間。
もはや何が起こったのかも相手は理解できていないだろう。
駆け込んできた高速男は、スロー空間の中で透明の壁に弾かれ、地面から足が離れてしまっていた。
殴られでもしたような衝撃と同時に、部屋の壁を破壊して、大きな破壊音が床を伝う。
廊下へと飛び出た男の姿は倒れこみ、アズマは只左手を前へ突き出しているだけ。
男は変な体制で倒れこんだまま、ゆっくりと体を動かしていく。
壁ごと薙ぎ払われた自分の有様に、まだ理解が追い付いていないのか、辺りを見渡している。
少女はアズマの今した事をずっと見ていた。
本当に只左手を前へと出しただけの単純な仕草。
よく少年漫画などで見た事のある光景。
「そ、それって念動力!?」
「まぁな、コイツ等には教えていない芸の一つ。テレキネシスだ………」
立ち上がろうとした男の姿を見て、素早く左手を男の方へと向けた。
ぐっと体を縛られた様に身動きのできなくなった彼は、体を捻ったり足を動かしたりなど脱出を行おうとしていたが無駄。
既に捕まえている状態で、高速移動をしても動く事はできない。
起こるのは地団駄でもしているかのような連続した足音だけだ。
アズマはそのまま、手を仰向けにして手招きでもするような仕草で、彼の体を浮かせたまま移動させる。
自分達のいる部屋の中へと空中ホバー移動を体験させた。
「クッソ! 複数能力を使えるのか、このチートッ!!」
「相手の手の内は先に確認してから攻撃をしかけるんだな。 それとも、お前は確認するだけの駒だったって事かな?」
「チッ……」
舌打ちをした彼の姿に、少女は少し微笑みながらアズマの方へと視線を向けた。
横からジッと見てくるその視線に嫌なものを感じて、彼女の方へと顔を向けると、ニヤニヤとした彼女の顔が視界に映った。
キョロキョロとする高速男の方へと、彼女はゆっくりと右手を向けて人差し指をピンっと向ける。
その体制にアズマは即座に理解する。
念動力で驚いた彼女は、今俺が使った力と同じ能力ではない。
となると地面に横転させるような力といえば、重力や風圧。
おそらく、俺の体を軽々と引っ張ったあの現象といい、重力の操る力を持っているのだろう。
そう
そして能力を乱用していた不登校女子。
監視カメラに映っていたのは、この子だ。すっかり忘れていたが、確かにこんな髪型と服装をしていた。
「よせ。彼には聞く事が……」
「あぁ~指が勝手にぃぃ」
目を閉じてボタンでも押したような仕草と同時に、俺のテレキネシスが力負けした。
強力な重力に男の体は床へと激突して、埃が舞い上がりながらも床には穴が拡がり血が飛んだ。
血の霧吹きでも使った様に空気を舞う血は、下の階から噴射したように見えた。
下は、確認しないほうがいいだろう。悲惨なものがあるのが分かる。
彼女は平然としていた。
手加減しようと思えば、簡単にできたのではないだろうか。
気がつけば、俺は少女の方へと手を向けて首から持ち上げていた。
もちろん触れているわけではない。テレキネシスで彼女の体を浮かせ、足は宙にぶら下がっている。
彼女は人を殺した。許される事ではない。
だが、それは俺も同じだ。
「く、苦し………い」
その声にアズマは手を下へと下げる。
言葉なんて一言も放っていない。 自然と、彼女が能力に集中できないようにする方法を使っていた。
首を絞めて呼吸を止めようとしていたんだ。
彼女の足は地面について、両手で首元を触れていた。
感覚を覚えている。前にもこんな事があった。
「………すまない。敵じゃないんだ。 敵じゃないのに」
「………ッッ ケホッ…………いや、いいよ。皆 結局、仲間なんて誰一人いないから。 裏切らない人なんていないから。私の力で、ショック受けたんだったら……ゴメン」
力でも抜けた様に、アズマは床に腰を下ろして座り込んでしまう。
裏切られる。それは俺の中のトラウマかもしれない。
心拍数が張りあがる様に胸を痛ませる。 彼女は、平然と立っていた。
まるで、久しい人物の前にいるように、悲しいような優しい顔をしている。
人は裏切る。
自分の命が危なくなった時。自分の大切な人が危険な時。
その人物は大きく心を揺れ動かされるだろう。
ガラスの無い窓から入ってくる風に、雨に濡れた身体を透き通り 俺は肩を震わせた。
「ったく。心は子供? ほら、私も一緒にいるからさ。名前は?」
「トラウマだ………いずれ治るさ。 [[rb:功鳥 > こうとり]] [[rb:梓馬 > あずま]]だ」
「アズマかぁ。私は東井 明良。あーちゃんとか あっきゅんって呼んでもいいよぉ♪」
笑顔でそう言ってくる彼女に、何だか神秘的な感じがした。
まるで自分を鏡で見た時の様な違和感。
自分と同類でも見つけたとでも言いた気なのが、彼女の表情から分かった気がした。
いいや、気がしたのではなく本当なのかもしれない。
俺とこの子は、何か共通点がある、気がする。
きっと彼女はそれを知っているんだ。
俺との共通点を…………


 雨の日の平日とは本当に[[rb:人気 > ひとけ]]が無くなり、デパートの中ですら殆ど人の姿が見えない。
売り場から流れてくるメロディー音を聞きながら、二人は進んでいた。
特にこれと言ってする事もなく、買いたいような物も無いのだが、只々 立ち並んでいる品々を見回っていくだけ。
日向は二人分の傘を持ち、前へと先に行く[[rb:魔夜 > まや]]の後ろを付いて行く。
もう夏に向かおうとしているのに、こういう雨の日は肌寒さすら感じる。
今頃、寺の方はどうなっているだろうか。
辺りを見渡しながら無言で考え込んでいると、日向はあるアクセサリーショップで足を止めた。
「どうかしたの?」
彼が何かに引きつけられているのに気がつき、後ろへと振り返りながら彼の方へと視線を向けようとした時だった。
頭から何かをつけられて、今何をされたのかすら理解できない様子でいる魔夜の姿を見て日向は笑顔だ。
自分で頭へと手を移して確認してみれば、何かふわふわとした耳がついているのが分かる。
「やっぱりなぁ。似合うと思ったんだよソレ」
「ちょ、ちょっと…ネコミミじゃないこれ!」
「ほら、お前猫みたいだからな。ツンツンした気高い猫って感じで」
「ダメダメダメェ………! だったら日向も何か付けて言ってよねっ」
赤面している魔夜の姿に、日向は笑いながら前へ進み始めた。
前へと進んで行く彼に付いて行く前に、顔を赤くしたまま、チラチラと自分の映っている鏡を見る魔夜は、ネコミミを外して、元有った場所へと直す。
嫌な予感はしていた。追ってきている何者かは敵のはずだ。
全ての発端は俺の気が緩んだせいだろう。
進んで行く道の正面に、一人の女が立っていた。
スレンダーな体系に半袖のジャケットという、動きやすそうな服装。
彼女の事を俺は知っていた。
まさか、彼女が敵なのか?
睨まれている様にジッと見つめてくる彼女に対して、日向は動きを止めたまま睨んだ。
アクセサリーショップから出てきた魔夜が、突如現れた女の方へと視線を向ける。
相手が動くまで、動いてはいけないような気がするのは二人とも同じ。
日向も魔夜も、戦闘手段のある能力ではない。
戦う事だけは避けたい。
戦うわけにはいかない。


 
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