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アカデミー ⅠーⅦ

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 次の日の研究室では特別議題として、昨日ミーヤがセリア陛下と話した事が話題に成っていた。

「ティナ様申し訳ありませんでした」

「気にする事は無いわ、私だって政略結婚や戦争の火種に使われるかもしれない覚悟は出来てますからね」

 随分と逞しいんだな。

「どうせなら私も国を捨ててしまいましょう」

『えええーーー』

「ティナ思い付きで言葉にして良い事ではないぞ」

アートが考え直させようと必死に取り繕うのをお構い無しで言葉を続ける。

「アートも考えてみてよ、ミーヤが成功しても失敗しても私の立場はどうなると思う?」

「それは・・・囚われの身?」

「そこは疑問形じゃないわよ」

 自分の危機に落ち着いた態度、意外と腹は座ってるんだな。

「元々兄達は私の王位継承権が邪魔だったのよね」

「発言宜しいでしょうか?」

「構わないよミーヤ」

「今思えばそう言う事も含め私をティナ様に付けたのでは無いでしょうか?」

 筋は通ってるな、しかしこのままは不味いだろう、ここで帝国の王族に何かあれば相手の思うツボだ。

「私からも良いかしら?」

「リリス?」

問題を大きく感じたリリスは口止めされてたにも関わらず、生徒会から与えられた情報を公開した。

「関連が有るかは分かりませんが同時に陛下と殿下に襲撃が及んだ場合、事情を把握してるのとしてないのとでは余りににもリスクが違うと思いました」

「リリスありがとう」

アートは暫く考え込むと口を開いた。

「俺は貴賓席での観戦だから大人数が押し寄せる事は無いと思うんだ。
それに探索系の魔法があるしな、広い場所でも無いし致命傷を与える様な魔法も使えないだろう」

「それなら私とミーヤでどうでしょうか?」

「良いんじゃないかな?」

久々に活躍出来るとクリスの瞳は輝き始めたのであった。

「それに俺とクリスなら相手が目標を変えた時にもミーヤを守れるだろう」

「感謝します」

「問題はこっちね・・・」

エマが覇気の無い言葉を発する。

 魔道士組か・・・

「まって、帝国も余程切羽詰まらなければ強硬手段を取らなと思いますわ」

 リリスの自信に満ちた発言は何処からくるのだろう。

「何故言い切れるの?」

「帝国も出来る限り被害を抑えて手に入れたいと考えてる筈です、特にこの国の技術の結晶を輸出で稼ぐのは魅力的ですからね」

「それなら当面は安心だな」

「何故?」

ティナが侵害そうに聞き返すとアートは間髪入れずに答えた。

「婚約なんて先の話だし、まだ考えてもいないからさ」

「やっぱりね」

「分かっていたわ」

「そうよね」

「朴念仁」

「頑張るよ!」

中でもミーヤだけはやる気に満ち溢れていた。

「ティナ、貴方は大丈夫なの?」

エマの言葉に考え込むティナ。

「今は大丈夫だろうけど・・・元々私は目の上のタンコブみたいな存在だからね。
留学先で事故に合い命を落としたら兄達は喜ぶでしょう」

「貴方ね、他人事の様に笑って話す事じゃ無いでしょう」

クリスが呆れる。

「いざと成れば亡命でもするわ、まずは目先の事を考えましょう」

 この国が帝国の植民地に成れば世界の均衡は大きく崩れるよな。

「アート! 考え込んで無いで決定で良いの?」

「あ、ああ」

魔法競技会の出場者はエマに決定したのであった。

 即席だし自信は無いがあれを試してみるしかないか・・・。


 工房に訪れていたアートは職人が作り上げた試作品を手に取っていた。

「これが完全に無の状態なのか?」

「そうじゃ、わしらでは光魔法を付与する事は出来ぬからな、後は殿下の役目ですじゃ」

「了解だ預かって行くよ」

「これは急ぎで作ったがお湯を出す魔晶石は時間を貰いますぞ」

「ああ分かったよ」

10個余りの魔晶石をアイテムボックスにしまい込むと工房を後にした。


  アートは寮に戻ると持ち帰った結晶石に魔力を込め細工を施した。

「それなら奇襲の1発や2発はふせげるだろう」

 ティナの立場も悪くなるだろう、帝国は全てを彼女の企みとし切り捨てるのは目に見えてる。
自分の妹を・・・ゲスだな。
本人が母国に未練無いのがまだ救いだな。
 とにかく陛下の身だけは守らなければ成らない、なんとしてもだ。

 
 ザブーンから馬で半日ほどの所に有る砦では暗殺計画について話し合われていた。

「襲撃の人数は足りているのですか?」

「抜かり無く既に数名は首都に潜入済です、また我々だけで無くザブーンからも僅かですが兵が参加します」

「今の領民や多くの兵達はセリア派に寝返ったから少ないのは仕方が無いでしょう」

「狙いはあくまでもアート殿下だ、セリアを狙ってると見せかけアートの息の根を止めるのだ、良いな」

「心得ました」

黒装束の女は祭壇に祈りを捧げる。

「創造の魔女様、この国を本来有るべき姿に戻せます様力をお貸し下さい」


 暫くして寮にアート宛の荷物が届いた。

「工房からの荷物と言う事は完成したのかな」

箱から1つの部品を取り出すと自分の部屋へ行き、既存のシャワーヘッドと付け替えた。

「さてさて」

作動させると今まで水しか出なかった物が程よい温度の湯が出たのである。

「やったー これで寒い試練から開放されるぞ」

 アートは女子風呂にも取り付ける為に箱を持って入り口までやって来た。

「まだ早い時間だから入ってる人はいないと思うけど・・・」

箱を抱えたまま脱衣所を除くと全ての籠が空なので安心して中へ入って行く。

 10箇所か1箇所1分として10分なら誰か来る前に終わらせる事が可能だ。
しかし女子は毎日こんな大きな風呂に入ってるのか羨ましいな。

作業は予定通り10分で全てを終えた。

 今ならまだ誰も来ないし少し位なら堪能しても大丈夫な気がする。

アートは箱を脱衣所の隅に置くと脱いだ服を上に置き始めた。

「まずはシャワーの調子を・・・うーん快適快適」

続いて浴槽へと身を沈める。

 なんて気持ちが良いんだろう、足を伸ばして風呂に入るなんて何時いらいなんだ。

余りの気落ち良さにウトウトしていると突然脱衣所の扉が開いた。

 非常にまずいぞ長湯し過ぎた様だ。
幸い相手の2人はこちらに気付いて無い様なので、背中を流してる隙にコッソリと抜け出そう。
脱衣所の扉まで来ると一安心し深呼吸をした、。

 これでどうにか成りそうだ。

アートが扉を開けようとすると自動的に開いた。
アートは反射的に目をそむける。

「あら、随分大胆な覗きですね」

「違う・・・誤解なんだ」
 
「会長は恥ずかしく無いのですか、出来れば隠して欲しいのですけど」

少し考えた彼女は持っていたタオルで体を巻き包んだ。

「ここは目立ちますわね」

アートは会長に連れられロッカーの陰へと移動したのである。

「貴方の事だから本当に事情があるのでしょう」

 アートは結晶石を付け替えてた事を話した、しかし風呂の誘惑に負けた事は内緒にした。

「なるほど寮生の為にありがとうございます」

 分かって貰えた様で良かったな

「で・す・が見たのは事実ですよね」

「それはお互い様と言う事で無かった事に」

「出来ません!」

結局の所会長への借り1と言う事で開放される事と成った。

 見たくて見たんじゃ無いのにな・・・。





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