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彼の地へ Ⅰ
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翌日、アートはクリスとリリスに支度を整えさせると旅立ちを告げた。
「殿下、もう少しゆっくりされては如何ですか?」
「ありがとうジェナ、今回は徒歩で視察しながら向かおうと思ってるから直ぐに旅立つよ」
「仕方が有りませんね、ルナレアに着きましたら新しく拡張工事されてる区域もご覧に成って下さい」
「拡張工事?」
「何れ殿下の政策に役立つでしょう」
確かに・・・この国の玄関口であるルナレアが発展すれば国外からの移住者も受け入れやすく成ると言うものか、まだまだ母上には敵わないな。
「分かった、ススミナの事頼むよ」
「承知しております」
3人は宰相のジェナに見送られ城を後にしたのだった。
「アートは本当に歩きでルナレアに向かうつもりなの?」
「まさか! あれさあれ」
アートが笑顔で問いかけるとクリスは困惑しリリスは詠唱を始めた。
「ああ、これね」
「そう、転移魔法」
そう言い終わった瞬間、3人の体はルナレア近郊にある森の中へ移動していた。
「リリスありがとう」
「どういたしまして」
「まずは拡張工事の区画を見てみようか?」
「アート、私は一足先にルナレアに入ってエブリンを探そうと思うのだけど・・・」
「エブリンを同行させるのかい?」
「アートが許可してくれるなら、エブリンは頼りに成るし2要人を1人で護衛は大変かななんて・・・あはは」
「私は賛成よ、エブリンが一緒ならとても心強いわ」
リリスがクリスに合図を送ると、彼女は今まで見せた事の無い笑顔で微笑み返したのだった。
「そうだね、エブリンが同行してくれるか確認を頼むよ」
「任せといて」
クリスは振り返る事無く一目散でルナレアの街へ向かい消えて行った。
ルナレアの街では内陸側に新しい外壁を築く工事と共に新しい検問所を建て、外国籍の船が使う港の拡張工事が行われていた。
「セリア陛下もやる事が盛大ね」
「昔からやる時はとことんやると言う性格だったからね、リリスは大屋敷で休んでてくれるかな?」
「アートはどうするの?」
「一通り見たら基地に顔を出したいんだよね」
「了解よ、大人しく待ってるわ」
リリスは笑顔で手を振りながら立ち去って行った。
かなりの規模で拡張されてる様だ、これだと数千人は軽く受け入れる事が出来るだろう。
アートが感心しながら見学していると不意に背後から声を掛けられた。
「失礼します、お見受けした所アート皇太子殿下でお間違え有りませんか?」
「えーと・・・」
見た事無い娘だな。
「私は海軍ルナレア基地所属のステラと申します。
衛兵から基地に殿下来訪の報告を受けまして、大将キャサリンの名により護衛に伺いました」
「それはそれは」
最近では母上よりキャサリンの方が過保護に思えるんだよな・・・。
護衛は必要無かったが現状の説明を頼むには丁度良いか。
「よろしく頼むねステラ」
「お任せ下さい」
「早速だけど、どの様な感じに仕上がるのかな?」
「ご説明します」
ステラは自分の知っている事を嘘偽り無く話し始めた。
ルナレアの街では新規区画に入国した男性が暮らす事の出来る街を新たに作るらしい。
また既存の一部を開放した後、誰もが立ち入り出来る区画として活用して行き目出度く夫婦に成った者は国内で自由に住居を構える事が出来る権利を与える事に成るそうだ。
俺の考えがしっかりと反映されてる様で良かった。
アートは魔晶石を握り瞳を閉じると、最近では夢にも出て来る様に成った異世界の景色を思い浮かべていた。
この光景は妄想なのかも知れないが理想そのものだ。
もし本当に有る世界なのなら詳しく聞きたいと思う、その為にも帝国には長い間滞在したいと言うものだ。
コウジ・ヒイラギ、父であり勇者である方に・・・。
一通りの見学を終えたアートはキャサリン大将の元へ案内された。
「ようこそ殿下」
「久しぶりだね、キャロルは偶にでも戻って来るのかな?」
「全くですわ、任務上難しいのは分かってますが寂しいものですね」
「そうか・・・良ければ俺から交代要員を探す様に具申しようか?」
「何を言いますか、あの娘が責任を持って行ってる事に寂しいからと言う理由で引き戻せるはずが有りません」
「そうだな、すまなかった」
侍女が入れた茶を席に運んで来た。
「殿下と大切な話が有りますの」
「かしこまりました、御用がある時はお呼び下さい」
ワゴンテーブルを押しながら部屋を出て行く侍女を確認した所でキャロルが口を開いた。
「殿下、間もなく夏季休暇も終わると聞いてますが、アカデミーに通うのを中断してまで帝国に赴く必要が有るのでしょうか?」
「俺は今回の騒動だけで無く、どうしても会っておきたい人物がいるんだ」
「どなたですか?」
「コウイチ・ヒイラギ」
「それって・・・」
「そう、帝国が召喚したと言う勇者だよ」
その言葉を聞いたキャロルは顎を右手で触りながら考え込んでしまった。
「何か不味い事でも有るのかな?」
「・・・まだ確証の取れて無い話なのですが・・・」
「それでも良いから教えてくれないか?」
キャロルは大きく頷いてから語りだした。
「これは帝国に浸透させてる者からの情報ですが、勇者様は現在魔族領へと趣き、現在では消息不明と成ってるそうです」
「うーん・・・何か嫌な感じだな」
「はい、流石に我々でも魔族領に潜入するにはリスクが大きすぎますので・・・申し訳有りません」
「気にしないで良いさ、1つのミスで全てが駄目に成ってしまう事を担っているのだからね」
「真鍮察して頂いて感謝します。
所で今回は1人の様ですが、まさか単身で行くつもりでは有りませんよね?」
「流石に母上も許さないだろうね、心配しないで大丈夫だよ。
クリス他2人の仲間がいるからね」
「それなら安心です」
その後はルナレアの今後に付いてや各国の輸出状況、護衛艦の有無などに付いて夜遅くまで話し合って終了と成った。
「殿下、晩餐の用意が出来てると思いますが如何されますか?」
「有り難いけど大屋敷に戻らせて貰うよ」
「承知しました、影から護衛が守りますけどお許し下さいね」
「分かりました」
反対しても無駄だろうし、折角の好意なのだから快く甘えてしまおう。
大屋敷の扉を開けると数人の侍女が出迎えて来れた。
「お世話に成ります」
「お久しぶりでございます、殿下」
ここも数え切れない程使ってるせいか、侍女たちも硬さが取れ自然な笑顔で出迎えてくれる様に成ったな。
「殿下、食事と入浴どちらを先に行いますか?」
「うん?」
こんな事聞かれたのは初めて何だが、彼女たちに何が有ったんだ?
「ええと・・・食事で頼みます」
「かしこまりました、入浴の際はお声を掛けて下さいませ」
「え、ええー、何故?」
「先程クリス様と一緒にエブリン様がご入浴されまして、殿下の入浴には侍女たちが付くものだよねと聞かれたので、それが常識なのかなと思いました」
あの2人は何をしてるんだか、しかしこれで今までの違和感が腑に落ちたな。
「それともリリス様と・・・」
「無い無い、無いですから1人で入りますから」
アートは侍女の言葉をかき消すと食堂へ早足で向かったのであった。
夜も更けてると言う事で食堂には1人の少女、リリスだけが静かに紅茶を飲んでいた。
「ただいま、リリス」
「おかえりなさい」
「一日退屈な思いをさせてしまったよね、申し訳ない」
「そうでも無かったわよ、クリスやエブリン、侍女さん達が楽しい話を沢山聞かせてくれましたからね」
あー、嫌な予感がするな・・・
「リリス食事は?」
「アートの帰りを待っていたからまだなの」
「そっか、勿論俺もまだだから一緒にね」
これで埋め合わせが出来るとは思わないが、基地での晩餐を断って正解だった。
アートは心の中で胸を撫で降ろすと、当たり障りの無い会話を選びながらリリスと向かい合ったのである。
「殿下、もう少しゆっくりされては如何ですか?」
「ありがとうジェナ、今回は徒歩で視察しながら向かおうと思ってるから直ぐに旅立つよ」
「仕方が有りませんね、ルナレアに着きましたら新しく拡張工事されてる区域もご覧に成って下さい」
「拡張工事?」
「何れ殿下の政策に役立つでしょう」
確かに・・・この国の玄関口であるルナレアが発展すれば国外からの移住者も受け入れやすく成ると言うものか、まだまだ母上には敵わないな。
「分かった、ススミナの事頼むよ」
「承知しております」
3人は宰相のジェナに見送られ城を後にしたのだった。
「アートは本当に歩きでルナレアに向かうつもりなの?」
「まさか! あれさあれ」
アートが笑顔で問いかけるとクリスは困惑しリリスは詠唱を始めた。
「ああ、これね」
「そう、転移魔法」
そう言い終わった瞬間、3人の体はルナレア近郊にある森の中へ移動していた。
「リリスありがとう」
「どういたしまして」
「まずは拡張工事の区画を見てみようか?」
「アート、私は一足先にルナレアに入ってエブリンを探そうと思うのだけど・・・」
「エブリンを同行させるのかい?」
「アートが許可してくれるなら、エブリンは頼りに成るし2要人を1人で護衛は大変かななんて・・・あはは」
「私は賛成よ、エブリンが一緒ならとても心強いわ」
リリスがクリスに合図を送ると、彼女は今まで見せた事の無い笑顔で微笑み返したのだった。
「そうだね、エブリンが同行してくれるか確認を頼むよ」
「任せといて」
クリスは振り返る事無く一目散でルナレアの街へ向かい消えて行った。
ルナレアの街では内陸側に新しい外壁を築く工事と共に新しい検問所を建て、外国籍の船が使う港の拡張工事が行われていた。
「セリア陛下もやる事が盛大ね」
「昔からやる時はとことんやると言う性格だったからね、リリスは大屋敷で休んでてくれるかな?」
「アートはどうするの?」
「一通り見たら基地に顔を出したいんだよね」
「了解よ、大人しく待ってるわ」
リリスは笑顔で手を振りながら立ち去って行った。
かなりの規模で拡張されてる様だ、これだと数千人は軽く受け入れる事が出来るだろう。
アートが感心しながら見学していると不意に背後から声を掛けられた。
「失礼します、お見受けした所アート皇太子殿下でお間違え有りませんか?」
「えーと・・・」
見た事無い娘だな。
「私は海軍ルナレア基地所属のステラと申します。
衛兵から基地に殿下来訪の報告を受けまして、大将キャサリンの名により護衛に伺いました」
「それはそれは」
最近では母上よりキャサリンの方が過保護に思えるんだよな・・・。
護衛は必要無かったが現状の説明を頼むには丁度良いか。
「よろしく頼むねステラ」
「お任せ下さい」
「早速だけど、どの様な感じに仕上がるのかな?」
「ご説明します」
ステラは自分の知っている事を嘘偽り無く話し始めた。
ルナレアの街では新規区画に入国した男性が暮らす事の出来る街を新たに作るらしい。
また既存の一部を開放した後、誰もが立ち入り出来る区画として活用して行き目出度く夫婦に成った者は国内で自由に住居を構える事が出来る権利を与える事に成るそうだ。
俺の考えがしっかりと反映されてる様で良かった。
アートは魔晶石を握り瞳を閉じると、最近では夢にも出て来る様に成った異世界の景色を思い浮かべていた。
この光景は妄想なのかも知れないが理想そのものだ。
もし本当に有る世界なのなら詳しく聞きたいと思う、その為にも帝国には長い間滞在したいと言うものだ。
コウジ・ヒイラギ、父であり勇者である方に・・・。
一通りの見学を終えたアートはキャサリン大将の元へ案内された。
「ようこそ殿下」
「久しぶりだね、キャロルは偶にでも戻って来るのかな?」
「全くですわ、任務上難しいのは分かってますが寂しいものですね」
「そうか・・・良ければ俺から交代要員を探す様に具申しようか?」
「何を言いますか、あの娘が責任を持って行ってる事に寂しいからと言う理由で引き戻せるはずが有りません」
「そうだな、すまなかった」
侍女が入れた茶を席に運んで来た。
「殿下と大切な話が有りますの」
「かしこまりました、御用がある時はお呼び下さい」
ワゴンテーブルを押しながら部屋を出て行く侍女を確認した所でキャロルが口を開いた。
「殿下、間もなく夏季休暇も終わると聞いてますが、アカデミーに通うのを中断してまで帝国に赴く必要が有るのでしょうか?」
「俺は今回の騒動だけで無く、どうしても会っておきたい人物がいるんだ」
「どなたですか?」
「コウイチ・ヒイラギ」
「それって・・・」
「そう、帝国が召喚したと言う勇者だよ」
その言葉を聞いたキャロルは顎を右手で触りながら考え込んでしまった。
「何か不味い事でも有るのかな?」
「・・・まだ確証の取れて無い話なのですが・・・」
「それでも良いから教えてくれないか?」
キャロルは大きく頷いてから語りだした。
「これは帝国に浸透させてる者からの情報ですが、勇者様は現在魔族領へと趣き、現在では消息不明と成ってるそうです」
「うーん・・・何か嫌な感じだな」
「はい、流石に我々でも魔族領に潜入するにはリスクが大きすぎますので・・・申し訳有りません」
「気にしないで良いさ、1つのミスで全てが駄目に成ってしまう事を担っているのだからね」
「真鍮察して頂いて感謝します。
所で今回は1人の様ですが、まさか単身で行くつもりでは有りませんよね?」
「流石に母上も許さないだろうね、心配しないで大丈夫だよ。
クリス他2人の仲間がいるからね」
「それなら安心です」
その後はルナレアの今後に付いてや各国の輸出状況、護衛艦の有無などに付いて夜遅くまで話し合って終了と成った。
「殿下、晩餐の用意が出来てると思いますが如何されますか?」
「有り難いけど大屋敷に戻らせて貰うよ」
「承知しました、影から護衛が守りますけどお許し下さいね」
「分かりました」
反対しても無駄だろうし、折角の好意なのだから快く甘えてしまおう。
大屋敷の扉を開けると数人の侍女が出迎えて来れた。
「お世話に成ります」
「お久しぶりでございます、殿下」
ここも数え切れない程使ってるせいか、侍女たちも硬さが取れ自然な笑顔で出迎えてくれる様に成ったな。
「殿下、食事と入浴どちらを先に行いますか?」
「うん?」
こんな事聞かれたのは初めて何だが、彼女たちに何が有ったんだ?
「ええと・・・食事で頼みます」
「かしこまりました、入浴の際はお声を掛けて下さいませ」
「え、ええー、何故?」
「先程クリス様と一緒にエブリン様がご入浴されまして、殿下の入浴には侍女たちが付くものだよねと聞かれたので、それが常識なのかなと思いました」
あの2人は何をしてるんだか、しかしこれで今までの違和感が腑に落ちたな。
「それともリリス様と・・・」
「無い無い、無いですから1人で入りますから」
アートは侍女の言葉をかき消すと食堂へ早足で向かったのであった。
夜も更けてると言う事で食堂には1人の少女、リリスだけが静かに紅茶を飲んでいた。
「ただいま、リリス」
「おかえりなさい」
「一日退屈な思いをさせてしまったよね、申し訳ない」
「そうでも無かったわよ、クリスやエブリン、侍女さん達が楽しい話を沢山聞かせてくれましたからね」
あー、嫌な予感がするな・・・
「リリス食事は?」
「アートの帰りを待っていたからまだなの」
「そっか、勿論俺もまだだから一緒にね」
これで埋め合わせが出来るとは思わないが、基地での晩餐を断って正解だった。
アートは心の中で胸を撫で降ろすと、当たり障りの無い会話を選びながらリリスと向かい合ったのである。
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