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初任務 Ⅱ

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 作業所から扉を潜り奥へ進むと暗い部屋の中へと導かれた。

「千夏、本当にターゲットがいると思うか?」

「どうだろう・・・」

「夏美、聞こえるか?」

「はいはーい、今ね間取り図を見つけたんだけど、この建物には地下施設があるみたいよ」

「地下か・・・そこが本命かもな」

「急いで合流するからね」

「俺達は作業所から奥の事務室に入ったからなー」

「聞こえたか?」

「地下室ね」

千夏が部屋を調べ始めたので拓哉は更に奥の部屋へと足を踏み入れた。

 「この部屋が一番奥か・・・」

最後の部屋には少し豪華な机と椅子、中央にはソファーがセットで配置されていた。

 管理職の部屋と行った所だ、怪しい箇所は・・・

注意深く探し始める拓哉
その時背後から拓哉を呼ぶ声がしたのである。

「何か見つかったのか?」

「まだ分からないのですが、この金庫のボタンでホコリが付いて無い所があるんです」

夏美が指さした金庫の扉に付いている暗証番号のボタンを見ると、確かに4箇所だけ綺麗な状態であった。

「一通りの組み合わせを試してみますね」

「頼む」

 千夏は中々注意深い正確な様だ、この仕事をして行く上では必要不可欠な能力なんだろう。

「お待たせ、夏美ちゃんが合流しましたよ」

振り返ると足元の高さしか無いアンドロイドが胸を張って立っていた。

「何か分かったの?」

拓哉は集中してる千夏の代わりに説明を始めた。

「私も奥の部屋を見てくるわね」

夏美の姿が消えると同時に千夏の手元で『カチッ』と言う音がした。

「やった! やりましたよ!」

両手を静かに叩き喜ぶ千夏。

「良くやったね」

「はい、開けますね」

千夏は持ち手を回し手前に引く。

「・・・スイッチ?」

中から取り出したのは、アニメに出て来る爆弾でも爆発させる様なスイッチであった。

「何だか危なそうだな」

「戻しますか?」

「他に手掛かり無いし、押すしか無いだろう」

拓哉は千夏からスイッチを受け取ると躊躇なくボタンを押した。

ギギギギギギ・・・

「ちょっと来て!」

 この音、夏美の焦った声、きっと新しい部屋が出現したのだろう・・・

2人が奥の部屋へ駆け込むと拓哉の予想通り、最奥の壁が無くなり空間がポッカリと出現していたのである。

「やったな千夏、お手柄だよ」

「流石、私の妹ね」

「エヘヘへ」

 きっとこの奥に全てが有るのだろうな。

「俺が先頭で進む」

空間に一歩踏み入れると先には地下へ続く階段と成っていた。

「階段だから足元に注意してな」

「はい」

千夏は夏美を持ち上げると服のポケットに収め階段を降り始めた。


 階段を降りた小さなホールに人影は無かった。

「拓哉さん、奥から明かりが」

「人がいるかも知れないな、千夏はここで待ってるんだ」

「はい」

千夏は階段の影に隠れ、拓哉は慎重に中を伺うのだった。

 テレビ?

中には背を向けソファーに座ってる女性がテレビを見ている。

 他に人はいないのか・・・行けそうだ。

音をたてない様に一歩を踏み出した所でテレビに自分が映し出されたのだ。

「やっと来た、随分と慎重だったわね」

「・・・」

「ああ、褒めてるんだから気を悪くしないでね」

女性は立ち上がるとこちらを向いたのである。

 俺達よりは年が上か?
とても犯罪する様な感じには見えないのだけれどな

「俺は探しものをしてるんだ・・・」

「コーギーのアンドロイドでしょう、残念だけどここにはいないわ」

「でも何かを知ってるんだよな?」

「そうね、在り来りだけど私を倒したら教えてあ・げ・る」

彼女は腰に下げた銃へ手を伸ばした。

 飛び道具かよ

考えるのとほぼ同時に脇の机に身を隠す。

「良い反射神経してるわね」

「それはどうも」

拓哉が隠れた机を思いっきり蹴り飛ばすと、重力を無視した様な勢いでソファーに目掛け飛んで行く。

「ちょ、ちょっと」

女性は間一髪で横に飛び交わす。

「凄い力ね」

「そうなんだ」

拓哉は素早く近付くと笑顔で女性の腕を踏みつけた。

「な、何よ体が動かない・・・」

「今の貴方は自分で体を支えられない位重く成ってるんですよ」

「こら! 女性に失礼な言い方しない!」

「紳士的に扱って欲しかったら知ってる事を全て教えて貰えますかね?」

「僕も出来れば紳士でいたいんだけど協力してくれるかな?」

突然の声に振り向くと、申し訳無さそうに腕を極められてる千夏と見知らぬ男性が立っていた。

「・・・」

「紗理奈、油断しすぎだ」

「そうね、お陰で髪も服もホコリだらけだわ」

拓哉は踏み付けてる腕から足をずらすと、両手を上げて降参の合図を示した。

「案外聞き分けが良いのね」

「仲間思いと言って欲しいな」

拓哉は気付いていたのだ、夏美が飛び出すタイミングを見計らってる事に

 後は一瞬の隙さえ出来れば銃を奪い形成を逆転させる事も出来るはずだ。

「そろそろ出ておいでよ」

「・・・」

「彼女が人形使いだと言う事は分かっているんだよ」

「早く出てきなさい、彼を撃つわよ」

服のポケットから夏美が顔を出す。

「そんな所に隠れていたのかい、大人しくこっちに来るんだ」

男性が差し伸べた手に飛び移ると腕をつたい顔に目掛けて走り出した。

「拓哉! 今・・・よ、あれ?」

その瞬間夏美は払った腕に飛ばされ部屋の片隅に転がったのだった。

「残念だったね、僕は10秒先の危険が察知出来る能力を持っているんだ」

 これで万事休すかな・・・

「これで終わりにしましょうか」

「そうだね翔太」

翔太の言葉に答えると同時に、爆発音が部屋に響き渡ったのであった。

 撃、撃たれたんだ背中が熱く痛い、千夏だけは助けたかったのに・・・

拓哉は背中から白煙を上げると同時に崩れ落ちたのだった。

「いやーーー拓哉さーん」

「千夏ダメ、しっかりして」

夏美の声も届かず千夏は意識を失うと髪は宙を舞い始める。

「翔太離れて!」

紗理奈の叫びに慌てて後ろへ飛び退く翔太。

「何が起こった?」

千夏の全身からはパチパチと言う音と共に青白い火花が飛び始めた。

「伏せて」

翔太が伏せると同時に天井から蛍光灯の破片が降り注ぎ家電からは黒い煙が立ち上がる。

 ほんの一瞬の出来事だ部屋が揺れ亀裂が走る、破壊には十分な威力だったのは言うまでも無い事であった。


 背中が熱い・・・俺は撃たれたんだよな。
死んだにしては良い匂いがする・・・これは千夏の匂いか、守れなかった事に未練が有るから思い出してるのかな・・・無事だったのだろうか、それだけが心残りだ。

「拓哉さん、拓哉さん」

 今度は幻聴だ

「拓哉さん、目を覚ましてよ」

「千夏・・・?」

「夏美、拓哉さんが目を覚ましたよ」

「お早う拓哉」

「夏美、千夏・・・俺は?」

「撃たれて気絶してただけよ」

 生きてるのか!

拓哉は何かを思い出した様に勢い良く起き上がった。

「キャッ」

 この柔らかい感触は

弾力に弾かれ元の場所に戻された拓哉は目を凝らして上を見つめた。

 俺は千夏の膝枕で寝てたんだ、という事はもしかして・・・

「ごめん千夏」

「大丈夫ですよ」

慎重に起き上がった所で先程の男女が部屋に入って来た。

「やっと目覚めたのね」

「お前ら!」

「拓哉待った」

夏美が拓哉の前で両手を広げ静止させる。

「この方々は香織さんに頼まれて、私達のテストをされてたのですよ」

「意味がわからないし、この部屋の変わりようは何なんだ?」

千夏が急に申し訳無さそうに顔を背けたので、夏美が代わりに説明を始めるのだった。

「・・・と言う訳よ」

「なるほどね、それで俺達は合格なのか? 不合格なのか?」

「俺は翔太、君達は全員合格だよ」

「私は紗理奈、君に撃ち込んだのは空気を圧縮したものだったの、少しやり過ぎちゃったけどね」

紗理奈はコツンと自分の頭を叩き舌を出した。

「も、もう済んだ事だから良いですよ」

「根に持たないのは男らしくて良いわね、私はそういう子好きよ」

「何を言ってるんだ、大怪我しなかったから良いものを、少し間違えれば香織さんの説教コースだったんだよ」

翔太が紗理奈に詰め寄る。

「アハハハ、香織さんには黙っといてね」

「はい」

拓哉は紗理奈から差し伸べられた手を使い立ち上がった。

「千夏、顔が怖いわよ」

「え、え?」

「彼女が言った事はただの社交辞令だから大丈夫よ」

「夏美は余裕なんだね」

「そうね・・・」

4人は翔太の運転する車で工場を後にしたのだった。



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