56 / 81
【第三章】聖女、英雄、悪女、それぞれのはじまり
第五十六話「はじまる」
しおりを挟む
突拍子もないのでつい口から下品な息が吹き出てしまう。
まったくつかみどころのない性格に振り回されてばかりだ。
誰が女神像を自分だと言う人がいるのだ、と疑問に思ったが目の前にいたと頭を抱えた。
「な、何を言って……」
「これ、私なんです。いつも恥ずかしくなっちゃうんですよね」
無礼にも女神像をペシペシと叩き、面白おかしそうににんまりして顔だけこちらに向けてくる。
「この前の続き……と言いたいところですが」
そう言ってファルサはほうきを床に置くと、女神像の後ろにあるステンドグラスを見上げた。
瞬間、ステンドグラスが大きな音を立てて割れた。
バラバラと吹き飛ぶガラスの破片に私は腕を前に身を丸くする。
かろうじてベンチの裏側にいたので身を守ることが出来たが、ステンドグラスの下にいたファルサには直撃しているはずだ。
「ファルサさん!!」
音がおさまるとすぐに飛び出してファルサを救出しようとする……が、ピタリと足は止まる。
(どうして……)
あれだけ派手に割れたのに、ファルサは無傷で相変わらずの微笑みをたずさえていた。
塵のなったガラスの破片が私の頬をきり、血がにじみだす。
距離のあった私でさえ、血が出ているのにファルサは何事もなかったかのように立っているのだろう?
あきらかにおかしい光景に言葉を失っていると、今度は地響きがして女神像が真っ二つに割れてそこから魔物が飛び出してきた。
「魔物!? ファルサさん!」
危ない、と手を伸ばすがファルサはニコッと笑って走り出し、私の手をとって教会から飛び出す。
外に出ると魔物の集団がおり、護衛としてついてきていた兵士たちが討伐にあたっていた。
こんな小さな村では魔物対策が不十分で、襲われればひとたまりもない。
こうなればいち早く避難することが大事だと、私は外套の裏側に差していた短刀を構えて前に出た。
「戦える人は捕縛の準備を! すぐに村から離れてください!!」
悪女だどうだと言っている余裕はない。
村人たちは悲鳴をあげ、あわてて家財を手に走り逃げていく。
とにかく距離を取ることが先決だと、馬小屋の扉をあけ荷馬車を繋ぎ、村人を乗せて逃がそうとした。
混乱しきった状態で、少しは旅の経験が生きたと必死こいていると、つんざく咆哮とともに魔物が目の前に現れる。
護衛たちと、もともと村に駐在していた兵士たち、力ある男たちが魔物の捕縛に取りかかっていた。
魔物の暴走にも耐えられる強固な網が早急に作られ、各地に届けている。
行き渡っていない村が大半だが、かろうじてこの村は間に合ったようで屋根に乗って網を広げ、上から魔物に落としていく。
それでも数が数で、とらえきれなかった魔物が襲いかかってくる。
逃げられない、ならば隙を作るしかない。
歯を食いしばって短刀を構え、なんとか魔物の動きを止めようと駆けまわる。
レクィエスが英雄として民の期待を一身に背負っているのがよくわかった。
神出鬼没の魔物を唯一葬ることができる存在。
一度現れた魔物は、突然姿を消す。
だが大抵は暴れきった後のこと。
この村が破壊されるまでは魔物が消えることはない。
捕縛した魔物が消えていくことで少しずつ余裕は生まれてきたが、すでに村は半壊状態であった。
「うあっ!?」
トカゲのような見た目をした魔物が建物の隙間から襲いかかってきて、私は地面に押し倒されて手傷を負う。
短刀を突きさそうと腕を振り上げたが、間近で見る魔物の恐ろしさに身がすくむ。
「ぁ……」
蚊の鳴くような声で、私は死を悟る。
断頭台で死んだときとは異なる、戦慄の死だ。
あの時はあきらめの気持ちが強く、打ちひしがれる気持ちで死を待っていた。
(いやだ。レクィエス!!)
死にたくない。
私は生きて、レクィエスを愛し守り抜くと誓った。
彼を愛せるのは私しかいないのだから、絶対にあきらめないと。
いつか、あの子に会って二人で抱きしめるのだと、夢を夢で終わらせない!
「止まれーーっ!!」
無我夢中でそう叫んでいた。
生きるだとか、死ぬだとか、細かいことなんて考えられずに本能だけで動いていた。
レクィエスが私の原動力であり、生きたいと願う理由だ。
――その叫びが届いたかはわからない。
「え……?」
短刀を前に突き出し、固く閉ざしていた目を恐る恐る開く。
切っ先が魔物に突き刺さり、手から腕に赤い血が伝っていた。
攻撃を受けているのに魔物は唸り声一つあげなかった。
まったくつかみどころのない性格に振り回されてばかりだ。
誰が女神像を自分だと言う人がいるのだ、と疑問に思ったが目の前にいたと頭を抱えた。
「な、何を言って……」
「これ、私なんです。いつも恥ずかしくなっちゃうんですよね」
無礼にも女神像をペシペシと叩き、面白おかしそうににんまりして顔だけこちらに向けてくる。
「この前の続き……と言いたいところですが」
そう言ってファルサはほうきを床に置くと、女神像の後ろにあるステンドグラスを見上げた。
瞬間、ステンドグラスが大きな音を立てて割れた。
バラバラと吹き飛ぶガラスの破片に私は腕を前に身を丸くする。
かろうじてベンチの裏側にいたので身を守ることが出来たが、ステンドグラスの下にいたファルサには直撃しているはずだ。
「ファルサさん!!」
音がおさまるとすぐに飛び出してファルサを救出しようとする……が、ピタリと足は止まる。
(どうして……)
あれだけ派手に割れたのに、ファルサは無傷で相変わらずの微笑みをたずさえていた。
塵のなったガラスの破片が私の頬をきり、血がにじみだす。
距離のあった私でさえ、血が出ているのにファルサは何事もなかったかのように立っているのだろう?
あきらかにおかしい光景に言葉を失っていると、今度は地響きがして女神像が真っ二つに割れてそこから魔物が飛び出してきた。
「魔物!? ファルサさん!」
危ない、と手を伸ばすがファルサはニコッと笑って走り出し、私の手をとって教会から飛び出す。
外に出ると魔物の集団がおり、護衛としてついてきていた兵士たちが討伐にあたっていた。
こんな小さな村では魔物対策が不十分で、襲われればひとたまりもない。
こうなればいち早く避難することが大事だと、私は外套の裏側に差していた短刀を構えて前に出た。
「戦える人は捕縛の準備を! すぐに村から離れてください!!」
悪女だどうだと言っている余裕はない。
村人たちは悲鳴をあげ、あわてて家財を手に走り逃げていく。
とにかく距離を取ることが先決だと、馬小屋の扉をあけ荷馬車を繋ぎ、村人を乗せて逃がそうとした。
混乱しきった状態で、少しは旅の経験が生きたと必死こいていると、つんざく咆哮とともに魔物が目の前に現れる。
護衛たちと、もともと村に駐在していた兵士たち、力ある男たちが魔物の捕縛に取りかかっていた。
魔物の暴走にも耐えられる強固な網が早急に作られ、各地に届けている。
行き渡っていない村が大半だが、かろうじてこの村は間に合ったようで屋根に乗って網を広げ、上から魔物に落としていく。
それでも数が数で、とらえきれなかった魔物が襲いかかってくる。
逃げられない、ならば隙を作るしかない。
歯を食いしばって短刀を構え、なんとか魔物の動きを止めようと駆けまわる。
レクィエスが英雄として民の期待を一身に背負っているのがよくわかった。
神出鬼没の魔物を唯一葬ることができる存在。
一度現れた魔物は、突然姿を消す。
だが大抵は暴れきった後のこと。
この村が破壊されるまでは魔物が消えることはない。
捕縛した魔物が消えていくことで少しずつ余裕は生まれてきたが、すでに村は半壊状態であった。
「うあっ!?」
トカゲのような見た目をした魔物が建物の隙間から襲いかかってきて、私は地面に押し倒されて手傷を負う。
短刀を突きさそうと腕を振り上げたが、間近で見る魔物の恐ろしさに身がすくむ。
「ぁ……」
蚊の鳴くような声で、私は死を悟る。
断頭台で死んだときとは異なる、戦慄の死だ。
あの時はあきらめの気持ちが強く、打ちひしがれる気持ちで死を待っていた。
(いやだ。レクィエス!!)
死にたくない。
私は生きて、レクィエスを愛し守り抜くと誓った。
彼を愛せるのは私しかいないのだから、絶対にあきらめないと。
いつか、あの子に会って二人で抱きしめるのだと、夢を夢で終わらせない!
「止まれーーっ!!」
無我夢中でそう叫んでいた。
生きるだとか、死ぬだとか、細かいことなんて考えられずに本能だけで動いていた。
レクィエスが私の原動力であり、生きたいと願う理由だ。
――その叫びが届いたかはわからない。
「え……?」
短刀を前に突き出し、固く閉ざしていた目を恐る恐る開く。
切っ先が魔物に突き刺さり、手から腕に赤い血が伝っていた。
攻撃を受けているのに魔物は唸り声一つあげなかった。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる