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序章「赤の月の章」
第7話「私は兎? 変わったのは……」
私のことを教えてくれなくても、”今の緋月”を知りたいと思った。
これは好奇心と呼ぶのか、それとも夕焼けに胸が焦がされているのか。
「兎が好きです」
「兎?」
白だったり茶色だったり、野山をよく駆けまわる小動物だ。
こんな華やかな街にいるのに、食べ物でもファッションでもなく、山に行けばよく見かける兎があがった。
「兎、かわいいですよね。私も好きです」
「……時羽様はまだ、自分の姿を見ていらっしゃいませんでしたね」
自分の容姿に関しては彼を通じてでしかわかっていない。
濃い藍色であること。
身長が低いので彼とまともに向き合うには背伸びが必要なこと。
今は薄紅色の着物に袴と、動きやすさを重視した格好をしている。
どんな顔立ちなのか。
瞳はどんな色だろうか。
彼の青い瞳はとても美しいのでいつまでも眺めていたい。
そう思うくらいには私の瞳に魅力はあるかと気がかりだった。
(あれ?)
私は彼の前に出て、背伸びをして彼の顔を凝視する。
彼は頬を赤らめて、手で顔を隠して目を反らしてしまった。
「時羽様? あの……どうされました? 俺の顔になにか……」
「緋月さんの目が……」
(青い……けど、少し色が落ちたような)
「なんでもないです。急にごめんなさい」
夕明かりで見え方は変わる。
私は今、どんな色をしているだろうか。
「私の目は何色ですか?」
知りたいのは、彼の目に映る私が何色か。
「八重桜の色です」
風が吹き抜けて、春の匂いがした。
街のところどころに咲く桜の花が夕日色に染まる。
これは”ソメイヨシノ”、八重桜はもう少し桃の濃い色だ。
幾重にも花びらを重ねた花、着物の桜は薄紅色だがもう少し赤みがある。
同じくらい、きっと今の私の頬は染まっているだろう。
(瞳の色よ。顔は……どうなのかしら。ちょっと、それは聞くのが怖い)
街には煌びやかな女性がたくさんいる。
どう考えても私はここにいる女性たちよりもおぼこい顔をしている気がした。
「時羽様っ……!」
突如、彼は血相を変えて私の腕を掴み、路地裏に引っ張っていく。
「緋月さん? 急にどうし……」
彼は余裕がなさそうで、急いで外套を脱ぐと私の頭にのせてホッと息を吐く。
あまりの慌てように首を傾げると、肩から白銀色の髪が前に流れた。
「髪が……」
「昨晩もそうでしたか?」
あまり気にしていなかった、と言った方がいいだろうか。
そういえば月を眺めていたとき、自分まで輝いているような気持ちになっていた。
髪がキラキラしていて……それが月の光だと思っていた。
まさかと思い、私は髪を一束掴んで青くなる。
「昨晩は月を見ていて……。その後すぐに寝ちゃって……」
こんなにもわかりやすい変化なのになぜ気づかなかったのか。
月に酔い、安心して鈍くなっていたのかもしれない。
「月……」
彼は路地裏から空を見上げ、黙り込んでしまう。
同じように空を見上げれば夕暮れに溶け込んだ群青色に白い月が浮かんでいた。
「宿に行きましょう。髪はすみません。隠していただけますか?」
「は……い……」
この髪色は奇異なものだろう。
街を歩いていてもこのような髪をした人はいなかったと、自分に疑問を抱いて一晩過ごした。
翌日、彼は苦肉の策として夜は布で髪を隠してくれと頼んできた。
私の違和感なんて吹き飛ばしてしまうほど、彼がショックを受けているのでつい笑ってしまう。
私のことを私以上に考えてくれる彼の想いがうれしかった。
これは好奇心と呼ぶのか、それとも夕焼けに胸が焦がされているのか。
「兎が好きです」
「兎?」
白だったり茶色だったり、野山をよく駆けまわる小動物だ。
こんな華やかな街にいるのに、食べ物でもファッションでもなく、山に行けばよく見かける兎があがった。
「兎、かわいいですよね。私も好きです」
「……時羽様はまだ、自分の姿を見ていらっしゃいませんでしたね」
自分の容姿に関しては彼を通じてでしかわかっていない。
濃い藍色であること。
身長が低いので彼とまともに向き合うには背伸びが必要なこと。
今は薄紅色の着物に袴と、動きやすさを重視した格好をしている。
どんな顔立ちなのか。
瞳はどんな色だろうか。
彼の青い瞳はとても美しいのでいつまでも眺めていたい。
そう思うくらいには私の瞳に魅力はあるかと気がかりだった。
(あれ?)
私は彼の前に出て、背伸びをして彼の顔を凝視する。
彼は頬を赤らめて、手で顔を隠して目を反らしてしまった。
「時羽様? あの……どうされました? 俺の顔になにか……」
「緋月さんの目が……」
(青い……けど、少し色が落ちたような)
「なんでもないです。急にごめんなさい」
夕明かりで見え方は変わる。
私は今、どんな色をしているだろうか。
「私の目は何色ですか?」
知りたいのは、彼の目に映る私が何色か。
「八重桜の色です」
風が吹き抜けて、春の匂いがした。
街のところどころに咲く桜の花が夕日色に染まる。
これは”ソメイヨシノ”、八重桜はもう少し桃の濃い色だ。
幾重にも花びらを重ねた花、着物の桜は薄紅色だがもう少し赤みがある。
同じくらい、きっと今の私の頬は染まっているだろう。
(瞳の色よ。顔は……どうなのかしら。ちょっと、それは聞くのが怖い)
街には煌びやかな女性がたくさんいる。
どう考えても私はここにいる女性たちよりもおぼこい顔をしている気がした。
「時羽様っ……!」
突如、彼は血相を変えて私の腕を掴み、路地裏に引っ張っていく。
「緋月さん? 急にどうし……」
彼は余裕がなさそうで、急いで外套を脱ぐと私の頭にのせてホッと息を吐く。
あまりの慌てように首を傾げると、肩から白銀色の髪が前に流れた。
「髪が……」
「昨晩もそうでしたか?」
あまり気にしていなかった、と言った方がいいだろうか。
そういえば月を眺めていたとき、自分まで輝いているような気持ちになっていた。
髪がキラキラしていて……それが月の光だと思っていた。
まさかと思い、私は髪を一束掴んで青くなる。
「昨晩は月を見ていて……。その後すぐに寝ちゃって……」
こんなにもわかりやすい変化なのになぜ気づかなかったのか。
月に酔い、安心して鈍くなっていたのかもしれない。
「月……」
彼は路地裏から空を見上げ、黙り込んでしまう。
同じように空を見上げれば夕暮れに溶け込んだ群青色に白い月が浮かんでいた。
「宿に行きましょう。髪はすみません。隠していただけますか?」
「は……い……」
この髪色は奇異なものだろう。
街を歩いていてもこのような髪をした人はいなかったと、自分に疑問を抱いて一晩過ごした。
翌日、彼は苦肉の策として夜は布で髪を隠してくれと頼んできた。
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私のことを私以上に考えてくれる彼の想いがうれしかった。
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