青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第一章【青の月の章】出会い〜14歳

第21話「八重桜の瞳」

「わっ、かわいい」

木彫りの兎が入っており、手のひらにのせればちょこんとして愛らしい。

「はじめて彫刻をしたので不格好ですが……」
「! 緋月が作ったの!?」

問いに彼は頬を赤らめてうなずく。

「すごいわ! 手先が器用なのね! 何の木で出来ているのかしら? 赤いお目目も緋月が描いたの?」

ドキドキが止まらずに早口に舌が回ってしまう。
それに彼はクスッと笑い、木彫りの兎を指で突いた。


「八重桜の木です。姫の目に似せたつもりですがどうでしょう?」

「私の目!? そんな……」

くりくりとした目と目があって、体内すべての熱が顔に集まったかと思うくらい熱くなっていく。
じわじわとこみ上げてくる感情に私はしわくちゃになって笑った。

「緋月にはこんな風に見えてるんだね。ちょっと、恥ずかしいかも」

正直なところ、兎がかわいすぎると恥じらいが大きい。

鏡をみても自分の姿は見慣れてしまい、新鮮味がない。
彼がくれた兎の木彫りはまん丸とした目をして、まるで月に住む兎がやってきたみたいだ。

「……ありがとう、緋月。大事にする」

兎の木彫りを胸に抱きしめて、涙が出そうなくらいの喜びをグッと飲み込んだ。
彼の優しさは欠けた私の心に淡く光をくれる月明かりのようだ。

「姫、空を」

顔をあげると太陽がほとんど沈み、空には月の輪郭が現れている。

「今日は満月かしら? まん丸に見えるわ」
「また月見団子でも食べますか?」
「それもいいわね。……どうせなら秋の月を緋月と見たいわ」
「すみません……」

彼の謝罪を聞き、私は真っ青になって慌てて彼の腕を掴む。

「ごめんなさい! 忙しいとはわかってるの!」

その時期は宮中に多くの人が集まるため、全員が慌ただしく動く。
彼も例外ではなく、毎年その時期は顔も出せないくらいに忙しいようだ。

芹も女官としての仕事があり、私にとって”中秋の名月”は眩しすぎる明かりだった。

「姫はなぜ……」
「? 緋月?」
「いえ。……何でもありません」

そう言って彼は笑顔で取り繕うことが多い。
中途半端に口に出しておいて、私が気にするのをわかっていて言葉を引っ込める。

彼は言葉にするのをためらいがちで、そのたびに私は距離を感じて焼き焦がした。

「何でもなくないでしょ? 私がなに? なんでも聞いていいのよ?」

だからいつも私は彼にやさしくしない。
彼にとって本当に聞いてほしくないことだったとしても、私が彼を知らないことが嫌だから。

「また口に出してしまいましたね……」

うら恥ずかしそうに彼は口元を隠す。

「わざとなの? 私も緋月になんでも聞いてるから、緋月も遠慮しなくていいのに」
「口に出して後悔するだけです。俺は口に出さなくて済むのなら黙っていたいんです」
「それだと私が気になってしょうがないわ。緋月が何を気にしているのか、気になるんだもん」

誰とどこまでなら会話にしていいのか。

その距離感が私には難しい。
芹との距離、彼との距離。

大切な二人であっても会話の仕方はまったく異なると困り果てていた。

「姫はなぜ、そんなに月がお好きなのかなと思ったんです」
「……それだけ?」
「はい、それだけです」

たったそれだけの質問をなぜためらったのだろう。
彼は時々、拍子抜けな質問をしてくる。

それだけ溜め込んでのことだから、私もしっかり聞こうと身構えたので一気に身体の力が抜けた。

「月はお母さまとの思い出が深いの。夜、さみしくなったら月を眺めればいいって。みんな夜はさみしいから。だから月はキレイに光るんだって教えてもらったのよ」

さみしさに泣くのではなく、美しさに泣いてと。
みんながやさしさを求めるから、月はそれに答えて一等キレイになろうとしているんだと。

母と二人で見る月は明るかったけれど、今はほんの少しだけ肩が冷える。
お月見の時期はそれが余計に身に染みるから嫌だ。

……私にとって、月とはその程度の想い出だ。

「時羽様ー? いらっしゃいますかー?」
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