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第一章【青の月の章】出会い〜14歳
第28話「あなたとはじめての」
巾着から取り出した組紐を手のひらにのせ、色を確認できるように行灯に近づける。
穏やかな炎に照らされて元の色がさらに赤く映えた。
「緋色と……桜ですね」
「け、結構頑張ってみたの。緋月みたいに手先が器用じゃないからキレイな出来とはいえないけど……。芹に聞いたりしなかったのよ? 私、一人でやってみるんだって……」
それで……と早口に語ってしまったと小恥ずかしくなり、両頬を包んで目を反らす。
どうせなら行灯の灯りで私の頬の赤さまでかき消してほしいと涙目に願った。
静かな吐息の音でさえ、今の私には敏感で身が震えてしまう。
衣擦れの音にチラッと視線を向ければ、彼が髪を組紐で結びなおそうとしているのが見えた。
「えっ!? 緋月なにを……」
「あれ、違いましたか? てっきり髪をくくるものかと」
「そうなんだけど……っ!」
それで合っているのに目の前で身につけようとされると羞恥心に耐えられない。
女性としてあるまじき目で彼のしぐさを見てしまうので、この目が恨めしいと顔全体を隠した。
どうしても消えてくれない興味は指の隙間から彼を意識して見つめていた。
(やっぱりキレイだなぁ)
長い髪をいつも括っているので結びなおすときの髪の揺れ方が艶めいている。
余計に髪が光の粒をまとってみえるので、まるで月から来た殿方だと錯覚してしまう。
誰もが認める地位も財力もない私だけど、こんなたった一本の組紐で紫紺の瞳に映してもらえるならどれだけ喜ばしいことか。
二つの灯りが彼の顔に影をつくり、どことなく憂えてみえる背景に手を伸ばした。
「姫?」
髪をくくり終えた彼が目を丸くしてこちらを見てくる。
無意識に彼を背景に巻き込んで触れそうになっていたと慌てて手を引っ込めた。
「ごめんなさい。……見てもいい?」
ソワソワしながらも欲張りに視線を送る。
「ははっ、姫がくれたんですよ。見てくれないと困ります」
「そうよね! うん、そう!」
発言がおかしくなっていると、火照る顔を手で扇ぎながら彼の髪を飾る姿を見つめた。
「……キレイね」
薄く開いた口から出てくるのは感嘆の声。
「姫が選んでくれたものですからね。大事にします」
「ひ、必要だったらまた作るわ! 色違いがあってもステキよ! 緋月ならなんでも似合う……」
鮮やかに微笑まれたらどんな色も敵わない。
どんな色に彼への願いを込めればいいのかわからずに、結局名前から色をとった。
今、そばに灯る行灯に溶け込みそうな情熱と揺らめきが好きだった。
「時羽姫?」
「あっ……」
あまりに見つめすぎたと慌てて背を向ける。
心臓がバクバクと激しく音をたて、破裂してしまいそうだ。
これではいくら行燈があっても頬の赤さは誤魔化せないと、私は冷静さを欠いた思考で状況打破を探し出す。
そしてお月見団子を視界に入れるや、今を誤魔化したい一心で彼の口に押しつけた。
「んぐっ……!?」
「おおおお団子! とってもおいしいのよ!! 食べて!!」
何を言って、何をしているのだろう。
恥ずかしさを隠したかったはずなのに、余計に羞恥心をあおるようなことをしている。
人差し指が彼の唇に触れてしまったので、反射的に引っ込めて涙目になった。
彼はお団子を頬張って、喉を鳴らして飲み込んでしまう。
親指で唇をぬぐう姿がなまめかしい。
それから目を離せないとは、あまりに重症だと頭が痛くなった。
「前にも無理やり押し込んできましたね」
「えっ!? あ、そうね! そんなこともあった!」
四年も前のことを引っ張り出されれば、煩う心は上向きに高鳴りだす。
念願かなってのお月見に、私もお団子を口に含んで飲み込んだ。
以前よりもずっと甘い、と口の中に残った甘味を舌先で転がした。
その日のお月見はあまりに幸せで、時間を忘れていつまでも見入っていた。
穏やかな炎に照らされて元の色がさらに赤く映えた。
「緋色と……桜ですね」
「け、結構頑張ってみたの。緋月みたいに手先が器用じゃないからキレイな出来とはいえないけど……。芹に聞いたりしなかったのよ? 私、一人でやってみるんだって……」
それで……と早口に語ってしまったと小恥ずかしくなり、両頬を包んで目を反らす。
どうせなら行灯の灯りで私の頬の赤さまでかき消してほしいと涙目に願った。
静かな吐息の音でさえ、今の私には敏感で身が震えてしまう。
衣擦れの音にチラッと視線を向ければ、彼が髪を組紐で結びなおそうとしているのが見えた。
「えっ!? 緋月なにを……」
「あれ、違いましたか? てっきり髪をくくるものかと」
「そうなんだけど……っ!」
それで合っているのに目の前で身につけようとされると羞恥心に耐えられない。
女性としてあるまじき目で彼のしぐさを見てしまうので、この目が恨めしいと顔全体を隠した。
どうしても消えてくれない興味は指の隙間から彼を意識して見つめていた。
(やっぱりキレイだなぁ)
長い髪をいつも括っているので結びなおすときの髪の揺れ方が艶めいている。
余計に髪が光の粒をまとってみえるので、まるで月から来た殿方だと錯覚してしまう。
誰もが認める地位も財力もない私だけど、こんなたった一本の組紐で紫紺の瞳に映してもらえるならどれだけ喜ばしいことか。
二つの灯りが彼の顔に影をつくり、どことなく憂えてみえる背景に手を伸ばした。
「姫?」
髪をくくり終えた彼が目を丸くしてこちらを見てくる。
無意識に彼を背景に巻き込んで触れそうになっていたと慌てて手を引っ込めた。
「ごめんなさい。……見てもいい?」
ソワソワしながらも欲張りに視線を送る。
「ははっ、姫がくれたんですよ。見てくれないと困ります」
「そうよね! うん、そう!」
発言がおかしくなっていると、火照る顔を手で扇ぎながら彼の髪を飾る姿を見つめた。
「……キレイね」
薄く開いた口から出てくるのは感嘆の声。
「姫が選んでくれたものですからね。大事にします」
「ひ、必要だったらまた作るわ! 色違いがあってもステキよ! 緋月ならなんでも似合う……」
鮮やかに微笑まれたらどんな色も敵わない。
どんな色に彼への願いを込めればいいのかわからずに、結局名前から色をとった。
今、そばに灯る行灯に溶け込みそうな情熱と揺らめきが好きだった。
「時羽姫?」
「あっ……」
あまりに見つめすぎたと慌てて背を向ける。
心臓がバクバクと激しく音をたて、破裂してしまいそうだ。
これではいくら行燈があっても頬の赤さは誤魔化せないと、私は冷静さを欠いた思考で状況打破を探し出す。
そしてお月見団子を視界に入れるや、今を誤魔化したい一心で彼の口に押しつけた。
「んぐっ……!?」
「おおおお団子! とってもおいしいのよ!! 食べて!!」
何を言って、何をしているのだろう。
恥ずかしさを隠したかったはずなのに、余計に羞恥心をあおるようなことをしている。
人差し指が彼の唇に触れてしまったので、反射的に引っ込めて涙目になった。
彼はお団子を頬張って、喉を鳴らして飲み込んでしまう。
親指で唇をぬぐう姿がなまめかしい。
それから目を離せないとは、あまりに重症だと頭が痛くなった。
「前にも無理やり押し込んできましたね」
「えっ!? あ、そうね! そんなこともあった!」
四年も前のことを引っ張り出されれば、煩う心は上向きに高鳴りだす。
念願かなってのお月見に、私もお団子を口に含んで飲み込んだ。
以前よりもずっと甘い、と口の中に残った甘味を舌先で転がした。
その日のお月見はあまりに幸せで、時間を忘れていつまでも見入っていた。
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