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第二章【青の月の章】15歳
第39話「浅葱の恋バナ」
十五歳になって数か月、夏の暑い日差しと着物の重みに疲弊する時期がやってきた。
木にくっついてミーンミーンと鳴き続けるセミはたくましいと、扇で顔の汗を吹き飛ばそうとした。
「とーわちゃん!」
顔を上げれば屋根からストンと降りて着地した浅葱がいた。
奇妙な現れ方にはすっかり慣れ、私はにっこりと微笑み返す。
「浅葱さん、こんにちは」
「こんちゃー……って、もっと驚いてよー」
「慣れましたから」
「それだと隠密行動をする身としては複雑だなぁ」
浅葱と彼は鬼狩りで、通常の男性より身体能力がずっと高い。
彼がここに来るのに難がなかったのは、そもそも誰にも気づかれていなかったからと知り拍子抜けした。
浅葱がふてくされて縁側に腰かけると、私の手元を見て首を傾げる。
「なにそれ? 花?」
「花を乾燥させてみたの。花びらや散る前の花を大事にしたいなーって思って」
作ったがその後の活用までは考えておらず、成功したものだけ膝にのせていた。
やってみたはいいものの、キレイに乾燥させるのが難しく手元に残ったものを見て気持ちが沈んでいた。
「花を長持ちさせたいなんて傲慢だったかしら」
「うーん。割と試してる人いるんじゃないかなー? 花の色で染め物だってするんだし」
「藍染ね。とってもキレイよねー」
「時羽ちゃんと同じ色だ」
「……私の髪はあそこまでキレイじゃないわ。もっとくすんだ色だもの」
藍染は華やかで誰もが目を奪われる鮮やかさをもつ。
私の髪はせいぜい黒をたっぷり染みこませた藍色だろう。
光の粒をまとって麗しさを極める彼のようにはいかないと、ヘラヘラ笑った。
それに浅葱は能天気な返事を返すと、私の膝に乗った花びらを一枚手に取って太陽にかざす。
「なぁ、時羽ちゃん。お願いがあるんだけど」
「お願い? なあに、何でも言って!」
浅葱が頼み事なんて珍しいと前のめりになる。
うれしくてつい頬がゆるんでしまい、指先で口角を抑えていると浅葱が照れくさそうにして後頭部をかく。
「その……プレゼントしたい奴がいるんだ」
「プレゼント?」
浅葱はえくぼを浮かせ、八重歯をみせてくすぐったそうに笑っていた。
「オレさ、婚約者がいるんだよね」
「婚約者!?」
衝撃的な言葉に私はぎょっとして目を丸くする。
こういう反応がくるとわかっていた浅葱は、両手で顔面を覆って天を仰いだ。
「意外とか言わないでくれよー!? オレなりに大事に想ってんだから!」
「言わないよ! ちょっとびっくりしただけで……」
そうだ、私も浅葱も結婚していてもおかしくない年齢だ。
適齢期でもあり、考え方では遅いと言う人もいるだろう。
となれば彼も例外ではなく、浅葱と同じように決まった相手がいるかもしれないと嫌な想像をしてしまった。
「あー、心配しなくていいよ? アイツにはそういう相手いないから」
「ふあっ!?」
図星をつかれ声が裏返ってしまった。
あまりの恥ずかしさに熱くなった頬を強く押し、泣きっ面に蜂。
(もーっ! 芹も嫁いでしまったから私が鈍いだけかと思っちゃう!)
足をパタパタさせたかったが、膝にのせた乾燥した花びらが飛んでしまうので慌てておさえる。
浅葱には何でも見透かされている気分になって、ムスッと頬を膨らませた。
「それで、プレゼントって言ってましたが何を贈るんですか?」
「それだよー。そこを時羽ちゃんに相談したいんだよー」
頭を抱えている姿は見えないはずの煙がプスプス出ているように見えた。
「何を贈ったらいいかわかんなくてよ」
「今まではどうしてたんですか?」
「いっ……ままでは適当に新しい着物とか宮中で流行ってる菓子類とか」
別にそれは普通の贈り物のため、悩む必要はないように思える。
わざわざ相談するとなれば、今までにない深刻な問題があるからだろう。
「今までと違うものを贈りたいとして、何かイメージはありますか?」
「イメージかぁ……。うう~ん」
人の行動は事細かに見ているが、自分が主体となって何かをするとなれば雑になりがちらしい。
相手を大事に想うからこそ、しっかりとケジメをつけたいと察し、私は微笑ましい気持ちに緩く笑んだ。
木にくっついてミーンミーンと鳴き続けるセミはたくましいと、扇で顔の汗を吹き飛ばそうとした。
「とーわちゃん!」
顔を上げれば屋根からストンと降りて着地した浅葱がいた。
奇妙な現れ方にはすっかり慣れ、私はにっこりと微笑み返す。
「浅葱さん、こんにちは」
「こんちゃー……って、もっと驚いてよー」
「慣れましたから」
「それだと隠密行動をする身としては複雑だなぁ」
浅葱と彼は鬼狩りで、通常の男性より身体能力がずっと高い。
彼がここに来るのに難がなかったのは、そもそも誰にも気づかれていなかったからと知り拍子抜けした。
浅葱がふてくされて縁側に腰かけると、私の手元を見て首を傾げる。
「なにそれ? 花?」
「花を乾燥させてみたの。花びらや散る前の花を大事にしたいなーって思って」
作ったがその後の活用までは考えておらず、成功したものだけ膝にのせていた。
やってみたはいいものの、キレイに乾燥させるのが難しく手元に残ったものを見て気持ちが沈んでいた。
「花を長持ちさせたいなんて傲慢だったかしら」
「うーん。割と試してる人いるんじゃないかなー? 花の色で染め物だってするんだし」
「藍染ね。とってもキレイよねー」
「時羽ちゃんと同じ色だ」
「……私の髪はあそこまでキレイじゃないわ。もっとくすんだ色だもの」
藍染は華やかで誰もが目を奪われる鮮やかさをもつ。
私の髪はせいぜい黒をたっぷり染みこませた藍色だろう。
光の粒をまとって麗しさを極める彼のようにはいかないと、ヘラヘラ笑った。
それに浅葱は能天気な返事を返すと、私の膝に乗った花びらを一枚手に取って太陽にかざす。
「なぁ、時羽ちゃん。お願いがあるんだけど」
「お願い? なあに、何でも言って!」
浅葱が頼み事なんて珍しいと前のめりになる。
うれしくてつい頬がゆるんでしまい、指先で口角を抑えていると浅葱が照れくさそうにして後頭部をかく。
「その……プレゼントしたい奴がいるんだ」
「プレゼント?」
浅葱はえくぼを浮かせ、八重歯をみせてくすぐったそうに笑っていた。
「オレさ、婚約者がいるんだよね」
「婚約者!?」
衝撃的な言葉に私はぎょっとして目を丸くする。
こういう反応がくるとわかっていた浅葱は、両手で顔面を覆って天を仰いだ。
「意外とか言わないでくれよー!? オレなりに大事に想ってんだから!」
「言わないよ! ちょっとびっくりしただけで……」
そうだ、私も浅葱も結婚していてもおかしくない年齢だ。
適齢期でもあり、考え方では遅いと言う人もいるだろう。
となれば彼も例外ではなく、浅葱と同じように決まった相手がいるかもしれないと嫌な想像をしてしまった。
「あー、心配しなくていいよ? アイツにはそういう相手いないから」
「ふあっ!?」
図星をつかれ声が裏返ってしまった。
あまりの恥ずかしさに熱くなった頬を強く押し、泣きっ面に蜂。
(もーっ! 芹も嫁いでしまったから私が鈍いだけかと思っちゃう!)
足をパタパタさせたかったが、膝にのせた乾燥した花びらが飛んでしまうので慌てておさえる。
浅葱には何でも見透かされている気分になって、ムスッと頬を膨らませた。
「それで、プレゼントって言ってましたが何を贈るんですか?」
「それだよー。そこを時羽ちゃんに相談したいんだよー」
頭を抱えている姿は見えないはずの煙がプスプス出ているように見えた。
「何を贈ったらいいかわかんなくてよ」
「今まではどうしてたんですか?」
「いっ……ままでは適当に新しい着物とか宮中で流行ってる菓子類とか」
別にそれは普通の贈り物のため、悩む必要はないように思える。
わざわざ相談するとなれば、今までにない深刻な問題があるからだろう。
「今までと違うものを贈りたいとして、何かイメージはありますか?」
「イメージかぁ……。うう~ん」
人の行動は事細かに見ているが、自分が主体となって何かをするとなれば雑になりがちらしい。
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