青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第二章【青の月の章】15歳

第41話「はじめまして、桃さん」

「あ……うん。なにか作れないかなーと思ったんだけど、いざ出来たらアレンジが思いつかないの」

キレイに出来たもの、上手くいかずに茶色くなってしまったもの。
上手く乾いた花を布にのせていたが、これからどうしようかと思い悩んでいた。

「……お香」

彼が何気なく呟いたことに私は思いがけない発想が浮かんだ。
背伸びをして彼の着物をつかむと鼻を近づけてスンスンと嗅いでみる。

驚いた彼が後ずさり、目を回して手の甲で口元を隠した。

「なにをして……!」
「あぁ、ごめんね。お香なら着物に焚いてるのかなって」

特別着物に香は焚いていなかった。
これといった香りもなく、彼の個性は見た目に現れているだけだった。

「香は焚きません。鬼狩りに香は弱みとなりますから」
「そっかぁ……。桃さんにお香を贈っても大丈夫だった?」
「もちろん。桃は一族の者ですが、支援側なんです。戦いに出る女性はほんの一部ですよ」

彼が鬼狩り一族とわかってから、少しずつではあるが秘密を明かしてくれるようになった。

私から追及するのは彼を困らせるので。彼のペースで話してくれればいいと思っていた。

「ならお香は大丈夫ね。それで、どうしてお香が気になったの?」

何か理由があるはずだとまっすぐに彼の目を覗き込めば、彼は頬を赤くして目を反らす。

「姫が作っていた乾燥花。あれに香りがつけば匂い袋になっていいのでは、と思っただけです」
「匂い袋! わー、それすごくステキな考えだわ!」

そうすれば乾燥花を巾着に詰め込んで、お香で匂いづけしてみたり。

中身が見えるように薄い布にくるんで組紐で結べば、帯にさげることだって出来る。

もっと材料があれば乾燥花を樹脂で固めて髪飾りだって作れそうだと夢が広がった。

「決めたわ! 私、桃さんに匂い袋を贈る!」

それで浅葱と桃を祝福しようと気合いを入れていた。
彼がゆっくり微笑んでくれたので、今の私は怖いものなんてないと誇らしい気持ちになっていた。

***

それから思い切って側室たちのいる広い寝殿に入り、宦官たちに香を用意してほしいと頼んだ。

眉をひそめながらも宦官たちは香の種類を説明してくれた。
私はそこから一番甘い香りを選び、ウキウキになって寝殿を去ろうとした。

(おっと……。危ないあぶない)

勢いに進んでいれば角で人とぶつかっていた。
ささっと柱の影に隠れて何名かの女性たちが通り過ぎていくのを待つ。

(キレイな方……。お母さまと同じくらいかしら?)

もしかすると生きていた頃の母を知る人物かもしれない。
女官たちを後ろに連れて歩く姿は雅で強者のオーラを出していた。

(まぁいいわ。正室や側室の方々とは関わらないし)

今は桃へのプレゼントを作ることに専念しようと、さっさと庭を抜けていった。

***

それから数日後、乾燥した花びらに香を焚きつけ匂い袋を完成させた。

我ながら良い出来だと鼻を高くしていると、爽やかな風が吹き抜けて新緑を揺らした。


「やっほー! 時羽ちゃん、遊びに来たよー!」

「浅葱さん! と……」

お団子にほんのり桃に染まった頬、丸っこい目をした愛らしい女性が隣に立っている。

そばかすの女性はほんわかと笑顔を絶やすことなく、私の前に駆け寄って頭を深々と下げた。

「姫様、お初にお目にかかります。桃、と申します。浅葱からお話は聞いておりましたが、無礼ばかりで申し訳ございません」

「無礼なんて……! 浅葱さんのおかげで楽しいことがたくさんあるわ!」
「ほら、桃。時羽ちゃんはフレンドリーだから気にしなくていいって言ったじゃん」
「でもお姫様だよ? あたしたちが口を聞いていい方じゃない」

私に鬼狩りの立ち位置はわからない。

彼も自分を卑下するような言動が多く、表立って言えるお役目でもないのでマイナス思考になりやすいのかもしれない。

立派に鬼から国を守っているのだから、もっと日の目を見てほしいと思いながら私は桃に手を伸ばした。

ひび割れの目立つ手を両手でそっと包み込む。

「ひ、姫様!?」
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