青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第二章【青の月の章】15歳

第42話「新しいともだち」

「桃さん、浅葱さんの婚約者なんですってね。もうずいぶんと長いのかしら?」
「うえぇっと……はい。とは言っても兄妹みたいに育ちましたから」

鬼狩り一族がどういう人で構成されているかはわからないが、生まれながらに鬼狩りとなるよう育てられているのだろう。

浅葱や彼の身のこなしは普通の兵士には出来ない卓越した能力だった。

「二人とも、よかったら座って。桃さんには渡したいものがあるの」

そう言って縁側を軽く叩き、二人に座るよう促した。
私は部屋に入って大切にしまっていた匂い袋を持ち、桃の前に膝をつく。

「これ、作ってみたの。香りが落ちたら他の香を焚いてみて」

浅葱が香を用意しているはずなので、繰り返し使えるだろう。

「匂い袋ですか……?」

ぎゅっと桃の手に握らせると、和やかな気持ちになって口角がゆるんだ。

「浅葱さんから桃さんのことを聞いて、私なりに考えたの。気に入ってくれたらうれしい」
「そんなっ……こんな素敵なものを」

桃は目を赤くして、鼻をスンスン鳴らしながらはにかんだ。

「ありがとうございます。大切にします」

正直なところ、浅葱が香を贈っているはずなので被ってしまうのは気が引けた。

彼が鬼狩りは匂いをつけないと言っていたが、桃は支援要員のため支障はない。

浅葱が贈った香を普段から身につけられるように出来たらと考え、気軽に香りを変えられるものにした。

彼のアイデアがなければまた組紐を作っていたかもしれない。

あまり人に渡しすぎると、彼が不機嫌になってしまうので助かったと安堵の息をついた。


それからすぐに桃と打ち解けて、浅葱が席を外している間は恋バナに花を咲かせた。

「浅葱から姫様と緋……月さんのことは聞いてます」

一瞬、彼の名を呼ぶのに戸惑いをみせていた。
余計なことは言うまいと私はうなずいて前髪を指で触りだす。

「二人って仲が良いよね。見ていて楽しいわ」
「仲が良い……んですかね? たしかによく喋るようにはなったなぁと思いますけど」
「前はそうでもなかったの?」

あんなに軽口を叩いているのに……。

「鬼狩りはみんなあまり仲良くないんです。浅葱みたいなタイプは珍しいです」
「仲良くないって……親兄弟も?」

戸惑い一つなく桃がうなずき、私の胸は塞がってしまった。

「緋月は最初から気さくに接してくれたわ。すごくやさしい人だなって」
「それを聞いたとき、少し意外でした。兎の木彫りを彫るような人じゃないですから。鬼狩りの中でも彼は……」

「桃」

どこからともなく目の前に彼が現れ、目を細めて笑う。
あまりの空虚さに私は彼の知らない一面を見た。

「ひ、ひ……づきさん」
「浅葱といっしょに? アイツはどこに隠れてるんだ?」
「あ……っと、姫様とお話をって席を外して……」
「そう。時羽姫、彼女となら仲良くしていいですよ」

「……」
「姫?」
「あっ……ごめんなさい。彼女ならってどういう意味?」

(いけない。ちょっとビックリしたな。オーバーに受け取りすぎちゃった)

胸に手を当て、彼を見上げてにっこりと笑顔を向ける。
それに彼はパッと目を反らし、口を隠しながら眉根を寄せていた。

「浅葱は異性ですから……。彼女なら同性ですし、話し相手になるでしょう」
「そうね。芹がいなくなってからお話する機会も減ったから」

「すみません。俺もあまり来れずにいて」
「ううん! 仕方ないわ! お役目の方がずっと大事だもの! 私はこうして緋月とお話が出来るだけで充分!」
「……はい。そう、ですね。俺も時羽姫とお話出来ることがうれしいですから」

彼にとってささいな言葉でも私には顔に熱が凝縮されるほどに喜ばしいものだ。
両手で頬を抑えていると、前髪が伸びてきたと思い指先でかきわけた。

「あれー? 緋月も来たのかぁ?」

能天気な声とともに戸口の方から浅葱がやってくる。

遠慮なく家屋に入ってるので、彼の目が鋭くなって瞬時に浅葱を引っ張り追い出そうとした。

騒がしくもめる二人に私は慣れているが、桃には珍しく見えるようでポカンと口を開いていた。

こうして私に新しい友人ができ、同性として心強い存在になっていった。
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