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第三章【青の月の章】16歳
第50話「芹のおうちに訪問!」
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河川敷、草紅葉に染まる道を歩いて私は藍染に飾られた髪を揺らす。
民を装うための着倒した小袖に、草花に擦れる草履。
地味な装いにしては一点だけ高価な藍染の飾りだが、地毛と色が似ているため目立ちはしなかった。
頭に花が咲いた気分、と意味をはき違えてのほほんと喜びをかみしめていた。
「桃さん、ありがとね」
隣を歩く桃にはにかむと、桃は照れ笑いをしてお団子頭を指でいじくった。
「いえ、あたしも芹さんにお会いしたかったので」
その返答にニコッと笑い合うと、私はうんと空に腕を伸ばした。
今日は毎年恒例、宮中大忙しのお月見の日だ。
芹は駆り出される側だったが、桃は所属が鬼狩り一族のため女官としてドタバタすることはない。
せっかく芹が忙しさから解放されたので、いっそお月見を楽しむ側になろうと計画し、当日を迎えた。
桃が抱える風呂敷の中には、月見団子を敷きつけた重箱が入っている。
私と桃でせっせと作ったもので、芹がどんな反応をするのか今から楽しみであった。
「あら、姫様。髪飾りの紐が切れております」
「えっ?」
桃の声かけに振り向けば、紐が切れて藍染の髪飾りが草むらに落下した。
一つに括っていた髪がほどけてしまい、前にかきよせながら髪飾りを拾う。
「気づかずに申し訳ございません。そこまで摩耗してるとは……」
「ずっと使ってたものね。帰ったら紐をつけなおすわ」
困惑する桃に大丈夫だと微笑んで、切れた紐を帯びにしまい込む。
毎日飽きることなくつけていれば当然だと、少し控えめにしようと苦笑いをした。
***
「時羽様! 桃さん!」
昼下がりに芹の住むお屋敷に到着し、私たちは再会に抱きしめあう。
「こんにちは、時羽姫様。お越しくださりありがとうございます」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
芹の夫も歓迎してくれ、ホッと胸を撫でおろす。
ほとんど会話をしたことがなく、芹に聞いていただけだが人のよさそうな雰囲気だ。
ニコニコと笑みを絶やさず、温厚さが見てとれて”ちょうどいい”という感想を抱いた。
(芹はちょっと怒りっぽいからね)
二人に招かれ、お屋敷の内庭に御座を敷いてお月見の会をはじめる。
まだ昼間のため月は見えないが、遅くに出歩くわけにもいかないので雰囲気だけお月見だ。
芹の淹れてくれた抹茶を飲みながら「ふー」と長く息を吐いた。
「芹、よかったね。旦那さん、大事にしてくれてるんだなぁって思ったよ」
「コホン。本当に、善人すぎて心配なくらいです」
芹の夫は末端とはいえ貴族の出で、今も帝に仕える立派なお役目をもつ人だ。
嫡男ではないため、結婚に自由が効いたらしい。
年齢的にもまわりにとやかく言われる時期は過ぎていたので、今は夫婦円満に暮らしていた。
そうして芹の無自覚な惚気話の後、桃が積極的に”私の取り扱い”について指南を受けていた。
隣で聞く身としては耳が痛いと、お団子を頬張ってボーッと空を眺めた。
(いい天気ねー。きっと今日は一層月がキレイだろうな)
お月見日和となるだろう。
この日は鬼狩りでも警備として宮を囲むため、彼も浅葱も忙しい。
毎年そうなので、私も息をひそめるのに慣れてしまった。
思い出すは十四歳の中秋の名月の下、忙しいはずの彼がわざわざ会いに来てくれたことがうれしかった。
ひとりぼっちだった日が、今はこんなにも人に囲まれて過ごせている。
(さみしいなんて、ワガママよ)
幸福だとわかっていながらも、小さく欠如した部分は一向に埋まらない。
永遠にやってこない期待を抱えて生きていく。
何のために”姫として生まれたか”に答えを見いだせないまま、十六回目の月に想いをはせた。
***
夕焼け雲、西の空が紅に染まる頃に宮に戻ろうとし、芹が玄関口まで見送りに出てくれた。
「まっすぐにお帰りくださいね。寄り道は危ないですから」
「わかってるって。桃さんもいるから大丈夫だよー」
能天気な返事に芹はやれやれと息を吐き、困り顔で桃に目を向ける。
「桃さん、時羽様をよろしくお願いいたします」
「! はい! 並みの女性よりかは腕っぷしに自信ありますので!」
そう言って桃は袖をまくると二の腕の筋肉を見せてくる。
たしかに見ごたえのあるムキッとした腕で、細っこいのにたくましいのは頼もしい。
したたかで我慢強い女性だと、芹とはまた違う面を尊敬していた。
民を装うための着倒した小袖に、草花に擦れる草履。
地味な装いにしては一点だけ高価な藍染の飾りだが、地毛と色が似ているため目立ちはしなかった。
頭に花が咲いた気分、と意味をはき違えてのほほんと喜びをかみしめていた。
「桃さん、ありがとね」
隣を歩く桃にはにかむと、桃は照れ笑いをしてお団子頭を指でいじくった。
「いえ、あたしも芹さんにお会いしたかったので」
その返答にニコッと笑い合うと、私はうんと空に腕を伸ばした。
今日は毎年恒例、宮中大忙しのお月見の日だ。
芹は駆り出される側だったが、桃は所属が鬼狩り一族のため女官としてドタバタすることはない。
せっかく芹が忙しさから解放されたので、いっそお月見を楽しむ側になろうと計画し、当日を迎えた。
桃が抱える風呂敷の中には、月見団子を敷きつけた重箱が入っている。
私と桃でせっせと作ったもので、芹がどんな反応をするのか今から楽しみであった。
「あら、姫様。髪飾りの紐が切れております」
「えっ?」
桃の声かけに振り向けば、紐が切れて藍染の髪飾りが草むらに落下した。
一つに括っていた髪がほどけてしまい、前にかきよせながら髪飾りを拾う。
「気づかずに申し訳ございません。そこまで摩耗してるとは……」
「ずっと使ってたものね。帰ったら紐をつけなおすわ」
困惑する桃に大丈夫だと微笑んで、切れた紐を帯びにしまい込む。
毎日飽きることなくつけていれば当然だと、少し控えめにしようと苦笑いをした。
***
「時羽様! 桃さん!」
昼下がりに芹の住むお屋敷に到着し、私たちは再会に抱きしめあう。
「こんにちは、時羽姫様。お越しくださりありがとうございます」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
芹の夫も歓迎してくれ、ホッと胸を撫でおろす。
ほとんど会話をしたことがなく、芹に聞いていただけだが人のよさそうな雰囲気だ。
ニコニコと笑みを絶やさず、温厚さが見てとれて”ちょうどいい”という感想を抱いた。
(芹はちょっと怒りっぽいからね)
二人に招かれ、お屋敷の内庭に御座を敷いてお月見の会をはじめる。
まだ昼間のため月は見えないが、遅くに出歩くわけにもいかないので雰囲気だけお月見だ。
芹の淹れてくれた抹茶を飲みながら「ふー」と長く息を吐いた。
「芹、よかったね。旦那さん、大事にしてくれてるんだなぁって思ったよ」
「コホン。本当に、善人すぎて心配なくらいです」
芹の夫は末端とはいえ貴族の出で、今も帝に仕える立派なお役目をもつ人だ。
嫡男ではないため、結婚に自由が効いたらしい。
年齢的にもまわりにとやかく言われる時期は過ぎていたので、今は夫婦円満に暮らしていた。
そうして芹の無自覚な惚気話の後、桃が積極的に”私の取り扱い”について指南を受けていた。
隣で聞く身としては耳が痛いと、お団子を頬張ってボーッと空を眺めた。
(いい天気ねー。きっと今日は一層月がキレイだろうな)
お月見日和となるだろう。
この日は鬼狩りでも警備として宮を囲むため、彼も浅葱も忙しい。
毎年そうなので、私も息をひそめるのに慣れてしまった。
思い出すは十四歳の中秋の名月の下、忙しいはずの彼がわざわざ会いに来てくれたことがうれしかった。
ひとりぼっちだった日が、今はこんなにも人に囲まれて過ごせている。
(さみしいなんて、ワガママよ)
幸福だとわかっていながらも、小さく欠如した部分は一向に埋まらない。
永遠にやってこない期待を抱えて生きていく。
何のために”姫として生まれたか”に答えを見いだせないまま、十六回目の月に想いをはせた。
***
夕焼け雲、西の空が紅に染まる頃に宮に戻ろうとし、芹が玄関口まで見送りに出てくれた。
「まっすぐにお帰りくださいね。寄り道は危ないですから」
「わかってるって。桃さんもいるから大丈夫だよー」
能天気な返事に芹はやれやれと息を吐き、困り顔で桃に目を向ける。
「桃さん、時羽様をよろしくお願いいたします」
「! はい! 並みの女性よりかは腕っぷしに自信ありますので!」
そう言って桃は袖をまくると二の腕の筋肉を見せてくる。
たしかに見ごたえのあるムキッとした腕で、細っこいのにたくましいのは頼もしい。
したたかで我慢強い女性だと、芹とはまた違う面を尊敬していた。
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