青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第三章【青の月の章】16歳

第55話「どうかこれ以上奪わないで」

「芹。お花持ってきたよー」

冬が近づいてきた頃、私は芹と旦那さんの墓前に来ていた。

悲しみはちっとも癒えないが、そんな表情をしていたら芹に怒られてしまうと涙をのみ込んだ。

母のお墓の近くにしたかったが、母は側室として埋葬されているため難しいことだった。

せめて近くにと思い、私は限りある力で芹たちの墓石を用意した。

「時羽ちゃーん! 水、汲んできたよー!」
「ありがとう、浅葱さん」

今日は浅葱と桃を連れて来ていた。
あの日の出来事は三人で話すことはない。

鬼のことは鬼狩りにしかわからない。

私が問い詰めても彼らを苦しめるだけとわかったため、私は感情を押し込んでフタを被せ続けた。

「緋月、来てたっぽいね」
「……はい」

私たちが来るより前に誰かが来ていたようで、墓前に花が添えられていた。

ここに来るとすれば芹と仲の良かった女官か、彼くらいだ。

絶対に彼は私といっしょに墓参りをしようとはしなかった。

「さ、戻ろっか」

また来るね、と芹に語りかけて私たちは住み慣れた片隅の家に戻った。


「……何これ」

家に戻れば戸口に泥水がまかれており、蛇や小動物の死骸がばらまかれていた。

浅葱が私たちを制止し、急いで死骸を撤去して舌打ちをする。

「なんだよ。最近、ホントに容赦ねぇな」

ケッと苛立ちをみせて浅葱がテキパキと泥を隅によせていった。
こういったイタズラがよく起こるので、浅葱お手製の泥掃きが作られた。

元々嫌がらせはあったが、あの日以降、追い打ちをかけるように悪化した。

桃も傷が治りきったわけではないので、対応しきれないこともある。

憤りを感じ、私は浅葱といっしょに片づけをしようと袖をまくった。

「ぅ……」
「……桃さん?」

振り返ると青白い顔をした桃がいる。
体調が悪いのかと隣に寄って肩に触れると、桃はぎこちなく微笑んだ。

「大丈夫です。最近、冷えてきたので……免疫力が落ちたのかもしれません」
「……そう。じゃあ今日はあたたかいものが食べようか。お米、まだ残ってたよね? 粥にしましょう」

守ってもらっているのだから、私だって桃を守る。
失ってたまるかと私は泣きそうな心に鞭を打つ。

”私が弱いからみんなに苦労をかける”

姫として強ければ、失わなくていいものを失わなかった。
愚かだとしてももう、弱いお姫様ではいられない。


***

浅葱が帰った後、私は体調の悪い桃を無理やり寝かせる。

そして皆が寝静まった頃に側室たちの寝殿に忍び込み、お返しだと麻袋に入れた土や枯れ葉を縁側にまき散らした。

「おい、こっちで物音がしたぞ!」

警備の者がバタバタと足音をたてて駆けてくる。

こちとら長年の忍び足、抜け道だって十分に把握しているので怖くない。

簡単には足取りを掴ませないと私はさっさと抜け出した。

争いたいわけではない。
やり返しても良いことは一つもない。

それでも泣いてばかりではいられないと、弱い自分を押し殺して冷徹に振る舞った。

(みんな鬼みたい。……私もそう。蹴落としあって何が楽しいのかしら)

ぐっと拳を握りしめ、俯きそうな顔を無理やり上に向ける。

(大丈夫。鬼のような人でいっぱいだけど、私には守りたい人がいる)

姫として立派に立てる日がくるかはわからない。

それでも”誰かを守りたい”と思う気持ちだけは捨てない。
無力に嘆くことはあっても、その気持ちを捨てれば私は本当に腐ってしまう。

この手から大切なものが零れ落ちないように、私は弱い私を殺す。


「時羽姫」

空から視線を落とせば緋色の組紐を風に揺らす彼がいた。

「緋月、来てたんだ」

私は藍色の髪に片手を添え、乱れないようにした。
誕生日にもらった藍染の髪飾りはつけていない。

木彫りの兎も箱にしまったまま。
きっと宝物を開いてしまえば中から苦しいものが飛び出してしまう。

これは私だけのものだとフタをして、誰にも見つからないように鍵をかけた。
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