青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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【繰り返す月の章】緋色と蒼月

第67話「約束に焦がれて」

【月の章 緋の炎】

時羽姫に会いに行く。
迎えに行く。

その想いだけで俺は鬼狩りとして最後の務めに出ていた。


「”緋色”、お前顔色わりーぞ」

隣には浅葱がおり、俺の顔を見てひっそりと呟いた。

「平気だ。……お前にそう呼ばれると気味が悪いな」
「そりゃー光栄なことで」

後ろに何名かの鬼狩りがいる。

俺たちは避けられなくなった鬼との戦に活路を見出すため、鬼の陣地に忍び込んでいた。

鬼と戦うことは出来ても、鬼と対等に戦えるのは鬼狩りだけだ。

いざ鬼を前にすると、俺たちの体内を巡る鬼の血がざわつきだした。

「緋色、伝令だ」

鬼狩りの仲間である朽葉(くちば)がしかめっ面に俺を見下ろしてくる。

あまり心地よくない視線に俺は立ち上がると朽葉の肩を二度叩く。

伝令に来た鬼狩りに目を向け、用件を言うように首をくいっと動かした。

「帝が豊穣の儀式を執り行うと決定されました」
「ずいぶんと唐突だな。それで?」
「邪魔されないよう鬼の足止めを……と」

「後衛はくるのか?」
「そこまではまだ……」

つまり今の人数で対処しろということだ。

手荒な命令だが、今にはじまったことではない。

戦を前に豊穣の儀式を執り行うとは、余裕をかましているのか、焦りがあるのか。

困窮した民をなだめるには避けられないことなのか……。

(俺が考えても仕方のないことか。姫の父親と思うと複雑な気分だ)

抑えられないため息とともに、額を抑えて伝令を払う。

朽葉が怪訝そうにこちらを見てきたが、それを気にかけるほど鬼狩り同士は親密ではない。

今は集団で動いているが、最終的には各々が勝手に判断する。

鬼狩りは単独行動を好むものが多かった。

「鬼の出方はわかったか?」
「大体は。あいつら、意外と戦略的だからな」

浅葱に尋ねれば、鬼の陣を指さして要点をおさえていく。

鬼にしてはめずらしい統率のとれた状態だ。

人を襲うことで快楽を得るのが鬼だ。

単体行動が好きなものもいれば、集団で確実に恐怖に貶めようとするものもいる。

身体能力を覗けば人間と大差のない生き物だ。

人間も十分気味の悪い生き物なのだから。


――ザワッ……!

突如、心拍数が速くなり五感が研ぎ澄まされる。

木々に隠れて鬼の陣中を覗けば一匹、嫌な気配を持つ鬼がいた。

(蒼月……!)

ひときわ目立つザンバラ頭の鬼、何度も戦いながらいまだ勝利を掴めない。

鬼狩りは基本的に死んだ鬼の血を取り込んで身体能力をあげている。

俺は実験的に生きている鬼の血を取り込んだ。

それが蒼月の血であり、アイツは俺をおちょくることを楽しむ性悪だ。

今もこちらに気づいていながらわざと見て見ぬふりをして鼻で笑っていた。

「俺はもう少し内部に潜入してみる」

そう言って俺は木に飛び乗って、ひらりひらりと移動して陣の裏側にある巨大岩に着地する。

蒼月の位置を確認しつつ、戦に有利な情報を得ようと侵入経路を探す。

鬼の中に紛れ込むことは出来るが、蒼月がいる以上下手な動きは出来ないとゆっくりと息を吐いた。


「ひーづきっ!」
「浅葱?」

浅葱が追ってきたようで、隣に着地すると岩に身を伏せてにんまりと笑った。

「もう一か月近くになるもんなぁ。時羽ちゃんがいないとお前はダメだもんなぁ」

相変わらず遠慮のない距離感だと、俺はため息をついて首の後ろを擦る。

「お前こそよかったのか? 桃は妊婦だろう」
「それこそ時羽ちゃんいるし。行けって命令くらえば行くしかねぇだろ」
「鬼狩りになるのもハードルが高いからな」

鬼の血を入れるとは異物を入れるようなもの。

身体が耐え切れずに鬼狩りになる前に命を落とすものも多い。

鬼狩り一族というのも名前だけであり、実態は身寄りのない子どもを寄せ集めた集団だ。

俺と浅葱がこうして生きているのも運が良かっただけ。

(浅葱には伝えた方がいいのか? これが終わったら一族から抜けると)

なんだかんだで浅葱は姫を守ってくれたし、大事にしていた桃を付けてくれた。

二人がいなければ俺も姫もどこかで限界がきていた。

特に芹さんが亡くなってからの姫は見ているのが辛くなるくらい弱った。

姫が楽しみにしていたお月見の日に、都が鬼に襲撃され混乱極まる状態だった。

駆けつけた時には何もかもが遅かった。

母親代わりだった芹さんを失い、供をしていた桃は重症。

そんな状況にもかかわらず側室たちからの嫌がらせ行為は続く。

側室・徳子が首謀者となり、召使いたちに命じていたようだ。

時羽姫の母君・宵花様を敵対視していたようで、執念深く姫を追いつめようとしていた。


(やはり殺しておくべきだったか。いや、尻尾をつかむまでは……)

鬼狩りが鬼以外を殺すのは許されない。

人を殺せば鬼の血が勝る危険があるからだ。

当然、倫理の問題もあるが、普段から鬼を倒す身としては痛みに鈍くなっていた。
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