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【繰り返す月の章】緋色と蒼月
第68話「緋色の鬼」
(あの側室は鬼と繋がりがある。それさえわかれば……)
「このままじゃいられねーよな」
うら悲しげに浅葱が呟く。
「今のままいけば国は滅ぶ。あの帝は頭がイかれてやがる」
「他の奴の前でそれを言うなよ。首が飛ぶ」
「わーってるよ。……時羽ちゃんの父親って思うと悲しいもんさ」
この国の腐敗は限界まできている。
現在の帝が行う政はじわじわと国を衰退させる方へ向かっていた。
国を守る役目が帝という地位ならば、時羽姫の方がよっぽど民を想っている。
それも自己犠牲精神での想いのため、誰かが支えなくては崩れてしまう脆さがあった。
悔しさに拳を握れば、浅葱が背中をポンと叩いてくる。
「オレさ、ずっとお前に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「伏せられてるから聞けなかった。でももうそんなことも言ってられねーから」
「まどろっこしい。聞きたいならさっさと聞け」
「じゃー聞く。お前の鬼は誰だ? 生きた鬼の血ってぇのは知ってる。つまりどっかにいるんだろ?」
鬼狩りは全員身体能力が高いが、俺は頭一つ抜けて戦闘力があった。
身体能力が高くなっても使用するのは通常の武器、肉体で戦うのが通常だ。
その点、俺は鬼と渡り合える異能がある。
火の扱う鬼特有の能力だ。
浅葱はそういった芸当が出来ないので気にはなっていたが、鬼狩り同士の距離感から立ち入ろうとしなかった。
(浅葱も黙っていられない……か。もう隠すものでもないだろう)
そもそも浅葱が何の情報もなしに聞いてくるはずもないのだから。
「桃と戦った鬼。……芹さんたちを殺した鬼だ」
沈んだ声で伝えれば、浅葱がひゅっと息をのんで俺の顔を凝視する。
「それって前も時羽ちゃんを襲った鬼じゃ……!」
「そうだ。蒼月、そいつの血を取り込んでいる」
「待て待て、なんでそんな鬼が野放しなわけ!? なんでそんな奴の血をお前が……!」
「――っ! 浅葱、避けろ!!」
俺は浅葱を突き飛ばし、足裏で岩を強く蹴飛ばして後ろに退いた。
元いた岩場が粉々になって砕けている。
浅葱もすぐに避けたようで、頭上から降ってきた鬼火の塊は落下地点を焦がしていた。
「よぉ、緋色。こんなところでのん気にしていていいのか?」
「蒼月っ……!!」
顔を上げれば蒼月がニタニタして宙に浮いていた。
蒼月はザンバラ頭をボリボリとかき、舌なめずりをして赤黒い目を浅葱に向ける。
「お前も見たことがある。たしか……そうだ。ツクヨミの娘に会いに行った時か」
「ツクヨミの娘? それって時羽ちゃんのことか……?」
浅葱の困惑に俺はうなずき、腰に差していた剣を抜いて蒼月を威嚇する。
「気づいていたくせに急になんだ? 戦なんてバカげたことを仕掛けてくるとは!」
「だって面白いだろ? じわじわとお前をいたぶるのも楽しいし、あのお姫さんが追いつめられるのもいいよなぁ」
「! 姫に何かしたのか!?」
その問いに蒼月はせせら笑うだけ。
俺はカッとなり、地面を蹴って蒼月に斬りかかる。
「おっと。オレと戦っている暇があるのか?」
「何をした!? 姫に何を!」
「別に……。何かするのはお前たちの帝様だ」
嫌な予感がした。
時羽姫は帝に対して異常なほどに愛情を求めている。
そんな想いを向けるに値しない相手にいつまでもいつまでも一心に願い続けた。
どうしてそんなに、と問えば「一言でいいから母を想ってほしい」と返してきた。
姫なのに無力と嘆く時羽姫を、おこがましくも助けたいと思ってしまった。
気づいていないだけで、どれだけ俺の心にやさしい光をくれたか。
――時羽姫がいなければ俺はとっくに鬼の血に飲まれていた。
「国はめちゃくちゃだよなぁ。凶作、病、貴族の不正。最後は鬼との戦だ。戦前に帝に出来ることなんて何もない」
(反乱がおこってもおかしくない。ギリギリのところで戦を強行するには民を静める必要が……)
「……時羽姫を?」
あれだけ時羽姫を蔑ろにした帝がこの状況で時羽姫に接触する。
わざわざこの緊迫した状況下で時羽姫に会わなくてはならない理由。
背筋も凍るような最悪が頭を過った。
「姫を殺すのか……? 国のためといって姫に責任を負わせるのか!?」
「ツクヨミの娘なんて生きているべきではない。そんな血は途絶えるべきだ」
ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなっ!!
「蒼月ーーっ!!!!!」
頭に血が昇り、体内の熱が急激に高くなる。
刀に炎をまとわせ、怒りに身をまかせて蒼月に斬りかかっていく。
「緋月! やめろっ!!」
浅葱が素早く蒼月の背後に回り、身体をひねって攻撃を繰り出す。
何度か攻撃をすると、重力に逆らえず足場を見つけて次の一手に切り替える。
俺も同じように浅葱の隣に着地したが、怒り狂った状態ですぐに蒼月に突進しようとしていた。
「やっ……めろ! 時羽ちゃんを助けんのが先だろっ!!」
浅葱は俺の肩を掴み、なりふり構わず全力で地面に叩きつけてきた。
全身の筋力が防御に入り、身体を強打したことで我に返った。
「このままじゃいられねーよな」
うら悲しげに浅葱が呟く。
「今のままいけば国は滅ぶ。あの帝は頭がイかれてやがる」
「他の奴の前でそれを言うなよ。首が飛ぶ」
「わーってるよ。……時羽ちゃんの父親って思うと悲しいもんさ」
この国の腐敗は限界まできている。
現在の帝が行う政はじわじわと国を衰退させる方へ向かっていた。
国を守る役目が帝という地位ならば、時羽姫の方がよっぽど民を想っている。
それも自己犠牲精神での想いのため、誰かが支えなくては崩れてしまう脆さがあった。
悔しさに拳を握れば、浅葱が背中をポンと叩いてくる。
「オレさ、ずっとお前に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「伏せられてるから聞けなかった。でももうそんなことも言ってられねーから」
「まどろっこしい。聞きたいならさっさと聞け」
「じゃー聞く。お前の鬼は誰だ? 生きた鬼の血ってぇのは知ってる。つまりどっかにいるんだろ?」
鬼狩りは全員身体能力が高いが、俺は頭一つ抜けて戦闘力があった。
身体能力が高くなっても使用するのは通常の武器、肉体で戦うのが通常だ。
その点、俺は鬼と渡り合える異能がある。
火の扱う鬼特有の能力だ。
浅葱はそういった芸当が出来ないので気にはなっていたが、鬼狩り同士の距離感から立ち入ろうとしなかった。
(浅葱も黙っていられない……か。もう隠すものでもないだろう)
そもそも浅葱が何の情報もなしに聞いてくるはずもないのだから。
「桃と戦った鬼。……芹さんたちを殺した鬼だ」
沈んだ声で伝えれば、浅葱がひゅっと息をのんで俺の顔を凝視する。
「それって前も時羽ちゃんを襲った鬼じゃ……!」
「そうだ。蒼月、そいつの血を取り込んでいる」
「待て待て、なんでそんな鬼が野放しなわけ!? なんでそんな奴の血をお前が……!」
「――っ! 浅葱、避けろ!!」
俺は浅葱を突き飛ばし、足裏で岩を強く蹴飛ばして後ろに退いた。
元いた岩場が粉々になって砕けている。
浅葱もすぐに避けたようで、頭上から降ってきた鬼火の塊は落下地点を焦がしていた。
「よぉ、緋色。こんなところでのん気にしていていいのか?」
「蒼月っ……!!」
顔を上げれば蒼月がニタニタして宙に浮いていた。
蒼月はザンバラ頭をボリボリとかき、舌なめずりをして赤黒い目を浅葱に向ける。
「お前も見たことがある。たしか……そうだ。ツクヨミの娘に会いに行った時か」
「ツクヨミの娘? それって時羽ちゃんのことか……?」
浅葱の困惑に俺はうなずき、腰に差していた剣を抜いて蒼月を威嚇する。
「気づいていたくせに急になんだ? 戦なんてバカげたことを仕掛けてくるとは!」
「だって面白いだろ? じわじわとお前をいたぶるのも楽しいし、あのお姫さんが追いつめられるのもいいよなぁ」
「! 姫に何かしたのか!?」
その問いに蒼月はせせら笑うだけ。
俺はカッとなり、地面を蹴って蒼月に斬りかかる。
「おっと。オレと戦っている暇があるのか?」
「何をした!? 姫に何を!」
「別に……。何かするのはお前たちの帝様だ」
嫌な予感がした。
時羽姫は帝に対して異常なほどに愛情を求めている。
そんな想いを向けるに値しない相手にいつまでもいつまでも一心に願い続けた。
どうしてそんなに、と問えば「一言でいいから母を想ってほしい」と返してきた。
姫なのに無力と嘆く時羽姫を、おこがましくも助けたいと思ってしまった。
気づいていないだけで、どれだけ俺の心にやさしい光をくれたか。
――時羽姫がいなければ俺はとっくに鬼の血に飲まれていた。
「国はめちゃくちゃだよなぁ。凶作、病、貴族の不正。最後は鬼との戦だ。戦前に帝に出来ることなんて何もない」
(反乱がおこってもおかしくない。ギリギリのところで戦を強行するには民を静める必要が……)
「……時羽姫を?」
あれだけ時羽姫を蔑ろにした帝がこの状況で時羽姫に接触する。
わざわざこの緊迫した状況下で時羽姫に会わなくてはならない理由。
背筋も凍るような最悪が頭を過った。
「姫を殺すのか……? 国のためといって姫に責任を負わせるのか!?」
「ツクヨミの娘なんて生きているべきではない。そんな血は途絶えるべきだ」
ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなっ!!
「蒼月ーーっ!!!!!」
頭に血が昇り、体内の熱が急激に高くなる。
刀に炎をまとわせ、怒りに身をまかせて蒼月に斬りかかっていく。
「緋月! やめろっ!!」
浅葱が素早く蒼月の背後に回り、身体をひねって攻撃を繰り出す。
何度か攻撃をすると、重力に逆らえず足場を見つけて次の一手に切り替える。
俺も同じように浅葱の隣に着地したが、怒り狂った状態ですぐに蒼月に突進しようとしていた。
「やっ……めろ! 時羽ちゃんを助けんのが先だろっ!!」
浅葱は俺の肩を掴み、なりふり構わず全力で地面に叩きつけてきた。
全身の筋力が防御に入り、身体を強打したことで我に返った。
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