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【繰り返す月の章】緋色と蒼月
第71話「青い月が重なるまで。時を越えて」
あれだけ青く輝いていた月が濁って見える。
(姫と約束した日も青かった。あぁ、そうか)
同じ時の流れに青い月が重なる夜。
ひと月に二度満月が現れることを昔の人は”裏切りの月”と呼んだ。
裏切りを意味する青い月、今の俺には月が赤く見えた。
それは破滅の色――。
自分が何をしたのかわからなかった。
暗闇にとらわれた中で頭に直接響く底のない低い音。
「お前、弱いなぁ。オレの血を持っておきながら情けねぇなあ」
(蒼月……)
「ちょっと血を遊ばせただけでこのざまだ。お前のせいで国はドカーンと滅んじまった」
大切なもの、すべてが消えた。
「そうだ、お前はあの姫が守ろうとしたものをすべて壊したんだ」
壊した……俺が姫を……。
”裏切った……?”
誰が鬼だったのか、考え出せばキリがない。
一つわかるのは……。
(俺も鬼だった。……鬼だったんだ)
それが俺の意志だったのか、蒼月によるものなのか。
なんにせよ、俺は姫の願いを踏みにじった。
その答えが何もない更地のような大地だった。
それからどれだけの間、俺の身体が知らぬところで動いていたかわからない。
この身体には蒼月の血が流れている。
俺の心があらずとも、身体は鬼だった。
”会いに行くから”
真っ暗闇にゆらめく青い月。
そこから何度も思い返してきた声がする。
”何度失敗しても、必ず会いに行くから。約束、絶対に守るから!”
あぁ、そうだ。
俺が好きになったのはあきらめの悪い強がりな女の子だ。
好奇心旺盛で、その割に人の顔色を伺う繊細さ。
俺が守りたいと思った女の子。
兎のように追いかけたくなる月のお姫様だ。
「蒼月。これは俺の身体だ。返せ」
手を、足を、拘束する鎖を壊そうとすれば血がにじみだす。
「俺から姫を奪わせないっ……! 姫の未来は俺が守る!」
神の供物にする?
ふざけるな!
ツクヨミのもとに返すというならば、俺はツクヨミに訴える。
「姫が自由に生きられる未来を。また姫に会える未来を――!」
時が流れる。
心に穴が空いた長い時が過ぎ、蒼月の支配から逃れようと足掻き続けた。
神山の周りは更地となっていたのに、時が巡ったことで見える光景はずいぶんと変化した。
時羽姫が沈んだ暗闇にだけは入ることも叶わず、何度も姿の見えぬツクヨミに頼んだ。
そして答えを得た。
青い満月がひと月に重なる時、運命を捻じ曲げる歪みが発生すると。
ツクヨミから得た答えを信じ、姫の時間を未来に引きつける。
幸せを見届けられるならそれでよかった。
「時羽姫……」
――欲張ってしまった。
・
・
・
「誰?」
ほんのわずかな時間でもいい。
・
・
・
「覚えていらっしゃらないのですね……」
・
・
・
ただの緋月として、ただの時羽として過ごしてみたかった。
「えっ……と。ひ、緋月さん?」
「少しだけ。……少しでいいから」
ああ、ツクヨミよ、どうか……。
青い月が重なるひとときだけ、許してください――。
・
・
・
(月が……赤い……)
青い月が重なるはずだったのに、空には容赦ない赤い月。
二十九日の経過、満月は明日のはずなのに……目に映るのは残酷なほどに赤いものだった。
運命を捻じ曲げるこの時に賭けてこのざまだ。
願いは叶ったけれど、その未来に俺はいない。
この身体から緋月の意志が消える。
・
・
・
「俺は最低です……。あなたに生きてほしかったのに。なんのために俺は……!」
・
・
・
「申し訳ございません。またお会い出来て、俺は幸せでした」
・
・
・
「時を巻き戻して! ツクヨミーーッ!!」
何度も巡る。
互いの望みが叶うまで、何年何十年何百年かけようとも。
青い月が重なるまで。
時を越えて――。
(姫と約束した日も青かった。あぁ、そうか)
同じ時の流れに青い月が重なる夜。
ひと月に二度満月が現れることを昔の人は”裏切りの月”と呼んだ。
裏切りを意味する青い月、今の俺には月が赤く見えた。
それは破滅の色――。
自分が何をしたのかわからなかった。
暗闇にとらわれた中で頭に直接響く底のない低い音。
「お前、弱いなぁ。オレの血を持っておきながら情けねぇなあ」
(蒼月……)
「ちょっと血を遊ばせただけでこのざまだ。お前のせいで国はドカーンと滅んじまった」
大切なもの、すべてが消えた。
「そうだ、お前はあの姫が守ろうとしたものをすべて壊したんだ」
壊した……俺が姫を……。
”裏切った……?”
誰が鬼だったのか、考え出せばキリがない。
一つわかるのは……。
(俺も鬼だった。……鬼だったんだ)
それが俺の意志だったのか、蒼月によるものなのか。
なんにせよ、俺は姫の願いを踏みにじった。
その答えが何もない更地のような大地だった。
それからどれだけの間、俺の身体が知らぬところで動いていたかわからない。
この身体には蒼月の血が流れている。
俺の心があらずとも、身体は鬼だった。
”会いに行くから”
真っ暗闇にゆらめく青い月。
そこから何度も思い返してきた声がする。
”何度失敗しても、必ず会いに行くから。約束、絶対に守るから!”
あぁ、そうだ。
俺が好きになったのはあきらめの悪い強がりな女の子だ。
好奇心旺盛で、その割に人の顔色を伺う繊細さ。
俺が守りたいと思った女の子。
兎のように追いかけたくなる月のお姫様だ。
「蒼月。これは俺の身体だ。返せ」
手を、足を、拘束する鎖を壊そうとすれば血がにじみだす。
「俺から姫を奪わせないっ……! 姫の未来は俺が守る!」
神の供物にする?
ふざけるな!
ツクヨミのもとに返すというならば、俺はツクヨミに訴える。
「姫が自由に生きられる未来を。また姫に会える未来を――!」
時が流れる。
心に穴が空いた長い時が過ぎ、蒼月の支配から逃れようと足掻き続けた。
神山の周りは更地となっていたのに、時が巡ったことで見える光景はずいぶんと変化した。
時羽姫が沈んだ暗闇にだけは入ることも叶わず、何度も姿の見えぬツクヨミに頼んだ。
そして答えを得た。
青い満月がひと月に重なる時、運命を捻じ曲げる歪みが発生すると。
ツクヨミから得た答えを信じ、姫の時間を未来に引きつける。
幸せを見届けられるならそれでよかった。
「時羽姫……」
――欲張ってしまった。
・
・
・
「誰?」
ほんのわずかな時間でもいい。
・
・
・
「覚えていらっしゃらないのですね……」
・
・
・
ただの緋月として、ただの時羽として過ごしてみたかった。
「えっ……と。ひ、緋月さん?」
「少しだけ。……少しでいいから」
ああ、ツクヨミよ、どうか……。
青い月が重なるひとときだけ、許してください――。
・
・
・
(月が……赤い……)
青い月が重なるはずだったのに、空には容赦ない赤い月。
二十九日の経過、満月は明日のはずなのに……目に映るのは残酷なほどに赤いものだった。
運命を捻じ曲げるこの時に賭けてこのざまだ。
願いは叶ったけれど、その未来に俺はいない。
この身体から緋月の意志が消える。
・
・
・
「俺は最低です……。あなたに生きてほしかったのに。なんのために俺は……!」
・
・
・
「申し訳ございません。またお会い出来て、俺は幸せでした」
・
・
・
「時を巻き戻して! ツクヨミーーッ!!」
何度も巡る。
互いの望みが叶うまで、何年何十年何百年かけようとも。
青い月が重なるまで。
時を越えて――。
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