青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第四章【青の月の章】時を越えて

第73話「月と星が光を降らす中」

***

二十九日、満月を一日先延ばしに出来た。
たった【0.5日分】の歪みかもしれない。

その長くて短い時間にすべてを賭けた。

必ず約束を果たし、彼が鬼に乗っ取られる未来を回避する!!

(緋月が好き! たくさん幸せをもらったから、これからは想いを返していくんだ!)


どうやって彼を鬼と切り離す?

考えるだけの時間は……意地でもなんとかするしかない!

時間と記憶を代償にこの歪みを発生させたのだからなんとかなるわ!

(そうよ! わからないなら聞けばいいのよ! 緋月となら大丈夫!)

走って走って走って、薄い空色に不完全な月が浮かぶ方角へ向かう。

今までは焦りと恐怖でいっぱいだった。

でも今は違う。
だって私、好きな人に会いに行くんだから。


街を抜けて、シロツメクサの咲き誇る河川敷を駆ける。

この花があの時代に咲いていなかったのに、たった一輪、ナナの手を渡って私の元にやってきた。

私はこの場所で、思いきり彼と寝ころびたかった。


「――ま」

遠くから近づいてくる好きな人の声。

泣くつもりなんてなかったのに、私の琴線はずいぶんと繊細になっているようだ。

「緋月っ!!」
「時羽様っ!!」

(あぁ、やっと会えた……)

こちらに駆けてくる彼に焦りの色が見える。

今まで繰り返してきた時間、この瞬間はお互いに”会いたい”一心で走っていた。

指先が触れ合って、私は彼の胸に飛び込んで背中に手を回す。


「申し訳ございません……! 絶対に巻き込んではいけないとわかっていたのに俺はっ……!」
「緋月が好き!」

彼はこの繰り返した時間を知らない。
絶望に飲まれる彼を二度と手放さない。

思いの丈をすべて乗せ、私は背伸びをして彼の唇を奪った。

突然の触れあいに彼は目を見開き、慌てて私の腕を掴んで引き離す。

「えっ……えと、時羽様……?」
「好きよ、緋月。私、緋月を愛してるの」
「はっ……! ま、待って……!」
「待っていられないわ!」

そう言ってもう一度、強引に彼を引き寄せてキスをする。

思いがけない出来事に彼は真っ赤になって硬直していたが、やがて震える手で私の両頬を包んだ。

「思い出したのですか?」
「うん。私、この一か月とても幸せだったの。ううん、今までもずっと、ずっと幸せだったのよ」

私の言葉に彼は泣きそうな顔をして、唇を重ねてきた。

濡れた息とともに唇が離れると、彼はコツンと額をくっつけて視線を合わせてくる。

「俺も時羽姫が好きです。ずっとずっと……お慕いしておりました」
「うん。私もずーっと好きだった」
「あぁ……。やっと……やっと会えた」

赤みのにじむ目で彼は想いを隠すことなく見つめ、彼からそっとキスをしてくれた。

目を閉じて彼を感じたあと、ゆっくりと離れて幸福感に笑みが溢れた。

すると彼はパッと背中を反らし、口元を手で覆い目を反らす。

私はイタズラに彼の目を追い、背伸びをしながら大胆不敵に笑った。

「あなたという方は……!」
「きゃっ!?」

強く抱きしめられれば彼の想いに締めつけられた。

「俺がどれだけ姫を愛してたか! あなたは何も知らないで俺の手を取ってはくれなかった! あなたは俺との約束を選んでくれなかった!!」

悲痛な叫びは私の中の罪悪感に突き刺さる。

「うんっ……。ごめんなさい、私どうかしてた……」
「ちがっ……!」

謝罪を受け、彼が見せたのは困惑と苦悶だった。

乱れる気持ちを抑えようと彼は首を横に振り、私の肩に顔を埋める。

「違うんです。俺は姫の弱みにつけこんだ。姫が……」

言葉に詰まる彼を私は全力で抱きしめる。

指先をくすぐった感触に背伸びをしてのぞけば、昔懐かしい組紐が彼の髪を結っていた。

何度謝っても償いきれるものではない。

だが今、私たちの未来は結びついたのだから一言でも多く想いを告げよう。

「愛してる、緋月。いっしょに、生きよう」
「……っ愛してます。俺は姫を、心から」

せせらぎの音とシロツメクサが風にそよぐ音。
空は藍色、浮かぶは不完全の月。

夜に溶けそうな藍色の髪は星の光をまとって白銀に輝きだす。
月と星が光を降らす中で影が重なった。

***

桜の木の下で、私は芝生に寝転がる。

彼の腕枕に身体を横にして彼に擦り寄り、枕元に置いたランプのゆらめきを眺めた。

「時間の歪み……ですか」

私は今日に至るまで何が起こり、何をしてきたかを伝えた。

「青い満月が重なる時を求めてきた。今まで緋月は二十九日になると――」
「鬼に身体を奪われたんですね」

自分の現状は自分が一番把握している。

彼は自分の限界値を知り、なんとか再会してひとときを過ごすためだけに耐えてきた。

赤い満月は彼の限界を示しており、破滅へ進むだけだった。
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