青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第四章【青の月の章】時を越えて

第75話「何度も彼と唇を重ねていけばいい」

「鬼の血に耐えられる人を特定出来ません。鬼狩りは不適合者の屍で成り立っていた存在ですから」

「そんなっ……!」

誰でもいいというわけにはいかない。

下手すれば命が失われ、更に悲惨な可能性としては鬼として暴れるかもしれない。

彼を助けたいと思えば思うほど、ジレンマに襲われて眉をひそめた。

(私じゃダメなのかな? 私は鬼の血に勝てる?)

その疑問を告げれば、彼は嫌がって受けつけないだろう。

そうも言っていられない状況なのだから彼を抑え込みたいところだが、私にそこまでのパワーはない。

となれば彼を納得させる必要があり、それを見出そうと悶々と唸った。

「教えて。血を薄める方法を」
「? 俺の中から鬼の血を出せれば……」

鬼の血を出す、という行為を具体的に言えばどうなる?

「どうやって鬼の血を取り込んでいたの?」
「それは……”輸血”です」
「輸血?」

輸血とは他人の血を使って不足した血液成分を補充することだ。

当時、輸血という概念はなかったはずだ。

あったとしても、血の不適合や合併症で誰かを助けるという認識ではなかった。

鬼狩り一族にとって、鬼の血を取り組むのは命を守る目的ではない。

(この時代に輸血はあるのかしら? 緋月から鬼の血を分け合うなら不可能ではない)

問題は命が保証されないこと。

成功確率はほぼゼロに等しい、ギャンブルよりひどい賭け事だ。

それでもあきらめたくない。

彼を待つと約束し、想いを伝えると決意してここまできた。

願いが叶ったところで次の願いがある。

私は彼との未来がほしい。
二度と彼を絶望に落とさない、幸せな未来を手にするために。

時間を歪める奇跡を起こしてきた。

私はツクヨミとの契約でタイムリープの力を手にし、彼を助けるために全力だった。

「勝てるわ」
「姫?」

なりふり構わず粘るのが私だ。

「私、ツクヨミと契約したの。つまりツクヨミの力を持っている。これ以上、強い力はないわ」

ツクヨミとは夜を司る神、揺るぎない世界の柱となる力だ。

どうしてツクヨミが私と契約したかはわからないが、まだ私の中に力は残っている。

鬼に負けるような存在ならば、時間を歪ませる力技なんて出来なかった。

終わるはずだった私たちの運命を捻じ曲げた。

「私が受け入れるわ」
「なっ……! それはダメです! もし姫が……」
「負けないよ。だって私、あやかしになったんだもの」

彼の手を取り、指を絡めて強気に微笑んだ。

「私はもう緋月を裏切ったりしない。そのために時を越えてきたんだから」
「……約束、してくださいますか?」
「する。私は緋月を愛するためにここまで来たの」

私は人でなくなった。
だけどあやかしとなったことで、はじめて彼と対等になれた気がした。

彼は蒼月に乗っ取られ、国を滅ぼした。

常に蒼月に身体の主導権をとられる恐怖に怯えて生きてきた。

私の中にもツクヨミがいる。

ツクヨミにその意志はないようだが、この身体が一人だけのものではないと実感していた。

この感覚を共有できるのは彼だけだ。

彼の憂いもすべて、今なら受け止めることが出来ると誇らしい気持ちさえあった。

「約束を破ったら私のこと好きにしていいよ」
「……あなたって人は」
「きゃっ!?」

強く抱きしめられたと思えば、芝生に背中が押しつけられた。
目を丸くしていれば彼が荒々しく唇を重ねてきて、私は夜に目を閉じる。

「本当に俺を振りまわす方だ。この一か月がしおらしく思えるほどに」
「私、この時代の方が好きだわ。袴って動きやすいもの。それに……」
「……それに?」

街で見かけた”軍服”姿の男性を思い出す。

それだけではなく、色んな服装は目新しいものばかりで心が躍った。

「緋月に着てほしい服がたくさんあったわ……」

とんでもない色気となるだろうと想像し、鼻がムズムズした。

それくらいに彼は見目麗しく、見ていて飽きないどころかペタペタと触りたくなってしまう。

好きゆえの盲目はあるだろうが、長年好きなのだから彼が殿方の最高峰と思うのも致し方ないとふんぞり返った。

クスクスと笑えば、彼も笑ってくれる。
それ以上に欲しいものはない。

今まで出来なかった甘さはこれから感じていけばいい。

誰に咎められることもなく、何度も彼と唇を重ねていけばいい――。
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