青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第四章【青の月の章】時を越えて

第77話「言葉は飲みこまれる」

「よくわかんねーけどわかった! 兄貴が出来るかは別として、アタシらに出来ることを考えるさ!」

そう言って凪子は私と彼の手をぶつけると、パッと手を離して仁王立ちになった。

「恩人には礼を尽くす! 友の味方になれ! これ、アタシのポリシー!」
「ぽりしー?」

方針、という意味らしい。
つまり凪子の生きる上で大切にしていることだ。

それが凪子らしくて私は嬉しくなって笑った。

***

それから彼がシャワーを浴びることになり、私は部屋で凪子と和気あいあいと会話した。

私を先に入るよう促されたが、凪子がもう少し話したいと駄々をこねたので、彼が追い出された。

「アタシも女学校には通ってんだー! 得意科目は薙刀! カッコイイだろ?」

薙刀とは、女性がたしなむ武道として普及しているものらしい。

身体能力の高かった浅葱が女性となり、大胆に動き回っているのを想像して好奇心がうずく。

「素敵ね! 今度私にも教えてくれる!?」
「もち! まかせなって!」

戦う女性には憧れたものだ。

桃に守られるしかなかったとき、どれだけ自分の非力さに嘆いたか。

武道のたしなみがあれば何か出来たかもしれない後悔が、これからを生きる私の原動力の一つとなった。

「不思議だなぁ」
「凪?」

突然の呟きに首を傾げれば、凪子は瞳に涙を浮かべてくしゃっと笑った。

「アタシ、時羽ちゃんと仲良くなれて相当うれしーみたいだ。変だよなぁ、当たり前じゃん」
「……私も」

ずっと私は”姫様”で、浅葱と桃を大切に思っていたが対等にはなれなかった。

彼らが鬼狩りであることを気にし、線引きしていることはわかっていた。

それでも桃は私のそばにいたいと言ってくれたことがうれしくて、心から大事にしたい存在だった。

浅葱は友だちと言ってくれたが、心の距離と表向きが合致しないことにさみしさは消えなかった。

「凪は私の友だち。出会えてよかった」
「! ほんっと、時羽ちゃんは最高だな!」

頭を撫で繰り回され、痛くなるまで二人で腹を抱えて笑った。

そして笑い声が落ちついた頃、凪子が心強い微笑みを浮かべて私の両手を握りしめた。

「絶対に幸せになれよ」
「――うん」

あの時、私は二人の願いに答えられなかった。
自分の幸せをあきらめて、これが正しいと思い込んで自分を犠牲にした。

もう間違えない。
私は私の幸せをあきらめたりしないのだから――。


***

凪子が部屋を出ていったあと、私はサッと入浴を済ませ部屋に戻る。

扉を開けば窓際に腰かけた彼に目を奪われる。

天井にぶらさがる照明は消し、壁に設置されたランプをいくつか灯すだけ。

明るいところでも暗いところでも、彼はいつ見てもキレイだと感嘆の息を吐いた。

「姫、おかえりなさい」
「ただいま……」

先に彼がシャワーを浴びたので、髪がまだ濡れている。

入れ替わりで入浴したが、一人で部屋に戻れば”二人きり”を意識してしまう。

扉を閉めると背を預け、もじもじと両手を後ろに隠した。

それを見て彼は足早に寄ってきて、私の肩を掴むとギラギラした目で見下ろしてくる。

「ひ、緋月……」
「絶対にそのような姿、他の人に見せないでくださいね!?」
「? 見せないわよ?」
「あ……浅葱に見られてたじゃないですか」
「そうだったかな? 芹にも桃さんにもよく怒られたなぁ」

恥じらいをもってくださいと耳にタコが出来るほど言われてきた。

特に芹には”姫なんだ”と重々言われたと思い出し、笑ってしまう。

それに彼は困りきって深くため息を吐いた。

「姫は俺をなんだと思ってるんですか……」
「何って、好きな人よ。足りないなら何度でも言うわ。私は緋月を――」

言葉は飲み込まれた。

彼の手が腰に回り、後ろにあった手は簡単に捕まってしまう。

息が漏れて、顔に熱が集まって、頭の中がボーッとする。

お腹がそわっとして、太ももを擦り合わせた。
感想 2

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