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第四章【青の月の章】時を越えて
第78話「たくさん裏切ってきた私」
「何度も姫に誘惑されてきました」
唇が離れると、濡れた音が間で鳴った。
「誘惑?」
「時羽姫はひどい方だ。理性を試される側にもなってくださいよ」
「! どうして? 緋月は一度もそんなこと……」
いや、一度はある。
思い返せば一度どころか何度も彼の理性を突き破りそうになっていた。
彼の行動と私の態度に思い当たる節がありすぎて、恥ずかしさの収集がつかない。
こんなのは耐えられないと、私は彼を突き飛ばして部屋の片隅まで逃亡した。
「ね、寝ましょう! 明日、輸血するんだから!」
「出来なかったら?」
「それはないわ! 凪のお兄さんがダメでも、方法はあるよ! そうね……私と緋月の腕に何か刺すとか」
「さすがにそれは危ないです。やめてください」
「じゃ、じゃあ鬼狩り一族ではどうやってたの!? それを真似れば……!」
その言葉に彼の表情が強張り、目を反らして思い詰めた様子で手に汗をにじませていた。
「鬼狩り専門の医師がいたんです。管を通じて血を体内に入れていました」
「管……?」
「血を取り込むと拒絶反応を起こすものが多かった。鬼狩りは多くの犠牲で成り立っていたんです」
他人の血を身体に受けつけることが難しい。
だが私にはツクヨミの力があるので鬼に負けることはないと確信していた。
問題はどうやって血を取り込むか。
その管があれば出来るのか、医師が行わなくてはならないほどの繊細な行為のはずだ。
凪子の兄が医師だというのだから、希望を託すほかなかった。
(凪のお兄さんがダメなら他の医者を探すまでよ。ああ、どうしよう。間に合う? 今からでも探しに出るべきじゃ……)
ぎゅっ、と彼が私の肩に顔を埋め震えていた。
「緋月?」
途端に不安になって彼の背に手をまわせば、やけに彼の身体が熱いことに気づく。
「! 熱があるの!?」
「すみません。満月でないとはいえ、この時間になると……」
夜が濃くなるほど、月が満ちるほどに彼の苦しさは増すのかもしれない。
ますます焦りが強くなったが、彼がしがみついてくるので動くことが出来ない。
「行かないでください。もう……姫がいなくなるのは嫌だ」
(あぁ、そっか)
私はそれだけ彼に悲しい想いをさせた。
長い時を巡るほどに、彼は鬼としてここまで生きた。
今さら何が起きようと私が彼から離れることはない。
蒼月になんか彼を奪わせない。
「大丈夫。離れない。約束したもの」
心臓の音がやけに近く聞こえる。
私は大好きな月から彼を守るように強く強く抱きしめた。
(ツクヨミ。聞こえる? 夜の神様なんでしょ? だったら味方になって)
私にはツクヨミの力が宿っている。
この白銀の髪があやかしとなった証明だ。
あやかしにも二面性がある。
私が得たのは人に害を与えるものの力ではないのだから。
(あなたは青い満月が重なる時、裏切れと言った。だけどそれはもう選ばない)
「私は誰も裏切らない。幸せをあきらめない。絶対に――」
焦る必要はない。
なぜなら彼を助けることが出来ると信じるから。
きっと、あの青い満月が私たちを繋いでくれた。
夜を信じるから、どうか明日はやさしい月明かりでありますように。
私は彼を抱きしめ、離れないことを決めた。
たくさん裏切ってきた私が時を越えて選んだのは、今までの弱さとの決別だった。
唇が離れると、濡れた音が間で鳴った。
「誘惑?」
「時羽姫はひどい方だ。理性を試される側にもなってくださいよ」
「! どうして? 緋月は一度もそんなこと……」
いや、一度はある。
思い返せば一度どころか何度も彼の理性を突き破りそうになっていた。
彼の行動と私の態度に思い当たる節がありすぎて、恥ずかしさの収集がつかない。
こんなのは耐えられないと、私は彼を突き飛ばして部屋の片隅まで逃亡した。
「ね、寝ましょう! 明日、輸血するんだから!」
「出来なかったら?」
「それはないわ! 凪のお兄さんがダメでも、方法はあるよ! そうね……私と緋月の腕に何か刺すとか」
「さすがにそれは危ないです。やめてください」
「じゃ、じゃあ鬼狩り一族ではどうやってたの!? それを真似れば……!」
その言葉に彼の表情が強張り、目を反らして思い詰めた様子で手に汗をにじませていた。
「鬼狩り専門の医師がいたんです。管を通じて血を体内に入れていました」
「管……?」
「血を取り込むと拒絶反応を起こすものが多かった。鬼狩りは多くの犠牲で成り立っていたんです」
他人の血を身体に受けつけることが難しい。
だが私にはツクヨミの力があるので鬼に負けることはないと確信していた。
問題はどうやって血を取り込むか。
その管があれば出来るのか、医師が行わなくてはならないほどの繊細な行為のはずだ。
凪子の兄が医師だというのだから、希望を託すほかなかった。
(凪のお兄さんがダメなら他の医者を探すまでよ。ああ、どうしよう。間に合う? 今からでも探しに出るべきじゃ……)
ぎゅっ、と彼が私の肩に顔を埋め震えていた。
「緋月?」
途端に不安になって彼の背に手をまわせば、やけに彼の身体が熱いことに気づく。
「! 熱があるの!?」
「すみません。満月でないとはいえ、この時間になると……」
夜が濃くなるほど、月が満ちるほどに彼の苦しさは増すのかもしれない。
ますます焦りが強くなったが、彼がしがみついてくるので動くことが出来ない。
「行かないでください。もう……姫がいなくなるのは嫌だ」
(あぁ、そっか)
私はそれだけ彼に悲しい想いをさせた。
長い時を巡るほどに、彼は鬼としてここまで生きた。
今さら何が起きようと私が彼から離れることはない。
蒼月になんか彼を奪わせない。
「大丈夫。離れない。約束したもの」
心臓の音がやけに近く聞こえる。
私は大好きな月から彼を守るように強く強く抱きしめた。
(ツクヨミ。聞こえる? 夜の神様なんでしょ? だったら味方になって)
私にはツクヨミの力が宿っている。
この白銀の髪があやかしとなった証明だ。
あやかしにも二面性がある。
私が得たのは人に害を与えるものの力ではないのだから。
(あなたは青い満月が重なる時、裏切れと言った。だけどそれはもう選ばない)
「私は誰も裏切らない。幸せをあきらめない。絶対に――」
焦る必要はない。
なぜなら彼を助けることが出来ると信じるから。
きっと、あの青い満月が私たちを繋いでくれた。
夜を信じるから、どうか明日はやさしい月明かりでありますように。
私は彼を抱きしめ、離れないことを決めた。
たくさん裏切ってきた私が時を越えて選んだのは、今までの弱さとの決別だった。
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