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第四章【青の月の章】時を越えて
第82話「幸せに負けそうな私を」
苦しみを受け止めてこそ、その先に幸せの道がある。
だって今までも幸せだったのに、彼だけを見つめることの出来たこの一か月は、最高の喜びに満ちていた。
私は姫というフィルターもなく、ただの時羽として彼を見つめることの出来た奇跡の時間だった。
(ツクヨミ! 私は鬼を受け止める! あなたの力も、全部私のものよ!!)
彼の向こう側にある窓から月明かりが差し込む。
日は落ちて、藍色の空に浮かぶ大きくて丸い青の月。
いつも見せる姿よりずっと大きくて、特別な姿だった。
部屋を光で覆いつくすほどの強い光が私の身体から溢れ出す。
それは彼から出ていた黒い炎をも飲み込んで、星のまたたきが降ってくるようにやさしく包み込んだ。
真っ白な空間で私と彼がポツンと立っている。
繋がれた手を彼が引き、視線を追うとその先にはたくさんのシロツメクサが咲いていた。
”お母さま……?”
青い月を背景に母が立っている。
その隣には白銀の髪をした夜のように深い瞳の女性。
何も語らぬ姿を見て、私はそれがツクヨミであることを悟った。
”裏切るよ”
私はツクヨミに向かって強がりの笑みを浮かべた。
”幸せに怯えていた私を受け止める。だけど言いなりにはならない”
”幸せに負けそうな私を裏切るわ。私は絶対に”
「幸せになる。だから青い月のキセキをちょうだい」
私は彼を引っ張り、母とツクヨミのもとへ駆けていく。
そして母の胸に飛び込み、母の手に彼の手を結びつけ花開く笑顔を向けた。
母は何も言わなかったが、慈しむように目を細め、私をそっと抱きしめた。
やさしい光に包まれて、世界が収縮していく。
遠ざかる白いキセキの世界を忘れないと、私は彼に寄り添って目を閉じた。
***
「――ん。――ちゃん」
目を開くより先に聴覚が私を呼ぶ声を拾う。
光に溶け込んでいた感覚からゆっくりと現実に戻っていき、重たい瞼をあげる。
「時羽様」
「……っ緋月」
一番に彼を見つけて、私は涙を流しながらくしゃっと笑った。
鬼の血と戦うことは苦しかったが、私と彼の手は繋がったまま。
これからの未来、何も怖くなかった。
ようやく肩の力を抜くことが出来、窓の向こう側に見える青い月に感謝した。
「時羽ちゃん! 大丈夫か!?」
ベッドに乗りこんで凪子が前のめりに顔を覗き込んでくる。
それに私はうなずき、まばたきを繰り返して涙を止めた。
「凪、ありがとう」
「べ、別に……アタシは何も……」
「凪が背中を押してくれたから。勇気をくれてありがとう」
全部本心だ。
余すことなく伝えたいと言葉を考えたが、口から出てくるのは単純な「ありがとう」だった。
凪子は照れくさそうに首の後ろをかき、まんざらでもないといった様子でニッと笑った。
「ど、どうなるかと思った……」
薫が輸液パックと私たちを見比べ、胸をなでおろす。
輸液パックに入っていた彼の血はなくなっており、意識すれば私の中に鬼の血が溶けこんだことに気づいた。
嫌っていた鬼だが、私の中にも鬼がいる。
悲しいこと、苦しいこと、許せないこと、世の中にはいろんな感情があふれている。
それでも前を向いて進むしかない。
鬼に飲まれずに、憎しみとのケリをつけるのは難しいだろう。
だから鬼はキライでも、鬼を受け止め生きていく。
私は鬼であっても彼がいとおしいのだから、どうしようもない気持ちだった。
その後、薫が興奮した様子で輸血の後片付けをしていく。
身体を起こした私と彼に、薫は医学では説明つかないキセキを見たと熱をあげていた。
しまいにはあやかしについて研究したいと、血のサンプルが欲しいと言い出した。
薫がいなければこうも上手くいかなかった。
お世話になったと協力したいところだが、さすがに疲れがたまっており今は無理だと断った。
「それは当然です」と、顔は得意げに医師としての矜持を語りだすも、好奇心は捨てられないようで、医者をやめてあやかしの研究者になろうかと本気で考えだしていた。
だって今までも幸せだったのに、彼だけを見つめることの出来たこの一か月は、最高の喜びに満ちていた。
私は姫というフィルターもなく、ただの時羽として彼を見つめることの出来た奇跡の時間だった。
(ツクヨミ! 私は鬼を受け止める! あなたの力も、全部私のものよ!!)
彼の向こう側にある窓から月明かりが差し込む。
日は落ちて、藍色の空に浮かぶ大きくて丸い青の月。
いつも見せる姿よりずっと大きくて、特別な姿だった。
部屋を光で覆いつくすほどの強い光が私の身体から溢れ出す。
それは彼から出ていた黒い炎をも飲み込んで、星のまたたきが降ってくるようにやさしく包み込んだ。
真っ白な空間で私と彼がポツンと立っている。
繋がれた手を彼が引き、視線を追うとその先にはたくさんのシロツメクサが咲いていた。
”お母さま……?”
青い月を背景に母が立っている。
その隣には白銀の髪をした夜のように深い瞳の女性。
何も語らぬ姿を見て、私はそれがツクヨミであることを悟った。
”裏切るよ”
私はツクヨミに向かって強がりの笑みを浮かべた。
”幸せに怯えていた私を受け止める。だけど言いなりにはならない”
”幸せに負けそうな私を裏切るわ。私は絶対に”
「幸せになる。だから青い月のキセキをちょうだい」
私は彼を引っ張り、母とツクヨミのもとへ駆けていく。
そして母の胸に飛び込み、母の手に彼の手を結びつけ花開く笑顔を向けた。
母は何も言わなかったが、慈しむように目を細め、私をそっと抱きしめた。
やさしい光に包まれて、世界が収縮していく。
遠ざかる白いキセキの世界を忘れないと、私は彼に寄り添って目を閉じた。
***
「――ん。――ちゃん」
目を開くより先に聴覚が私を呼ぶ声を拾う。
光に溶け込んでいた感覚からゆっくりと現実に戻っていき、重たい瞼をあげる。
「時羽様」
「……っ緋月」
一番に彼を見つけて、私は涙を流しながらくしゃっと笑った。
鬼の血と戦うことは苦しかったが、私と彼の手は繋がったまま。
これからの未来、何も怖くなかった。
ようやく肩の力を抜くことが出来、窓の向こう側に見える青い月に感謝した。
「時羽ちゃん! 大丈夫か!?」
ベッドに乗りこんで凪子が前のめりに顔を覗き込んでくる。
それに私はうなずき、まばたきを繰り返して涙を止めた。
「凪、ありがとう」
「べ、別に……アタシは何も……」
「凪が背中を押してくれたから。勇気をくれてありがとう」
全部本心だ。
余すことなく伝えたいと言葉を考えたが、口から出てくるのは単純な「ありがとう」だった。
凪子は照れくさそうに首の後ろをかき、まんざらでもないといった様子でニッと笑った。
「ど、どうなるかと思った……」
薫が輸液パックと私たちを見比べ、胸をなでおろす。
輸液パックに入っていた彼の血はなくなっており、意識すれば私の中に鬼の血が溶けこんだことに気づいた。
嫌っていた鬼だが、私の中にも鬼がいる。
悲しいこと、苦しいこと、許せないこと、世の中にはいろんな感情があふれている。
それでも前を向いて進むしかない。
鬼に飲まれずに、憎しみとのケリをつけるのは難しいだろう。
だから鬼はキライでも、鬼を受け止め生きていく。
私は鬼であっても彼がいとおしいのだから、どうしようもない気持ちだった。
その後、薫が興奮した様子で輸血の後片付けをしていく。
身体を起こした私と彼に、薫は医学では説明つかないキセキを見たと熱をあげていた。
しまいにはあやかしについて研究したいと、血のサンプルが欲しいと言い出した。
薫がいなければこうも上手くいかなかった。
お世話になったと協力したいところだが、さすがに疲れがたまっており今は無理だと断った。
「それは当然です」と、顔は得意げに医師としての矜持を語りだすも、好奇心は捨てられないようで、医者をやめてあやかしの研究者になろうかと本気で考えだしていた。
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