上 下
67 / 115
第六章 波打ち際のゴーレム

第五十六話 ゴーレムジェスチャー

しおりを挟む
とりあえず病気、病気かー。
 ここに来る前だと、伝染病といえばインフルエンザやノロウィルスとかそういうウィルス的な物によって引き起こされてたわけだけど。
 こういうウィルスだと空気感染とか、経口感染とかだよね。
 でもインフルエンザは結構狭い空間で密閉されてる空間だよね。
 うん。この村の家は隙間風がそこそこある。
 オレのいた世界の常識がどこまで通じるかわからないけど、海が近い以上乾燥からはかけ離れた地域だし空気感染はないと仮定しよう。感知魔法を使うに、空気からはあの毒は感知出来ないし。人に感染しないと感知効かないかもしれないけど、そこは後で考えよう。
 じゃあ次は経口感染の疑い。ようは毒物を口にしたら感染した可能性。食中毒だ。
 でも食事を見るからに火をちゃんと通してたんだよね。
 衛生面はあるかもしれないけど、食器とか洗ってたし。使い終わったお皿も煮沸してた。この辺はこの村の人たちも考えている様子。
 ・・・異世界の最近も熱で死ぬのか?
 
「森守様、いかがなされましたか?」

 ジュードか。実はこいつも病気にかかってたんだけど体力があったからかな?病気は発症してても効かなかった様子。
 他にも村の中では、ジュードと同じくらいの大人達には病気の兆候は見られなかった。感知でよく見ると、かかってたけど。
 もう一度見てみるか。
 ・・・・うん。今は毒になってないな。

「な、何かありましたでしょうか?」

 ああ、ごめんね睨んじゃって。気にしないで。
 首を振って、肩をすくめる。

「そうですか、安心しました」

二人並んで村の中に立ちすくむ。
 こいつら普段何を食べてるんだ?
 聞いてみるか。
 オレは食べ物を食べるジェスチャーをして首を傾げる。

「え?ああ、はい。大変おいしく頂けました。村の者達も皆満足そうでした」

 ちっがーう!オレは普段食べてる物の事が聞きたいの!
 今度は料理をして、盛り付けるようなジェスチャーをする。

「ええと、ブラッディーオックスは焼いても美味しいのですが煮込んで食べると絶品です。普段は群れで行動していて、危険で近寄れませんがたまに群れからはぐれた弱ってる個体を見つけることが出来て捕まえるんです。山々や森林。平原などをひたすらに走り回る彼らの肉は油のノリが良く保存にも適しています。今頃は燻製にしているでしょう」

 だからちがーう!あんな暴れ牛の事なんてどうでもいいの!
 オレは普段君たちが食べている物の事が知りたいの!
 くそう!ここの世界の字でも書ければ地面に書くのに!
 あ、地面に書く。地面に描く!
 オレはブラッディーオックスを真似て地面に描いた。

「えーっと、ブラッディーオックスですか?」

 下手で悪かったな。
 オレは頷くと、バッテンをその絵に描いた。

「ブラッディーオックスはダメ。と?」

 あはは、オレは両手を地面につけてうなだれたさ。

「森守様!いかがなされた!森守様!」

 気にしないでくれ。オレはもう、コミュニケーションは諦めることにするさ。



 眠らないけど、寝床を用意された。
 ぎゃ、逆に落ち着かねえ。
 だって寝れないんですもん。しかもベッド用意されても、オレが寝っ転がったらベッド折れて割れて潰れるに決まってるじゃん!重力魔法を駆使して上手く壊さないように寝っ転がったさ!あ、寝床の床板はすでに踏み抜いちゃいました。すぐに穴を塞いでくれましたけど。なんかすいません。
 妙齢の犬耳の女性と人間の女性にお布団をかけられた時にはドキドキしました!はい!ドキドキしましたよ!
 布団とかもいらないんですけどね!
 人が離れたら速攻寝床から外に出ました。ジュードがいました。お前は寝ろよ。
 とりあえずここから動かない旨を何とか伝えて、ジュードも休むように指示しましたけどね。くそう、この村来てからジェスチャーしまくりだぜ。
 最後に苦笑しながら『おやすみなさい』と離れていったから良しとしよう。


 
 翌朝、オレは行動を開始した。
 まず、水を疑った。
 この村に流れ込んでいる小川だ。
 くそう。オレが樹海で探した時は全然見つからなかったのに。
 感知の魔法を使ったが、分かる範囲では異常は見られなかった。

 次は井戸水だ。井戸を何か所か覗き込んだらジュードが井戸の場所を全部案内してくれた。場所を教えてくれるのは助かった。この村、探知も感知も効きにくいんだもん。
 結局井戸にも異常は見られなかった。
井戸も川も大丈夫、身振り手振りでジュードに教えると安堵の表情を浮かべていた。
他の連中も同様だ。オレが井戸を回り始めていると、気が付くと大名行列みたいになっていた。離れてくれ、歩きにくい。オレが転んだだけで君たち潰れて死にますからね?
 あと行く先々で拝まれるのもなんか嫌だ!
 会う人会う人にお礼をされるのはむずがゆいのです。

続いてオレが向かったのは調理場だ。
この村は個々人の家には調理場が無い家もあるそうだ。村全体で狩りを行い、村全体で農業を行う。そしてそれを纏めて管理しているそうで、食料の調理は一か所で賄われているらしい。
意外と天井が高く、扉も広かった。大型の獣などを搬入したりもするからだそうだ。
そこで初めて、オレの感知に毒物が引っかかった。
麦か?よく分からないけど穀物だ。
これが原因のようだ。オレは手を掲げてまとめて置いてあった麦を解毒することにした。

「森守様、これが病の原因だったのですか」

 オレは頷いた。しかし、この麦の束にも解毒が必要な束とそうでない束があるように見える。収穫場まで案内してもらうことになった。



 麦の収穫場、要は畑だ。
 村の端、海側からはかなり離れていて木々で囲まれている。この場所を確認すると異常ははっきりと見て取れた。
 汚染されていたのは土壌だ。しかも、麦畑にそれが集中している。
 だが、それ以上に酷い場所を見つけた。
 おそらく堆肥を作っている場所であろう。動植物のカスが集められて山になっている箇所だ。
 麦畑は範囲が広かった為、そこの解毒には時間がかかった。
 解毒って畑とかにも効くんだね。

 堆肥を調べる。まだ解毒は行っていない。
 原型の残っていない肉片が多く、またそれぞれは感知に引っかからない程度の毒素しか持っていなかった。

「微量の病の元を持った生き物をここに集中していたから、そこから肥料を通じて土壌に撒かれて僕たちはそれに気づかずに接種し続けてしまっていた。といったところでしょうか」

人間の青年が呟いた。
その一言に全員の視線が集中する。
それだ!お前頭いいな!

「だが、そうなるとどこから集めた生き物が毒素を持っているか知らなければならないな。ここには村中で出たゴミが集まってきているのだから」
「そうですね。僕達が生き残るには。やはり食べなければなりませんから」

 村から出れば感知の魔法を広く使えるから、一旦出てみる事にしようかな。
 オレは足を農場の外に足を向ける。

「お供します」
「「「「お供します!」」」」

 30人くらいが元気よく声を揃えた。
 わー、面倒臭い。
しおりを挟む

処理中です...