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第13話 回想2
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「さて、無駄話してるほど暇じゃないの。そろそろ蹴り戻すわよ」
「蹴るの!?」
女性はその御御足を前に出すと、足の裏を見せていた。
なめらかな足裏はミルクよりも白く、何処か官能的だった。
と惚けている場合では無いと、蒼太は顔を振る。聞かなければならないことはまだ多くあるのだから。
「記憶、記憶はどうなるんでしょうか」
「知らない」
「じゃあチートとかっていうのは……」
「チート?」
その言葉に女性の眉が僅かに上がる。
そして目を閉じ、直ぐにあぁとつぶやくと、
「チートって言うのね。なんでもいいけど……欲しいの?」
「欲しいです!」
食い気味に蒼太が言う。急に距離を詰められた女性は、怪訝そうに一歩下がると、
「わ、わかったわ。じゃあどんなのがいいの?」
「どんなのって、なんでもいいんですか?」
「ええ、大して変わらないもの」
そのやる気の見られない口調に蒼太は疑いを持っていた。
流石神様だと手放しに褒めればそれでいいのだろう。しかし蟻がどれだけ騒いだところで所詮蟻の世界の話。自分には痛くも痒くもないという態度を取られるとふつふつと怒りに似た感情が湧いてくる。
……いや、ダメだ。ここで機嫌を損ねるわけにはいかない。
胸に手を置いて、気持ちを落ち着かせる。遊びじゃないんだ、今後の人生がかかっているのだから裏をかいてなんてギャンブルは出来ない。
「じゃあ──」
そこまで言って蒼太は固まる。第一候補は凄い魔法を使えるようになることだった。凄ければ凄いほどいい。しかしそれだけでどうにかなるのだろうか。
見た目も重視したいし、生活レベルも下げたくない。要するになんでも出来れば良かった。
「早く言いなさいよ」
苛立ち、無いはずの床を鳴らす音がする。
まずい。早くしないと何も得ないまま蹴り飛ばされる。
問題は上手く言葉をまとめられない事だった。だらだらとあれもこれもと言ったら呆れて拒否されるかもしれない。なるべく短く、それでいて最大の利益を。
「──僕の知ってる物語の能力を全部ください」
「ん、全部ね。じゃあ行ってらっしゃい」
──それだけ?
驚いている間に胸板に足が触れる。ちょんと触れるような感触なのに身体は均衡が崩れたとでも言うように無抵抗に倒れていく。
床は無くなっていた。落ちて堕ちて、墜ちてからぐっと浮き上がる。
「もう来んじゃないわよぉ」
薄れゆく意識の中で、誰かが何かを話していた。
「ん……」
瞼を透けて通る光に蒼太は目を覚ます。
……眩しいな。
はっきりとしない意識の中、目よりも耳や鼻が多くの情報を拾っていた。
喧噪の音や土埃の匂い。これは何だ、と意識を覚醒させていくが問題があった。
身体が、動かない。
指一本、それどころか満足に肺を動かすことすらできない。息苦しさも痛みもないのに生体活動の全てが止まっているようだった。
まるでゾンビにでもなったかのようだと、蒼太は困ってしまっていた。唯一助かったと思うことは記憶だけはしっかりとしていることだった。
自分が死んだこと、神様に出会ったこと、転生したこと。全てがしっかりと覚えている。ならばやることは一つだ。
ステータスを見ようと思い、目が開かないことを思いだす。意味がないかと考えてもっといい方法を思いついていた。
――スキャン、対象は自分自身。
心の中でそう唱えると、脳内に情報の羅列が叩きこまれていく。必要なもの不必要なものとざっくばらんに提示され続けてしまいその整理に時間がかかる。
……なるほど。
五分ほどの時間をかけて現状を把握していく。身体が動かない原因はすぐにわかり、動くのならばため息を漏らしていたことだろう。
簡単に言えばチートが競合しているせいでエラーを吐いていた。幽体であり実体があり、液体であり珪素生物である。それでは身体が動かないのも仕方がない。
ちゃんとチートをくれたことに感謝したいが、アフターケアが抜けていた。まずは一部チートのオンオフか封印が最優先事項となっていた。
幸いなことにそういうチートも備わっている。一気にオフするわけにはいかないため、試行錯誤しながら最善の身体に近づけていく。
「ん……こんなもんかな」
約二時間。最後に胸に突き刺さった粗悪な槍を引き抜いてから痛覚を復活させれば全ての調整は終わっていた。
――スキャン、周辺。
目で見るよりも正確で広範囲な魔法を使い、状況を確認する。
……ああ。
予想していた中で最悪な部類の返答が返ってくる。
そこは戦場だった。呑気に死体ごっこをしている間に競り合いは終わっていて、今は死体と巻きあがった砂しかない。蒼太もその死体の一つだった。もっとも肉体の前の持ち主の魂が抜けて、そこに蒼太が間借りした形になっていた。
転生なのか転移なのか。判断に困るが重要なのはそこではない。
胸に空いた傷は既に治してある。身体は前の持ち主のままだったのでメタモルフォーゼで前世の身体に作り変えていた。
……これからどうしようか。
新たな命を得た。しかしそこは今までの常識が通用しない世界のようだ。学校に行き就職し、そんな未来は望めない。
幸いなことに力だけはあった。金についてもどうにかなる。
「まずは街探しかな……」
蒼太は立ち上がって辺りを見渡す。背けたくなるほどに悲惨な現場の中でその目は未来を見据えていた。
「蹴るの!?」
女性はその御御足を前に出すと、足の裏を見せていた。
なめらかな足裏はミルクよりも白く、何処か官能的だった。
と惚けている場合では無いと、蒼太は顔を振る。聞かなければならないことはまだ多くあるのだから。
「記憶、記憶はどうなるんでしょうか」
「知らない」
「じゃあチートとかっていうのは……」
「チート?」
その言葉に女性の眉が僅かに上がる。
そして目を閉じ、直ぐにあぁとつぶやくと、
「チートって言うのね。なんでもいいけど……欲しいの?」
「欲しいです!」
食い気味に蒼太が言う。急に距離を詰められた女性は、怪訝そうに一歩下がると、
「わ、わかったわ。じゃあどんなのがいいの?」
「どんなのって、なんでもいいんですか?」
「ええ、大して変わらないもの」
そのやる気の見られない口調に蒼太は疑いを持っていた。
流石神様だと手放しに褒めればそれでいいのだろう。しかし蟻がどれだけ騒いだところで所詮蟻の世界の話。自分には痛くも痒くもないという態度を取られるとふつふつと怒りに似た感情が湧いてくる。
……いや、ダメだ。ここで機嫌を損ねるわけにはいかない。
胸に手を置いて、気持ちを落ち着かせる。遊びじゃないんだ、今後の人生がかかっているのだから裏をかいてなんてギャンブルは出来ない。
「じゃあ──」
そこまで言って蒼太は固まる。第一候補は凄い魔法を使えるようになることだった。凄ければ凄いほどいい。しかしそれだけでどうにかなるのだろうか。
見た目も重視したいし、生活レベルも下げたくない。要するになんでも出来れば良かった。
「早く言いなさいよ」
苛立ち、無いはずの床を鳴らす音がする。
まずい。早くしないと何も得ないまま蹴り飛ばされる。
問題は上手く言葉をまとめられない事だった。だらだらとあれもこれもと言ったら呆れて拒否されるかもしれない。なるべく短く、それでいて最大の利益を。
「──僕の知ってる物語の能力を全部ください」
「ん、全部ね。じゃあ行ってらっしゃい」
──それだけ?
驚いている間に胸板に足が触れる。ちょんと触れるような感触なのに身体は均衡が崩れたとでも言うように無抵抗に倒れていく。
床は無くなっていた。落ちて堕ちて、墜ちてからぐっと浮き上がる。
「もう来んじゃないわよぉ」
薄れゆく意識の中で、誰かが何かを話していた。
「ん……」
瞼を透けて通る光に蒼太は目を覚ます。
……眩しいな。
はっきりとしない意識の中、目よりも耳や鼻が多くの情報を拾っていた。
喧噪の音や土埃の匂い。これは何だ、と意識を覚醒させていくが問題があった。
身体が、動かない。
指一本、それどころか満足に肺を動かすことすらできない。息苦しさも痛みもないのに生体活動の全てが止まっているようだった。
まるでゾンビにでもなったかのようだと、蒼太は困ってしまっていた。唯一助かったと思うことは記憶だけはしっかりとしていることだった。
自分が死んだこと、神様に出会ったこと、転生したこと。全てがしっかりと覚えている。ならばやることは一つだ。
ステータスを見ようと思い、目が開かないことを思いだす。意味がないかと考えてもっといい方法を思いついていた。
――スキャン、対象は自分自身。
心の中でそう唱えると、脳内に情報の羅列が叩きこまれていく。必要なもの不必要なものとざっくばらんに提示され続けてしまいその整理に時間がかかる。
……なるほど。
五分ほどの時間をかけて現状を把握していく。身体が動かない原因はすぐにわかり、動くのならばため息を漏らしていたことだろう。
簡単に言えばチートが競合しているせいでエラーを吐いていた。幽体であり実体があり、液体であり珪素生物である。それでは身体が動かないのも仕方がない。
ちゃんとチートをくれたことに感謝したいが、アフターケアが抜けていた。まずは一部チートのオンオフか封印が最優先事項となっていた。
幸いなことにそういうチートも備わっている。一気にオフするわけにはいかないため、試行錯誤しながら最善の身体に近づけていく。
「ん……こんなもんかな」
約二時間。最後に胸に突き刺さった粗悪な槍を引き抜いてから痛覚を復活させれば全ての調整は終わっていた。
――スキャン、周辺。
目で見るよりも正確で広範囲な魔法を使い、状況を確認する。
……ああ。
予想していた中で最悪な部類の返答が返ってくる。
そこは戦場だった。呑気に死体ごっこをしている間に競り合いは終わっていて、今は死体と巻きあがった砂しかない。蒼太もその死体の一つだった。もっとも肉体の前の持ち主の魂が抜けて、そこに蒼太が間借りした形になっていた。
転生なのか転移なのか。判断に困るが重要なのはそこではない。
胸に空いた傷は既に治してある。身体は前の持ち主のままだったのでメタモルフォーゼで前世の身体に作り変えていた。
……これからどうしようか。
新たな命を得た。しかしそこは今までの常識が通用しない世界のようだ。学校に行き就職し、そんな未来は望めない。
幸いなことに力だけはあった。金についてもどうにかなる。
「まずは街探しかな……」
蒼太は立ち上がって辺りを見渡す。背けたくなるほどに悲惨な現場の中でその目は未来を見据えていた。
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