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第14話 回想3
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蒼太は自身に透明化の魔法をかけて、飛翔する。
雲と同じ高さまで飛んでから眼下を見下ろすと、地平線までがよく見える。
……おお。
原風景というのだろうか。自然が多く残る景色に目を奪われる。
山が、川が、草原が、砂漠が。人の手の入っていない光景が心を強く動かす。
魔法があって初めて見える景色に高揚した気持ちが抑えられない。恐怖心は魔法で消していた為、童心に帰ったように風景を目に焼き付けていた。
しかし人の営みがない訳では無い。小規模ながら随所に人工物が見え、煮炊きの煙が立ち昇っている。のどかな農村と言った感じに気持ちが安らぐようだった。
……でもなぁ。
真下には先程まで戦乱があった。その事実が生易しいだけの世界でないことを表している。
今の蒼太なら負けることはおろか、傷つくことすらないだろう。一方的な蹂躙なら簡単だが、それをするなら理由が必要だ。
なんにせよ、一人では生きにくい。話の通じる人と出会い、社会に溶け込むことが急務だった。
滑空し、辿り着いた村を見て回る。滅多に人が来ない所だと怪しまれる可能性があるため透明化したままだ。
結果としてそれで正解だと、小さな村を一周した蒼太は思った。
近くで戦争をしていたのだ。殺気立った雰囲気が如実に感じられ、敗残兵だろう、逃げてきた人々を私刑する様子もあった。慣れているのか女子供も怖がるどころか、何人かは参加するほどだった。
血煙の臭いが色濃く根付いている。平和とは程遠い世界に来てしまったことに蒼太はげんなりと肩を落としていた。
姿を見せなかったのは他にもあった。それは姿かたちがよく知る人のものとは相違があったからだ。
獣の耳を持ち、獣の毛を持つ。中には二足歩行という以外獣としか思えないような者もいる。そんな中で人間が入り込んだら一発でよそ者とわかってしまう。
まさかここにはそういうものしか居ないのだろうかという危惧はすぐに払拭されていた。殺されて転がる敗残兵の死体がよく知る人の姿をしていたからだ。
……来る場所間違えたなあ。
気持ちいいとは言えない光景を尻目に、蒼太は早々に空の旅へと飛び立っていた。姿を消しても存在が消える訳では無い。目敏い者が何人か足音だけしていることに不審に思っていたので急ぐ必要もあった。
何度目かの着陸を経て、蒼太はお目当ての街を見つけていた。
ここまで数時間が経過している。既に日は落ちて、夜霧が出る時間になっていた。
街中に入り情報を集めていた蒼太は一度門から外へと出ていた。堅牢な城壁に囲まれた街は三方に出入口を設けているがそれ以外で入る手段は基本ない。
通行手形のようなものはなく、代わりに通行税を納めるだけで誰でも場内に入ることが出来た。蒼太はコピーした小銭を握りしめて、入国を望む列に並んでいた。
別に律儀に金を払う必要はなかったが、何かあった際に証拠になればいいなというくらいの軽い気持ちだった。
「次の方」
並んで数十分。サクサクと列が消化されていき、次は自分の番というところまで来ていた。
「名前は?」
革で急所を隠しただけの兵士が蒼太の前に立つ。腰に帯びた剣は抜き身で、かがり火の灯りをきれいに反射させていた。
「蒼太です」
「ソウタね。どっからきたの?」
予想していた問いに蒼太はよどみなく答えていた。
「南の村からですよ。戦争で被害があったんで、四男以下は外へ行けって」
「あぁ、口減らしか。それでたどり着くなんて運がよかったな」
「早く戦争なんて終わってくれればいいんですけどね」
「そりゃ無理だな。千年続いたんだ、あと千年はやるんじゃないかな」
……千年?
蒼太は己の耳を疑い、次に目の前の男の頭を疑った。千年もこんなくだらないことにリソースを使い続けるのか。誰か止める人はいなかったのか。
蒼太は心の中で毒づきながらも、愛想笑いを浮かべて、
「そ、そうですよね。誰か止めてくれればいいんですけどねぇ」
「期待は出来ないけどな。中で売るようなものは持ってるか?」
「ないですね」
だろうなと、男性は苦笑する。
蒼太は指定の金額だけ手渡してそそくさと街の中へ入っていこうとしていた。その後ろから、
「あ、そういえばこれからどうするか決まっているのかい?」
「えっと……」
決まっていると答えれば追及はないことがわかる。しかし親切心で相談に乗ろうという彼の意志を無下にするのが忍びないのと、まだ何も知らないことを思い出して、
「……とりあえず宿と仕事、ですよね?」
「そうだな。こっちに伝手は?」
「……ありません」
あるわけがない。
伏し目がちに蒼太が答える。その様子は今後の見通しがたっていない不安を抱えた少年そのままの格好だった。
──好感度、上昇。
あまりこういう使い方したくないんだけどと、思いながらも蒼太は魔法を使う。洗脳にならない程度に出力を抑えて。
「そうだよな。宿ならいくつか紹介できるが仕事となると……いちばん簡単なのは兵士になることだが──」
男性は蒼太を舐めるように上から下を見る。そして言いにくそうにしてから口を開いた。
「──あんまり食わせて貰えてなかったんだな。農村だとよくある話だ、気にすんな」
勝手に自己完結して納得されたことに、蒼太は苦笑することしか出来なかった。
雲と同じ高さまで飛んでから眼下を見下ろすと、地平線までがよく見える。
……おお。
原風景というのだろうか。自然が多く残る景色に目を奪われる。
山が、川が、草原が、砂漠が。人の手の入っていない光景が心を強く動かす。
魔法があって初めて見える景色に高揚した気持ちが抑えられない。恐怖心は魔法で消していた為、童心に帰ったように風景を目に焼き付けていた。
しかし人の営みがない訳では無い。小規模ながら随所に人工物が見え、煮炊きの煙が立ち昇っている。のどかな農村と言った感じに気持ちが安らぐようだった。
……でもなぁ。
真下には先程まで戦乱があった。その事実が生易しいだけの世界でないことを表している。
今の蒼太なら負けることはおろか、傷つくことすらないだろう。一方的な蹂躙なら簡単だが、それをするなら理由が必要だ。
なんにせよ、一人では生きにくい。話の通じる人と出会い、社会に溶け込むことが急務だった。
滑空し、辿り着いた村を見て回る。滅多に人が来ない所だと怪しまれる可能性があるため透明化したままだ。
結果としてそれで正解だと、小さな村を一周した蒼太は思った。
近くで戦争をしていたのだ。殺気立った雰囲気が如実に感じられ、敗残兵だろう、逃げてきた人々を私刑する様子もあった。慣れているのか女子供も怖がるどころか、何人かは参加するほどだった。
血煙の臭いが色濃く根付いている。平和とは程遠い世界に来てしまったことに蒼太はげんなりと肩を落としていた。
姿を見せなかったのは他にもあった。それは姿かたちがよく知る人のものとは相違があったからだ。
獣の耳を持ち、獣の毛を持つ。中には二足歩行という以外獣としか思えないような者もいる。そんな中で人間が入り込んだら一発でよそ者とわかってしまう。
まさかここにはそういうものしか居ないのだろうかという危惧はすぐに払拭されていた。殺されて転がる敗残兵の死体がよく知る人の姿をしていたからだ。
……来る場所間違えたなあ。
気持ちいいとは言えない光景を尻目に、蒼太は早々に空の旅へと飛び立っていた。姿を消しても存在が消える訳では無い。目敏い者が何人か足音だけしていることに不審に思っていたので急ぐ必要もあった。
何度目かの着陸を経て、蒼太はお目当ての街を見つけていた。
ここまで数時間が経過している。既に日は落ちて、夜霧が出る時間になっていた。
街中に入り情報を集めていた蒼太は一度門から外へと出ていた。堅牢な城壁に囲まれた街は三方に出入口を設けているがそれ以外で入る手段は基本ない。
通行手形のようなものはなく、代わりに通行税を納めるだけで誰でも場内に入ることが出来た。蒼太はコピーした小銭を握りしめて、入国を望む列に並んでいた。
別に律儀に金を払う必要はなかったが、何かあった際に証拠になればいいなというくらいの軽い気持ちだった。
「次の方」
並んで数十分。サクサクと列が消化されていき、次は自分の番というところまで来ていた。
「名前は?」
革で急所を隠しただけの兵士が蒼太の前に立つ。腰に帯びた剣は抜き身で、かがり火の灯りをきれいに反射させていた。
「蒼太です」
「ソウタね。どっからきたの?」
予想していた問いに蒼太はよどみなく答えていた。
「南の村からですよ。戦争で被害があったんで、四男以下は外へ行けって」
「あぁ、口減らしか。それでたどり着くなんて運がよかったな」
「早く戦争なんて終わってくれればいいんですけどね」
「そりゃ無理だな。千年続いたんだ、あと千年はやるんじゃないかな」
……千年?
蒼太は己の耳を疑い、次に目の前の男の頭を疑った。千年もこんなくだらないことにリソースを使い続けるのか。誰か止める人はいなかったのか。
蒼太は心の中で毒づきながらも、愛想笑いを浮かべて、
「そ、そうですよね。誰か止めてくれればいいんですけどねぇ」
「期待は出来ないけどな。中で売るようなものは持ってるか?」
「ないですね」
だろうなと、男性は苦笑する。
蒼太は指定の金額だけ手渡してそそくさと街の中へ入っていこうとしていた。その後ろから、
「あ、そういえばこれからどうするか決まっているのかい?」
「えっと……」
決まっていると答えれば追及はないことがわかる。しかし親切心で相談に乗ろうという彼の意志を無下にするのが忍びないのと、まだ何も知らないことを思い出して、
「……とりあえず宿と仕事、ですよね?」
「そうだな。こっちに伝手は?」
「……ありません」
あるわけがない。
伏し目がちに蒼太が答える。その様子は今後の見通しがたっていない不安を抱えた少年そのままの格好だった。
──好感度、上昇。
あまりこういう使い方したくないんだけどと、思いながらも蒼太は魔法を使う。洗脳にならない程度に出力を抑えて。
「そうだよな。宿ならいくつか紹介できるが仕事となると……いちばん簡単なのは兵士になることだが──」
男性は蒼太を舐めるように上から下を見る。そして言いにくそうにしてから口を開いた。
「──あんまり食わせて貰えてなかったんだな。農村だとよくある話だ、気にすんな」
勝手に自己完結して納得されたことに、蒼太は苦笑することしか出来なかった。
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