転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

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第33話 かしまし三人旅2

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 結局飲食店は匂いを頼りに探す羽目になった。
 ただ一つ問題が浮上していた。想像以上にエメリアが有名だったため、店のある大通りを通れば周囲の目を否が応でも集め、探す以前にたどり着くまでに気疲れを起こしていた。
 仕方なく、手近なところにあった店舗に逃げ込んだ三人は、店側にお願いをして個室に通してもらっていた。向こうもカーサらを一目見て事情を察したのか、深く尋ねることなく案内をしていた。
 席について、それぞれが適当に注文をする。カーサは軽食を、エメリアは肉料理で、紫鬼は酒とつまみになるものを数種類。まとまりのない注文にも嫌な顔一つせずにオーダーを通し、しばらくして運ばれてきた色とりどりの料理に三人は手をつけていた。

「ん、味はまあまあね」

 炒って辛く味付けしたナッツとチーズを口にしながらカーサは感想を述べる。

「そうだな」

 同じく、丁寧に切り分けて鶏肉を口に運ぶエメリアも、表情を崩さずに淡々と手を動かしていた。
 そんな中紫鬼だけは酒の味に満足しているようで、笑みを浮かべながらゆっくりと唇を湿らせる様は絵になっていた。
 口数少なく、ある程度食事を終えた辺りでサービスのジュースで喉を潤した二人は一息つく。いまだ小さく酒宴《しゅえん》を続ける紫鬼を傍目に、さてと、カーサは前置きして、

「状況の整理をしましょうか」

「何かやりたいことがあるんだろ? 私もとりあえず同行させてもらうぞ」

「いいの? 私としては助かるけど」

 予想していなかった言葉に、カーサは上ずった声を上げる。
 ……なんでかしら?
 連れ立ったのは事実だったが目的も話していない状況でエメリアが先に同行を言うメリットは何もない。むしろ適当なところで解散する可能性のほうが大きかったため驚きを隠せずにいた。
 その理由を、エメリアはなんの感慨もなく話す。

「主上からな、後宮を出る前に何をやらかすかわからないから監視するようにと命を受けているんだ」

 蓋を開ければそんなことかと、カーサは落胆する。

「子供じゃないってのに」

 ふてくされ、むくれながらひとりごちると、テーブルに置かれたグラスを掴んで一気に呷《あお》る。苛立ちを表に出さないために大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる必要があった。

「それで、したいこととは?」

「そうね、まずは後宮を無くすことは優先したいわ」

 問われ、即答した。
 苛立ちの大半がソウタの魔法によって引き出されたものだとしても、この濃霧のような灰色の感情を晴らさずに前に進む気は起きない。

「ずいぶんぶっこんでくるな」

 話を聞いていたエメリアが、付け合わせの野菜を弾きながらつぶやく。
 否定する言葉が飛び出てこなかったのは彼女自身思うところがないわけではないからだった。そこはカーサと同じで、

「いや、もう限界でしょ。むしろいままでよく持ったほうだと感心するわ」

「それはそうだが」

 エメリアが歯切れ悪く頷いていた。
 ……わかってたんならさぁ。
 カーサは固いチーズを口の中で転がしながら毒づく。
 元々無理があったものをどうにか型に押し込んで維持しようとしたのが今の後宮だった。型が壊れても内容物があふれても成り立たない脆弱《ぜいじゃく》なシステムに縋《すが》るほうが間違っていた。
 誰が発端でできたのか、目的自体は理解できてもアフターフォローがなくては片手落ちだ。ソウタもソウタで改善などする様子もなかったことから最初からこうなることすら予測されていたのかもしれなかった。
 ……わかんないなぁ。
 ただそれに頭を悩ませるよりも他にやりたいことがカーサには多くあった。

「後宮のことは後回しでもいいわ。なんか勝手になくなってそうだし。それよりも今熱いのは新大陸についてよね」

「行く気か?」

「もちろん。こんな楽しそうなことから目を逸らすなんてできないわ」

 エメリアの問いかけにカーサは首を前に倒して力強く肯定していた。
 彼女はそれを聞いて、グラスを傾けてから、

「やめておけ。ただ死ぬだけだ」

「やりたいこともやらずに生きているほうがつらいわよ。それに新大陸を調査出来ているってことは何らかの方法があるってことじゃない」

「……どうだかな」

 実情を知るエメリアは否定的な態度を崩すことはなかった。
 ……まぁそうよね。
 カーサもそれに目くじらを立てるようなことはしない。現実を見ているのは間違いなくエメリアで、カーサはまだ夢を語っているにすぎない。自殺したいわけではないのだからちゃんとした道筋を立てて彼女を納得できなければ、新大陸に行けるとも思っていなかった。

「他にはまだあるのかしら?」

 次に尋ねたのは紫鬼だった。

「喫緊《きっきん》のこととしては村に帰らなきゃいけないと思うのよね」

「里帰りか」

 伏し目のままエメリアがつぶやく。
 黙して多くを語らない彼女とは対照的に、紫鬼は笑みを浮かべて話を膨らませていた。

「小人族の村ねぇ。どういうところなの?」

「どういうって、大したところじゃないわよ? 魔物が出る森の中にちょっとした集落があるだけ」

「よくそんなところで生きていけるな」

「生きていけるわけないでしょ。大人になれるのだって五人に一人くらいしかいないのよ。その分たくさん産んで生き残った何人かが次に繋げているの」

 その言葉に嘘はなかった。カーサと同時期に生まれた子で今生きている者は一人もいない。多産であるのはそうでもしなければ全滅が見えていたからだった。
 もっと安全なところへ行くこともできない。そこは他の種族の縄張りで、簡単に殺される弱い小人族にとって逃げ場がない拠点を構えることは自殺と同じことだった。
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