転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

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第34話 かしまし三人旅3

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「やけに少ないな」

「もう慣れたけどね。戦争しているときはもっとひどかったみたいだし」

「大変ね、どこも」

 ……大変、って。
 大変などという一言で片付く問題ではないが、抱えている内容がそれぞれ違いすぎてそう形容せざるしかなかった。
 暗い話が続き、三人の目線が下がる。それを嫌ってカーサはわざとらしい明るい声色で、

「紫鬼はどこから来たの?」

「私は東の山のほうよ」

「じゃあ先にそこに寄ってから私の村へ行く感じになるわね」

「あら、いいの?」

 紫鬼の問いかけにカーサはうなずく。そして声をひそめて、

「……たぶんだけど、報告しないとまずい人がいるんじゃない?」

「まぁ、そうね……」

 苦笑いを浮かべる彼女は誤魔化すように酒を口に運ぶ。
 後宮から追い出されただけでなく、一族に伝わる衣装まで駄目にしたのだ。すくなくとも説明責任はあるはずだった。それはカーサも同じで、
 ……あっ。
 ふと、長老の言葉を思い出す。後宮での不祥事など気にも止めなくとも、あの馬鹿兄を連れて帰らないと間違いなく不機嫌になる。どうにかして連れて帰りたいがもう後宮から出てしまったので足取りが掴めなくなっていた。
 ……会わなかったでやり過ごすしかないわね。
 どうせ確認する術などないのだからと、言い訳を用意したカーサは残ったチーズを大口を開けて放り込む。食への感謝の祝詞《のりと》を述べると、視界の隅で見つめているエメリアに気付く。

「何よ?」

「いや、どうして後宮への風当たりが強いのか気になってな。もうお前には関係の無いことだろう」

 彼女の言葉に紫鬼もそうねと頷いていた。
 ……そんなに変かしら?
 二人のきつい視線に、カーサは唇を持ち上げる。

「だって気持ち悪いじゃない。人形遊びみたいで」

「だからもう関係ないだろ。それとも嫌がっている知人でも後宮にいるのか?」

「いない、けど……」

 それは居ないはずだ。聞いていないし、見知った顔もなかった。
 ……あれ、なんでだろ。
 冷静になればなるほど腑に落ちない。あの場所に行くより以前に出会った人などいないはずなのに。
 ただ唯一、一方的に顔を、存在を知っているのが──

「ソウタ」

 その名前を呟いた瞬間、曇った空を突き抜けた落雷が頭上に直撃したような痺れを感じていた。
 ……馬鹿ね、私も。
 今更になってようやく思いに気付いてカーサは頭を横に振る。それを見ていたエメリアが、

「主上がどうかしたか?」

 単純な疑問をカーサに向けていた。
 思わず笑う。挑戦的な笑みを投げて、

「ごめん、私もソウタが欲しくなったみたい」

「はぁ!?」

「あらあら」

 途端に色めき立つ。エメリアは拳をつくり強く握りしめて、今にも机をたたき割りそうだった。それを紫鬼は身体を離して見つめ、口に微笑を貼り付けていた。

「だめだ!」

 エメリアは一呼吸で断言する。

「なんでよ」

「……小人族はろくでもない奴しかいない。主上にそんな奴を近づけさせる訳にはいかないんだ」

「ここに来て種族差別? ソウタが聞いたら失望するんじゃない?」

 彼の名前にエメリアは息を飲んで言葉を詰まらせる。
 後宮にいたということは誰であれチャンスだけはあった。つまりソウタがそれを受け入れていたということになる。エメリアの一存で一種族だけを排除できないということはソウタの本意にそぐわないということだった。
 融和政策をしている以上当然のことで彼女自身もわかっている事だ。それでもカーサに敵意を向けたのは、
 ……ま、いい顔するようになったんじゃない?
 顔を赤くして唇を噛み締めるエメリアを見てカーサはふぅと小さく息を吐く。今は政治などのしがらみのないただの女子会。普段言えないことを吐露できる場所だった。
 睨みつつも黙る彼女を見かねて、紫鬼が横から口を挟む。

「でもどうするの? 後宮からも追い出されてしまったし、そもそも小人族って人間族との間に子を成すことって出来るの?」

「子供? そんなのいらないけど」

「えっ?」

 カーサが手を振って否定すると、紫鬼は首を傾げながら、

「主上のことが好きなのよね?」

「残念ながらそうなのよ」

 なにが残念だと毒づくエメリアを横目に紫鬼は話を続ける。

「でも子供は欲しくないのね」

「当たり前じゃない。ソウタはこの戦乱の世の中を静めた英雄なのよ。それなのに役目が終わったらあんなところに閉じ込めて、恥ずかしくて仕方がないわ。私だったら外へ連れ出してもっと素晴らしいものを見せてあげられるのに」

「なるほど。愛情は愛情でも友愛のほうなのね」

 紫鬼はグラスを口に運ぶ。ゆっくりと舌の上で転がしながら味わったあとに、エメリアのほうを向いて、良かったわねと告げた。
 その姿にカーサは阿呆ねと言った。

「私なんて見た目は人間族の五、六歳程度しかないのよ? それに欲情する人間なんていないのになに心配してるんだか」

「主上のお気持ちじゃなくてお前がどう思っているかが問題なんだよ」

「子供ねえ……あと十年はいらないかしら」

「お前、本当に後宮に何しに来たんだよ」

 エメリアはため息をつきながらも微笑んでいた。
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