半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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ダンジョンってこうやって出来るんですね(吐血)2

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「ていうか相手方の要求ってなんなんですか? カルト集団だってことくらいしか知らないんですよね」
 良くも悪くも進展のないまま5分が経過し、生来の堪え性のなさから舞が尋ねていた。犯人らは何もかもをひっくり返して現金をかき集めているところ、生き残っているのは完璧に拘束されている優男といたいけな少女とあっては見張りも1人、それで十分だと思われており、軽い内緒話程度なら気付かれる道理もなかった。
 否が応でも聞こえる声は、やれ早くしろだの、まだかかるのかなど、計画が順調には行っていないようで、苛立ち混じりの罵声が飛び交っている。遠くからサイレンの音も聞こえることから焦りが手を遅らせ口ばかりが悪くなる。
 その彼はこそ、昼に新堂が言っていたダンジョン原理主義団体である。縄で縛られる時に本人が言っていたので間違いなかった。
「ダンジョンが出来たのは地球が求めているからであり、人間は淘汰されるべきって考えだね。要求はダンジョンの管理を止めてモンスターが外へ溢れるようにしようって感じかな」
「それに一体なんの意味が……?」
「それは彼らに聞くのが1番早いんじゃないかな」
 波平の台詞はどこまでも代わり映えがなく、1を入力すれば1を出力する機械のようで面白みに欠けていた。この状況で爆笑でもすればその結果は自ずと知れたことだが、ユーモアのひとつもないと異性にはモテないだろう。
「へいそこのダンディーさん、少しお話よろしいかな?」
「……」
 かといって真に受けて本当に質問をするのはどうなのだろうか。小銃を構え指示を出している男に恐れ知らずの舞は声をかける。
 黒の目出し帽に迷彩服、どこかの軍人崩れかコスプレにも見える彼は、舞の問いには答えずただ目線だけを下げていた。
「お宅らの希望がなんなのかさっぱりでね、どうせ暇なんでしょちょっと煙草でも吸いながら――!?」
 言葉を言い切る前に返答があった。小銃の先から煙を吐いて、数分ぶりに轟音が響く。
 狙いは正確に舞の腕を貫いていた。肉片がはじけ飛びおびただしい量の血液が後ろの壁を染め上げる。
「――! ……ふぅ、ふぅ……」
「夜巡さん!?」
「発言を許可した覚えは無い」
 言葉より先に手が出るタイプだったようだ、もしくは相当に焦っているか。
 銃撃されたことのない舞は想像以上の痛みに、それでも泣き喚いたりはせず呼吸を整えていた。だらだらと流れ落ちる血は床まで到達し、小水を漏らしたように粘性の液体が広がっていく。
 ……おかしい。
 痛覚のアラートが後頭部を殴り続ける中、舞はとある仮説を思い付いていた。まだ確証はないが試す価値はあると躊躇わずに口を開く。
「……短気ねぇ。ふぅ……モテないよ……」
 言い終わりに1歩、2歩と近付く迷彩服の男性。天井のライトを隠すように掲げられた腕を見て舞の仮説は確証に変わる。
 ゴチッ、という鈍い音とともに意識は刈り取られ、
 ……狙いは私だ。
 数多の人を殺しているのに何故か生かされていること、人質なら1人で十分なのに2人を残していること、そして――。
 それ以上考えることは出来ず、舞は俯いたまま気絶していた。
「……やりすぎじゃない?」
 その1連の流れを口も出さずに見ていた波平は、怖気付いていた様子もなく親しみを込めて小銃を構える男性に聞く。その顔はまさに計画通りにことが運んでいるとほくそ笑んでいるようで、
「生きていればいい。そうだろう、同士よ」
 男性の声を聞いて楽しそうに頷いていた。
 


 ピンチという言葉では語り尽くせないほど危機的状況の舞とは違い、未だ机に伏せている新堂の元へ長身の女性が立ち寄っていた。
「課長、舞ちゃん知らない?」
「知らん」
 辛である、彼女もまた他所の部署、特にその類稀なる身体能力を買われ実働1部にかかりきりになって姿を見せずにいた。が、戻るなり舞は何処だと言うあたりたいそうお気に入りの人形を探す子供のよう。
 そんな辛の質問を新堂は短い言葉で一蹴する。彼の中で舞と話した記憶は寝ぼけていて無くなっており、額に貼ってあった付箋もその粘着力を無くし寝返りをうったときにくしゃっとなってどこへやら。十分すぎるほど仮眠をとってようやく身体を起こすまでに回復したのか、変な体勢で寝ていた身体のこりを伸ばすように両手を大きく天へ向けていた。
 おまけに長い欠伸をひとつ、やる気という言葉を投げ捨てた新堂の態度に辛はため息をひとつ漏らす。
「そんな適当なこと言って。波平君の姿も見えないし」
「2人でどっか行ってんだろ。もしかしてホテルとかな」
「下品なこと言う口は溶かしてくっつけますよ」
 冗談だと分かっていてもそういうことは言うものでは無い。辛は仏のような優しい笑みを浮かべつつ指先を新堂にむけると、空気中の湿気を吸収してやかんが湯気を吹き出すような音と煙を立ち上らせる。
 その1滴が手に触れただけで穴が開くほどの強い酸は脅しには十分すぎるほどの効力を発し、ひぃとなんとも情けない声を出して新堂は仰け反る。薬品臭い匂いが鼻につき、このままではなにかの間違いが起こらないとも限らないと嫌になるほどぱっちりと開いた目でいち早く謝罪する。
「すまん、すまん。激務すぎて頭働かねえんだ」
「珍しいですね、何かありました?」
 問われ、新堂は下唇を噛んで目を逸らす。そのまま頭を抱えようとした手は宙をさまよってから拳を作り、指を1本、トントンと机を叩く。
 顔を近づけろという合図だ。逆らう理由もないため辛が少し屈むと、
「……オフレコなんだがい号ダンジョンが民間へ払い下げになるって言うんでその準備に幹部職員全員が駆り出されてたんだよ。競合も多く金だけじゃなくてちゃんと管理出来るかも問われるから色々とな」
「そんな大規模ダンジョンなんて手に入れて管理出来るんです? 得するようなものでもあるのかしら?」
「さあな。うちの部長ですら真面目に参加してるんだ、余程のことだってことしか分からねぇよ」
「まぁ……」
 悲しきかな、狂島が真面目に働いているというだけで無限の説得力が生まれるのだから。
 ともかく想像を超えた激務であることだけはしっかりと伝わったようで辛納得して頷いていた。そこへ対面に座っていた戸事がパソコンの縁から顔をのぞかせる。彼女もまた他所の部署から戻ってきたばかりだった。
「課長……外線です」
「ん、誰からだ?」
「それが……分からなくて……小湊って言えば――」
 名前を聞いた瞬間、新堂は目にも留まらぬ速さで受話器を持ち上げるとそのまま叩きつけるように元へ戻す。まるで浮気相手からの連絡を隠す夫のような機敏さを見せ、彼はスマホだけを手に取って立ち上がる。後暗いことがある、と如実に伝える行為だが、そもそも後暗い人しか部内にいないのが虚しい。
「えっ――」
「すまん、席空ける」
 呆気にとられ固まる戸事へろくな説明もせず、新堂は誰もいない部屋を目指して足早に立ち去っていた。
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