半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

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ダンジョンってこうやって出来るんですね(吐血)4

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「……波平さん」
「どうしたの?」
「演技……下手ですね?」
「……どういう意味かな?」
 これ以上は耐えきれないと舞はおぶさりながら笑っていた。そして肩を外して強引に縄から片腕を引き抜くと、痛みも知らない風を装い波平の首に腕を回す。
「止まれっ! 言う事聞かないとこの首へし折るわよ!」
「……何しているんだ?」
 驚いた様子もなく、強盗の集団は舞を見る。
 見世物じゃないんだけど……。
 少なくとも人質が反抗するという状況に対して髪の毛1本程の厚さも慌てる様子もなく、むしろ子供が駄々をこねているようなしょうがないという親の目線が降り注ぐ。
 ならお望み通りにしてやろうかと気炎を吐く舞をよそに、
「まさかバレるとは思わなかったんだ。見てみなよ、この顔で大学入試に受かったなんて信じられないでしょ」
「すごい自然に罵倒するじゃない――!?」
 言いきらせても貰えず、波平はお辞儀をするように舞を投げ飛ばす。その上で舞を足蹴にして、勝ち誇った表情で見下ろしていた。
「ぐっ――」
「あまり大人をからかうなよ、おチビちゃん」
「そういうことは煙草のひとつくらい吸わせてくれる配慮を持ってから言ってよね」
「ここに来て煙草煙草、あんなもの遠回しな自殺でしかないでしょうに。そんなに吸いたいならいくらでも吸わせてあげるよ」
 そう言って取り出したるはいつの間にかに奪われていた舞のポーチである。喫煙具しか入っていないそれから、あぁもったいない、刻まれた煙草の葉を掴むと黙らせるように舞の口に押し込む。
「むぐっ」
 細かい葉が喉に刺さる、ろくに呼吸も出来ないまま、再度抱えられた時だった。
「じゃあ移動しようか――」
 ぐらりと揺れる、それは次第に大きさを増していき、地震というものに慣れ切った日本人でも、いやだからこそだろうか危機感を覚えるに十分なほどの規模だった。
 立っていることすら出来ず波平は舞を投げ捨て地に手をつく。潰れた蛙のような悲鳴を背景に、それから訪れる奇妙な光景に息を飲む。
 壁が迫り上がる、いや波平たちが落ちているのだ。
「な、なんだ!?」
 誰かが声を上げる。ほかも声に出さなくとも気持ちは同じだった。
 銀行の壁は崩れ内側に降り注ぐ。それだけで何人かが、既に死体だった人も含め潰されていく。天井すらも崩れだした頃、代わりに赤茶けた大地がドームのように、あぎとを広げて飲み込んでしまう。
「……良かったじゃん」
 長い、長い揺れが収まり酷い砂埃が舞う。蛍光灯は割れたか電気の供給がなくなり、暗闇のなかを非常灯の緑の灯りだけが頼りなく霞んでいた。
 その中でようやく口の中から葉を吐き出した舞が笑う。
「あんたたちの大好きなダンジョンが、お迎えに来たよ」
 誰が受け取れたかも分からない言葉は闇の中へと吸い込まれていた。


「ダンジョンが出来ただぁ!?」
 口は災いの元という言葉があるように、冗談であっても、いや冗談だからこそそれが現実になってしまった時、やってしまったと深く後悔するのだ。執務室に戻った新堂は今まさに膝から崩れ落ちそうになっていた。
 ただの銀行強盗ならば自分は関係ない、情報だけでも仕入れておくかとスマホでニュースの中継を垂れ流していた時だった。軽く地面が揺れたかと思えば画面上で大地が捲り上がり、蟻地獄のように銀行が崩れ飲み込まれていく。合成映像のような現実味のない光景を目にして、思わずまだ寝ているのかと頬を叩く程に。
『突然出来たダンジョンですが、中にはまだ犯人と囚われた人がいると思われます。また、近くで銃声を聞いたという話から犯人は武装していると思われ――』
 ニュースキャスターが告げる声が遠い。新堂の悩みなど置いて、画面は強盗が入る前の映像に切り替わっていた。
 数人が出たり入ったり、どうやら防犯カメラの映像であり、
「あれ……これ舞ちゃんじゃない?」
 背後から盗み見していた辛がぬっと顔を前に出す。団子のように2つ並んだ顔は画面に映る小さな少女へと注がれていた。
『囚われた人の中にはまだ幼い子供も含まれているようで警察によりますと犯人からの要求は――』
 可哀想に、これで舞は幼子として全国に知れ渡ってしまった。今後あらゆる場所で強盗に巻き込まれた子供という扱いを受けるだろう。
 などと笑っている場合ではない。本当に強盗が起きていることよりもその後に起きたことのほうが影響が大きかった。
「……これも舞ちゃんの仕業かしら」
「……有り得ねぇだろ、っていいたいなぁ。言ってもいいかなぁ?」
「私も同意見よ。他より1歩先を行ってると思っていた会社もまだまだだったってことかしら」
 謎多き少女のような成人女性、自在にダンジョンを生やせるとなれば隠し通すよりも殺処分すら検討しなければならない。そう考えれば新堂が頭を抱えたくなることも仕方がなかった。
「だけどこれならうちの領分だ。すぐ六波羅部長呼んで突入するぞ」
「波平君も大丈夫かしら」
 辛の取ってつけたような言葉に新堂は苦笑する。まるで舞の添え物のような扱いにお前はそういう奴だよなと納得までしてしまう。
 その時、
「――それなんだけどね」
「うわっ!?」
 2人の間を掻き分けるように生えた生首が突然声を出したのだから驚いて飛び上がる。特に新堂は着座していたせいで椅子から転がり落ち、臀部の強打に苦悶の声を上げていた。
 こんな時、こんなことをするのは1人しか居ない。人事部部長、狂島だった。
「……驚きすぎじゃない? 流石に傷付くよ?」
「いや……」
「それよりどうしたんですか?」
 一応一刻を争う状況に無駄話は厳禁と辛が話を振る。
 神出鬼没、何を考えているか分からないとぼけ顔の狂島はうーんと唸り、顎に指を当てる。戸事あたりがすれば可愛らしくも見えただろうが、中年過ぎのおっさんの媚びた仕草は悪い意味で目に毒だった。舞が同じ仕草をしても、腐った臓腑から臭いが漏れ出るように、怪しさばかりが目につくことだろう。
 ここに来て言い淀む理由はないはずなのに、そういう所が信用されない原因だとわかっていないようで、痺れを切らした辛が口を開く前にようやく狂島は言う。
「波平君なんだけど、どうやらダンジョン原理主義団体の構成員みたいなんだよね」
「……ふぅ。どこに着地するよう言われてますか?」
 ピリッと空気にヒビが入る。慣れない真面目な顔をした新堂の声色は低く、しばし思考した後に出た言葉に狂島はやれやれと首を振る。
「全部更地にしろだってさ、勝手なこと言って困っちゃうよね」
「何が――」
 状況の変化に戸惑う辛に、新堂は真っ直ぐ見つめ返す。そして、
「後にしろ……いや、ついてくるな。ここからは気分の悪いな仕事だよ」
 やれやれと言いたげにスーツのジャケットを羽織っていた。
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