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ダンジョンってこうやって出来るんですね(吐血)8
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記録の海を泳ぐ。手足は動かず、漂うというほうが正しいか。
悠久の時を見てきた。全てが生きて死んでいく。地球とはこれほどまでに大きく暖かいものだったのか。
塗りつぶされる、消されていく。全が一に向かい、個人が背負うには重すぎるものがのしかかる。
……そうか、そもそも――。
そして波平の意識は消えていった。
「舞ちゃん! ……舞ちゃん!?」
コアルームに多数の足音が響く。外からやってきた面々はそこに広がる光景を見て言葉を失っていた。
四肢が切断、断面から血を流し元の形も分からなくなった遺体が多数、その表情は恐怖にゆがめられ、どんな名医が見たとしても助かる見込みは無いと判断することだろう。
その遺体の海の中、2人の男女がいた。波平と舞である。波平は腹に大きな赤い模様を描き、顔色は青白く生気がない。しかし病に伏せるでもなく2本の足で立ち、向けた目線は以前と変わらぬ様子である。
反面舞はスーツに皺を寄せ、砂埃で元の色も分からなくなるほど薄汚れていた。地べたへ仰向けになり水泳後のような汗を流し、こちらの方が息も絶え絶え、苦しげに小さな声で唸っていた。
そして波平を挟むように立つ石像、ガーゴイルと呼ばれるダンジョン下層から現れるモンスターはその石の鉾を血で染め、各所に散らばるランタンの灯りに照らされていた。
心配で来た辛もその足を止め、最初とは意味合いの違う声色で舞の名を叫ぶ。そこにどれだけの意味が含まれているのか、それは海よりも深く暗い底に沈み誰にも分からない。
「や……ほー。ベスト……タイミング……」
果たしてその言葉は本当なのか、少なくとも舞の中では真である。
地を這う手が首をあげ、ひらひらと返事をする。手首には痛々しいほどの縄の痕があり、その原因は鋭利なもので斬られたように近くに転がっている。
薄い胸を激しく上下させる舞を後から追いかけてきた新堂が見る。その視線はすぐに行き止まりの部屋を一周し、
「こりゃまた……死屍累々だこと」
「しょうがない……ね。温厚な人が怒ると……ふぅ、怖いってこと、だよ」
舞は息を整えそのまま指を指す。そこには波平がいたが、彼は浅い笑みを浮かべたままどこというわけでもない場所を見ていた。
「波平……? どうしたんだ?」
まるで壊れたマネキンのよう、かろうじて呼吸をしていることは肩の上下でわかるが、他に反応らしい反応を示さない。何も映らぬ瞳を見て恐れるように後ずさる新堂を見て、息を整えた舞がようやく立ち上がり、その汚れた服を払う。
「よいしょっと。仇がいなくなってちょっと整理中なんでしょ。そのうち再起動するよ」
「パソコンじゃないんだからよぉ……」
雑な物言いはいつもの舞らしく。何もわからない新堂と辛、そしてなんとなくついてきていた戸事は所在なさげに目線をさまよわせていた。
……どうすっかなぁ。
無言が空間を支配する中、これからを考え新堂は頭を痛くする。懐に忍ばせてあるものを使う一番の機会であることは重々に承知していて、しかしこのまま話も聞かずに狂島の言う通りにすべきか、そんなことを悩む彼の表情はコロコロと変わっていくが、薄明かりの下では誰にも気づかれることはなかった。
その時である。
「課長……」
固まっていた波平が瞬きをして声をかける。そう、今まで瞬きすらしていなかったのだから浮世離れした、精神病を患った患者の描いた絵を見ていたような、言いようのない不気味さを感じていたのだった。
「おう、何があった?」
「色々と。すみません、迷惑かけて」
先程まではなんだったのかと自分の頭を疑いたくなるほどあどけない笑みを浮かべる波平はペコペコと何度も頭を下げる。そういう人形のようであり、また彼の人となりが変わっていないことを示していて、新堂は安堵にため息をつく。
「ホントだよ。で、言い残すことはあるか?」
そう言って取り出したのは黒光りする拳銃だった。
手に収まる程度でありながら十分な殺傷能力を備えたそれは真っ直ぐに波平の眉間を捉える。後は引鉄を引くだけで、結果は語らずとも明白だった。
「課長!?」
何かの冗談だとでも思ったのか、らしくもなく一瞬固まっていた辛が叫ぶ。勇み前へ出ようとする彼女を戸事が必死で止めようとするが体格差もあってか引きずられてしまっていた。
「言っただろ、気分の悪い仕事だって。い号ダンジョンを手に入れる手前、身内にテロ組織の関係者がいましたなんて言えるわけがねえ。分かるだろ、これも会社のため、給料のためなんだよ」
「そんな、仲間でしょう!?」
「先に裏切ったのはこいつだ。文句言うなら着いてこなきゃ良かっただろ」
問答は加熱を始め、その勢いは新堂の狙いを変えそうなほど。そんな中舞は何をしていたかと言うと、疲労から立っているのも気だるげ、横に立つ波平の足を壁代わりにして寄りかかると彼のポケットから愛用のポーチを抜き取り、やけに薄くなったそれに舌打ちしながら紙巻たばこを1つ、口に咥えて火をつける。
ふう、と一息、たちまち至福の表情に変わるが、その吐き出した煙のほとんどが波平の顔にかかる。毛嫌いしていたはずの煙にも眉ひとつ動かさない彼に、舞は見上げて言う。
「ね、言ったでしょ。素直に死んでおけば良かったって。2回も撃たれるなんて運がないね」
「そうだね。僕も驚いているよ」
悠久の時を見てきた。全てが生きて死んでいく。地球とはこれほどまでに大きく暖かいものだったのか。
塗りつぶされる、消されていく。全が一に向かい、個人が背負うには重すぎるものがのしかかる。
……そうか、そもそも――。
そして波平の意識は消えていった。
「舞ちゃん! ……舞ちゃん!?」
コアルームに多数の足音が響く。外からやってきた面々はそこに広がる光景を見て言葉を失っていた。
四肢が切断、断面から血を流し元の形も分からなくなった遺体が多数、その表情は恐怖にゆがめられ、どんな名医が見たとしても助かる見込みは無いと判断することだろう。
その遺体の海の中、2人の男女がいた。波平と舞である。波平は腹に大きな赤い模様を描き、顔色は青白く生気がない。しかし病に伏せるでもなく2本の足で立ち、向けた目線は以前と変わらぬ様子である。
反面舞はスーツに皺を寄せ、砂埃で元の色も分からなくなるほど薄汚れていた。地べたへ仰向けになり水泳後のような汗を流し、こちらの方が息も絶え絶え、苦しげに小さな声で唸っていた。
そして波平を挟むように立つ石像、ガーゴイルと呼ばれるダンジョン下層から現れるモンスターはその石の鉾を血で染め、各所に散らばるランタンの灯りに照らされていた。
心配で来た辛もその足を止め、最初とは意味合いの違う声色で舞の名を叫ぶ。そこにどれだけの意味が含まれているのか、それは海よりも深く暗い底に沈み誰にも分からない。
「や……ほー。ベスト……タイミング……」
果たしてその言葉は本当なのか、少なくとも舞の中では真である。
地を這う手が首をあげ、ひらひらと返事をする。手首には痛々しいほどの縄の痕があり、その原因は鋭利なもので斬られたように近くに転がっている。
薄い胸を激しく上下させる舞を後から追いかけてきた新堂が見る。その視線はすぐに行き止まりの部屋を一周し、
「こりゃまた……死屍累々だこと」
「しょうがない……ね。温厚な人が怒ると……ふぅ、怖いってこと、だよ」
舞は息を整えそのまま指を指す。そこには波平がいたが、彼は浅い笑みを浮かべたままどこというわけでもない場所を見ていた。
「波平……? どうしたんだ?」
まるで壊れたマネキンのよう、かろうじて呼吸をしていることは肩の上下でわかるが、他に反応らしい反応を示さない。何も映らぬ瞳を見て恐れるように後ずさる新堂を見て、息を整えた舞がようやく立ち上がり、その汚れた服を払う。
「よいしょっと。仇がいなくなってちょっと整理中なんでしょ。そのうち再起動するよ」
「パソコンじゃないんだからよぉ……」
雑な物言いはいつもの舞らしく。何もわからない新堂と辛、そしてなんとなくついてきていた戸事は所在なさげに目線をさまよわせていた。
……どうすっかなぁ。
無言が空間を支配する中、これからを考え新堂は頭を痛くする。懐に忍ばせてあるものを使う一番の機会であることは重々に承知していて、しかしこのまま話も聞かずに狂島の言う通りにすべきか、そんなことを悩む彼の表情はコロコロと変わっていくが、薄明かりの下では誰にも気づかれることはなかった。
その時である。
「課長……」
固まっていた波平が瞬きをして声をかける。そう、今まで瞬きすらしていなかったのだから浮世離れした、精神病を患った患者の描いた絵を見ていたような、言いようのない不気味さを感じていたのだった。
「おう、何があった?」
「色々と。すみません、迷惑かけて」
先程まではなんだったのかと自分の頭を疑いたくなるほどあどけない笑みを浮かべる波平はペコペコと何度も頭を下げる。そういう人形のようであり、また彼の人となりが変わっていないことを示していて、新堂は安堵にため息をつく。
「ホントだよ。で、言い残すことはあるか?」
そう言って取り出したのは黒光りする拳銃だった。
手に収まる程度でありながら十分な殺傷能力を備えたそれは真っ直ぐに波平の眉間を捉える。後は引鉄を引くだけで、結果は語らずとも明白だった。
「課長!?」
何かの冗談だとでも思ったのか、らしくもなく一瞬固まっていた辛が叫ぶ。勇み前へ出ようとする彼女を戸事が必死で止めようとするが体格差もあってか引きずられてしまっていた。
「言っただろ、気分の悪い仕事だって。い号ダンジョンを手に入れる手前、身内にテロ組織の関係者がいましたなんて言えるわけがねえ。分かるだろ、これも会社のため、給料のためなんだよ」
「そんな、仲間でしょう!?」
「先に裏切ったのはこいつだ。文句言うなら着いてこなきゃ良かっただろ」
問答は加熱を始め、その勢いは新堂の狙いを変えそうなほど。そんな中舞は何をしていたかと言うと、疲労から立っているのも気だるげ、横に立つ波平の足を壁代わりにして寄りかかると彼のポケットから愛用のポーチを抜き取り、やけに薄くなったそれに舌打ちしながら紙巻たばこを1つ、口に咥えて火をつける。
ふう、と一息、たちまち至福の表情に変わるが、その吐き出した煙のほとんどが波平の顔にかかる。毛嫌いしていたはずの煙にも眉ひとつ動かさない彼に、舞は見上げて言う。
「ね、言ったでしょ。素直に死んでおけば良かったって。2回も撃たれるなんて運がないね」
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