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舞が壊れた日2
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上司に対して縄で縛り付けるなど、不敬な行動を取ったのには舞なりの意図があり、
「部長! ひと月ありがとうございました。仕事溜まってますよね、どんどんください!」
もはや脅迫のように詰め寄るが狂島は助けを求めて視線を横に流す。しかしそこには無情に首を横に振るものしかいなかった。
本来その手の差配は新堂の役目なのだが彼はそっぽを向いて我関せずと態度で示している。その様子を恨めしくみながら狂島はあの笑顔で舞を見ていた。
「残念ながら仕事はないみたい。病み上がりなんだからちょうど良かった――」
「分かりました! では部長の仕事について行きます!」
そう来るか、と狂島はあーと口を開き上を見る。まだ変えたばかりの蛍光灯が煌々と輝くばかりで答えなど貼り付いている訳もなく、
「……えーっとね、部長は部長でやらなきゃいけないことがあるから任せる訳にはいかないんだよ?」
「でも約束しましたよね!? 破るんですかっ!」
いちいち語尾の大きいこと、舞の騒がしさは置いておいて、確かに約束したことを思い出して狂島の表情がはっきりと歪む。
明確に不快を示すことが珍しく、周りも感心するようにおぉと声を上げる。返答を待つ舞に、狂島はため息をついて、
「……わかった、わかったよ。そこまで言うなら着いてきてもらおうかな」
「部長、俺もいいですか?」
教育係としてだろうか、はたまたただの興味本位か、新堂も立候補すると、その横で辛と戸事も小さく手を上げていた。
「……1人は残るように」
もはや狂島には譲歩するしか出来ずにいた。
「で、どこに向かってるんですか!?」
相変わらずの暑苦しさのまま舞が尋ねる。
先を歩く狂島は未だ縄に縛られたままだった。どこかへと連行されている最中の犯罪者のようで、他の職員が見掛けたとしたらとうとうやらかしたのかとむしろ納得されただろうが、運のいい事に道中誰とも遭遇しなかった。
留守番は辛、珍しく譲らなかった戸事とのジャンケンに負けたためだ。4人は各地にある資料部屋となっている小さな倉庫の前で足を止めていた。
開けることの出来ない狂島の代わりに新堂がドアを開く。普段滅多に使われないそこは埃臭い空気が漏れだしている、こんな所になんの用だろうと眉を顰める者たちを置いて狂島が部屋の中に入ると、キャビネットに囲まれた真ん中で足を踏み鳴らす。
「そんな所に?」
「そ。別に隠してる訳じゃないんだけど言う必要ないし、それにそれなりの機密情報があるからむやみやたらと入室許可出す訳にはいかないんだよね」
いわゆる隠し扉があることに新堂は驚き声を上げる。歴で言うなら長い彼ですら知らなかったことだ、社内でも知っているものは少ないことが伺えた。
よくよく見れば床にはちゃんと持ち手の金具がついておりそこだけ不自然に綺麗である。流石にそのままでは不用心だということで小さな鍵穴があり、
「そろそろ縄解いてくれないかな? こんなところ人に見られたら人事部が変人奇人の集まりだと思われちゃうよ」
その危惧はもっと早くにすべきなのだが、悲しきことに普段人前へ姿を見せない彼が知る由もなかった。少し前までは狂島の想像通りの評価だったのに、今年に入って食堂でモンスター食を好む集団、六波羅が気にかけている少女、単身でダンジョンに入り無傷のままダンジョン深層から帰ってくる女など、全ての中心に舞がいることを抜いても事務畑から出てくる話題ではなかった。
悪い意味で1目置かれている、そこへテロ事件となれば次もあるのではと思うのが当然の摂理、よって舞らを見たら蜘蛛の子を散らすように人が遠ざかるという現象が社内の至る所で見られていた。
であれど舞はいくらも気にしたことがなく、そもそも気づいてすらいないのだが、ここまで来て逃げ出すことは無いと思ったのだろう、拘束していた縄を手首のひとひねりで解いてしまう。
ようやく解放された狂島は、ポケットから鍵を取り出して隠された通路を開ける。そこは暗く深く、何が眠っているのか、想像するだけで恐ろしい。
「あ、ダンジョンですね!」
「は?」
異様な雰囲気を垂れ流す空間を見て舞が叫ぶ。
ダンジョンとは何か、未だはっきりと定義が成されていないため、何処からがダンジョンで何処までがダンジョンかの線引きは怪しい。どれが入り口なのかを決めるのは人であり、想定していたよりずっと奥にしかモンスターが湧かないこともある。
だから1目見ただけで判別できるなどありうるはずもなく、新堂は戯言だと決めつけていた。
「……よく分かるね。六波羅君くらいだよ、それが分かるのは」
「え、はい? これ、本当にダンジョンの入り口なんですか?」
「そうだよ? 正確には8つ空いた穴の1つだけど」
しれっと狂島が言うことに空いた口が塞がらないとはこのこと。ダンジョンは物理的に入り口を封鎖してしまえば別のところに入り口ができる。その後元の封鎖を解除すると入り口は減るなどということはなく、2つになるのだ。それを繰り返すこと7回、普通ならとっくに諦めて他の方法を考えるというのに、これでは管理が大変になるだけである。
新しく出来たとはいえまた土石で塞いでしまえば使えなくなる、それは簡単な扉でもいい、つまりは、と新堂は考えて口を開いた。
「メインの入り口は何処にあるんです?」
「調査部の中だよ。と言うよりは調査部の心臓部がダンジョンの中にあるんだけど」
「危なくないですか?」
「この仕事をしていて危なくないことのほうが少ないと思うけど?」
なるほど、それはまた心理であると新堂は頷いていた。
「部長! ひと月ありがとうございました。仕事溜まってますよね、どんどんください!」
もはや脅迫のように詰め寄るが狂島は助けを求めて視線を横に流す。しかしそこには無情に首を横に振るものしかいなかった。
本来その手の差配は新堂の役目なのだが彼はそっぽを向いて我関せずと態度で示している。その様子を恨めしくみながら狂島はあの笑顔で舞を見ていた。
「残念ながら仕事はないみたい。病み上がりなんだからちょうど良かった――」
「分かりました! では部長の仕事について行きます!」
そう来るか、と狂島はあーと口を開き上を見る。まだ変えたばかりの蛍光灯が煌々と輝くばかりで答えなど貼り付いている訳もなく、
「……えーっとね、部長は部長でやらなきゃいけないことがあるから任せる訳にはいかないんだよ?」
「でも約束しましたよね!? 破るんですかっ!」
いちいち語尾の大きいこと、舞の騒がしさは置いておいて、確かに約束したことを思い出して狂島の表情がはっきりと歪む。
明確に不快を示すことが珍しく、周りも感心するようにおぉと声を上げる。返答を待つ舞に、狂島はため息をついて、
「……わかった、わかったよ。そこまで言うなら着いてきてもらおうかな」
「部長、俺もいいですか?」
教育係としてだろうか、はたまたただの興味本位か、新堂も立候補すると、その横で辛と戸事も小さく手を上げていた。
「……1人は残るように」
もはや狂島には譲歩するしか出来ずにいた。
「で、どこに向かってるんですか!?」
相変わらずの暑苦しさのまま舞が尋ねる。
先を歩く狂島は未だ縄に縛られたままだった。どこかへと連行されている最中の犯罪者のようで、他の職員が見掛けたとしたらとうとうやらかしたのかとむしろ納得されただろうが、運のいい事に道中誰とも遭遇しなかった。
留守番は辛、珍しく譲らなかった戸事とのジャンケンに負けたためだ。4人は各地にある資料部屋となっている小さな倉庫の前で足を止めていた。
開けることの出来ない狂島の代わりに新堂がドアを開く。普段滅多に使われないそこは埃臭い空気が漏れだしている、こんな所になんの用だろうと眉を顰める者たちを置いて狂島が部屋の中に入ると、キャビネットに囲まれた真ん中で足を踏み鳴らす。
「そんな所に?」
「そ。別に隠してる訳じゃないんだけど言う必要ないし、それにそれなりの機密情報があるからむやみやたらと入室許可出す訳にはいかないんだよね」
いわゆる隠し扉があることに新堂は驚き声を上げる。歴で言うなら長い彼ですら知らなかったことだ、社内でも知っているものは少ないことが伺えた。
よくよく見れば床にはちゃんと持ち手の金具がついておりそこだけ不自然に綺麗である。流石にそのままでは不用心だということで小さな鍵穴があり、
「そろそろ縄解いてくれないかな? こんなところ人に見られたら人事部が変人奇人の集まりだと思われちゃうよ」
その危惧はもっと早くにすべきなのだが、悲しきことに普段人前へ姿を見せない彼が知る由もなかった。少し前までは狂島の想像通りの評価だったのに、今年に入って食堂でモンスター食を好む集団、六波羅が気にかけている少女、単身でダンジョンに入り無傷のままダンジョン深層から帰ってくる女など、全ての中心に舞がいることを抜いても事務畑から出てくる話題ではなかった。
悪い意味で1目置かれている、そこへテロ事件となれば次もあるのではと思うのが当然の摂理、よって舞らを見たら蜘蛛の子を散らすように人が遠ざかるという現象が社内の至る所で見られていた。
であれど舞はいくらも気にしたことがなく、そもそも気づいてすらいないのだが、ここまで来て逃げ出すことは無いと思ったのだろう、拘束していた縄を手首のひとひねりで解いてしまう。
ようやく解放された狂島は、ポケットから鍵を取り出して隠された通路を開ける。そこは暗く深く、何が眠っているのか、想像するだけで恐ろしい。
「あ、ダンジョンですね!」
「は?」
異様な雰囲気を垂れ流す空間を見て舞が叫ぶ。
ダンジョンとは何か、未だはっきりと定義が成されていないため、何処からがダンジョンで何処までがダンジョンかの線引きは怪しい。どれが入り口なのかを決めるのは人であり、想定していたよりずっと奥にしかモンスターが湧かないこともある。
だから1目見ただけで判別できるなどありうるはずもなく、新堂は戯言だと決めつけていた。
「……よく分かるね。六波羅君くらいだよ、それが分かるのは」
「え、はい? これ、本当にダンジョンの入り口なんですか?」
「そうだよ? 正確には8つ空いた穴の1つだけど」
しれっと狂島が言うことに空いた口が塞がらないとはこのこと。ダンジョンは物理的に入り口を封鎖してしまえば別のところに入り口ができる。その後元の封鎖を解除すると入り口は減るなどということはなく、2つになるのだ。それを繰り返すこと7回、普通ならとっくに諦めて他の方法を考えるというのに、これでは管理が大変になるだけである。
新しく出来たとはいえまた土石で塞いでしまえば使えなくなる、それは簡単な扉でもいい、つまりは、と新堂は考えて口を開いた。
「メインの入り口は何処にあるんです?」
「調査部の中だよ。と言うよりは調査部の心臓部がダンジョンの中にあるんだけど」
「危なくないですか?」
「この仕事をしていて危なくないことのほうが少ないと思うけど?」
なるほど、それはまた心理であると新堂は頷いていた。
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